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065 妹からの相談

 名出さんとホテルを出た。

 双子はこのあと、高額な謝礼をもらって、『占い』とやらをするのだろう。


「……なにが、占いだか」

「どうしたの?」


「いや……そういえば名出さんは、どうして新宿駅に?」

「いつものブラブラだけど?」


 名出さんは、なんでそんな「当たり前な」ことを聞くのという顔を向けてきた。

「そうだった……」


 なぜか高校生は、意味もなく都会をふらつく。

『夢』の中でもそうだった。


 インターネットがないから、連絡を取るにも直接会わないといけないし、家にいてもテレビを見るくらいしか、時間のつぶしようがない。

 家より外の方が、何倍も楽しいのだ。


 そう、今どきの高校生は、ゲーセン、ファミレス、ファストフード店、チェーンの喫茶店をたまり場として、休みの日はもとより、平日でも出没していたのだ。


「でも、暗くなる前に帰るよ。最近、ここも治安よくないしね」

「ああ……チーマーか」


 少し前から、渋谷を中心として、チーマーと呼ばれる若者集団が出没している。

 一面的な見方をすれば、徒党を組んだ不良集団だが、いまいるチーマーたちは原宿にあった歩行者天国、通称ホコ天にいた人たちが流れてきたのではないかと思っている。


 いまはまだ治安が悪くなっている程度だが、これからそれぞれがチームを名乗り、縄張りを主張して抗争を始める。

 これは昔のツッパリ文化が形を変えたものだと思っているが、一般人に迷惑をかける者が続出することで社会問題となっていく。


 ホームレス狩りやおやじ狩りといった言葉が生まれるのも、このあとだ。


「大賀くんは、何しに来たの?」

「大型書店に欲しい専門書を探しに来た。というわけで、ここで解散だな」


「えっ、やだ」

「俺はこれから専門書探しだ。それに付き合うのか? 退屈だぞ」


「う~……でも、せっかくだし、一緒にいる!」

「……変なやつだな」


 離れる気がないようなので、結局俺は名出さんと一緒に書店巡りをした。

 いくつかほしかった専門書を買うことができたが、名出さんの目は途中から死んでいた。




 夜、自室で昼間のことを考える。

「清秋は『占い』と言ったが、あれはそんなレベルじゃなかった」


 占いというのはウソだろう。おそらくは、未来を見通す預言。

 しかも自由度が高く、正確だった。『夢』で結果を知っていたからこそ、そのヤバさが理解できる。


「安易に九星会のことを嗅ぎ回らなくてよかったな」

 簡易的な預言でさえあの精度なのだ。政界、財界にシンパが多数いてもおかしくない。


 探っていることがバレたら、面倒なことになりそうだ。


 ――コンコン

「お兄ちゃん? ちょっといい?」


「冬美か? どうした?」

「あのね、友達のことで、相談したいんだけど」


 ドアを開けて妹の冬美が入って来た。

「なんだ? 別に話を聞くくらい構わないぞ」


『夢』の中だと、妹から相談を持ちかけられることもなかった。

 この頃は兄妹間で、会話などなかったから、当然相談の中身は知らない。


「友達にカレシができたんだけどさ、それが悪い人たちに目をつけられて、困っているみたいなの」

「友達って、同級生か?」


「うん。カレシは近所の仲良かったお兄さんみたい。いま、高二だって。それが地元のチーマーみたいなのに目を付けられちゃったって」


 冬美とその同級生は中二だ。

 彼氏は高二といっても、まだ未成年。


 大人は大人の、そして子供は子供の世界がある。

 たとえ大人から見て「くだらない」と思うような世界だとしても、子供たちには大切だったりする。


「とりあえず、話してみろ」

「うん……」


 冬美から詳しい話を聞いた。

 その彼氏とやらの先輩が、地元の不良集団に属しているらしい。


 舎弟扱いされて使いっ走りをしているうちは良かったが、不良集団の集金システムに組み込まれてしまったようだ。

 これまでもそれなりの金を要求されてきて、そろそろ限界。


 もう、犯罪に手を染めるしかないと思い詰めているらしい。


「馬鹿だな」

 金を要求する方も、それを断れない方も馬鹿だ。普通に恐喝事件ということに気づいていないのか。


「そう言わないでよ。なんとかならないかな」

「ふむ……その不良集団というのは、地元で活動しているのか?」


「うん。そうみたい」

 冬美があげた駅名は、この近くのものだった。


 渋谷や新宿、池袋でチーマーを名乗っているわけでもないらしい。ようは「なんちゃって」だ。

「対処法は、ソフトからハードまでいろいろあるぞ」


 営業時代に培ったノウハウを使えば、脇の甘い連中など、法的に追い込むことができる。

 法を軽視している連中など、ちょっと煽ればすぐに脅迫や暴力に訴えるからだ。


「えーっと……後腐れのない方法って、ある?」

「あるぞ、しばらく鉄格子の中で臭い飯を食わせればいいんだろ?」


「いやちょっと待って! もっと穏便な方法かと思ってた」

「民事と刑事の両方で裁判に勝てるからな。出所後にお礼参りでもしようものなら、本格的に刑務所暮らしだ。人生を棒に振ったと嘆いてももう遅い」


「お兄ちゃん!?」

「彼氏の先輩とやらを恐喝太郎にすればいいんだろ。簡単だ」


「うん……えっと、友達に相談してみるからっ! いまの相談は一旦保留でっ!」

 妹は慌てて部屋を出て行った。


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