冬美から相談を受けた数日後。
妹の友人とその彼氏と会って話すことになった。
どこかの店で……と思ったら、公園がいいという。
公園で立ち話というのは、いかにも中高生らしい。
冬美と一緒に公園で待つことしばし。
妹の友人とその彼氏がやってきた。
彼氏の名前は
脱色した頭髪に、ロゴがデカデカと描かれたTシャツ。
ダブダブのジーパンは、古着のようで、かなりくたびれていた。
この時代、高校生が髪を染めると教師がうるさいのだが、どうやらこれは、先輩に無理矢理、脱色させられたらしい。
彼女は、妹の同級生なので中学二年生。名前は
会った記憶はないが、何度か家に遊びに来たことがあるという。
そんな彼女が、なぜか不思議そうな目を俺に向けている。
「……ども」
彼氏が俺に向かって、小さく頭を下げた。
「大賀愁一だ。とりあえず、話を整理しようか」
これまで彼氏から聞いた話をまとめると、以下のようになる。
二歳上の先輩に目をつけられたのは、今年のゴールデンウィーク頃。
先輩は高校を卒業していて、現在はプー。
プーというのは、無職のことだ。男はプー太郎、女はプー子と言ったりする。
とくに働いていない女は家事手伝い、通称『カジテツ』と表現することがある。実際に手伝っているかどうかは関係ない。
先輩から「仲間に入れてやる」と言われ、自宅に誘われ、そのまま断れない関係がしばらく続き、ある日突然「俺たちが守ってやるから、少し金を納めろ」と言い始めたらしい。
会うたびに数千円。額としてはそれほどでもないが、週に一、二度となると話は違ってくる。
また、パシリをさせられることも多く、自腹で買いに行かされたりもするらしい。
これまで、かなりの額を融通したらしい。
もうお金がなく、友人からのカンパでしのいできた。
これから先、どうすればいいのか。
このままだと彼女にも迷惑がかかるし、自分の友人たちも目を付けられはじめた。
もはや限界だと彼氏は思い詰め、心配した彼女が親友である冬美に相談。
俺のところに話がきたというわけだ。
その先輩とやらの話も聞いたが、中途半端な不良集団の一人といったイメージしか抱けなかった。
本人というよりその仲間か、さらに上にいる奴が問題なのかもしれない。
「早速だが話を進めよう。その先輩から、後輩に声をかけろ、もしくは後輩を集めろと言われていないか?」
「……うっす。言われてます」
一瞬驚いた顔をしたあと、すぐに認めた。
「やはりな。昔からあるやり方だ。その先輩もどこかに属していて、同じように言われている可能性がある」
その先輩の立場からすれば、相手はだれでもよかったのだ。
都合良く顔見知りの後輩が歩いていた、だから声をかけた。そんな感じだろう。
次に先輩が目を付けるのは、後輩の後輩だ。
直接知らなくても、後輩を使って芋づる式に配下に加えられる。
先輩から後輩、またその後輩へ続く集金システムを確立させることで、上が潤うというわけだ。
「このままじゃ、はるかにも迷惑がかかると思って……」
彼氏はチラッと彼女の方を見た。
「そうだな。いくら払おうと、何度払おうと、相手から『もう十分だ』なんて言葉は出てこないだろう」
こういうのは、少額でも、たった一度でも、払ってしまえばもう、関係を切ることはできないのだ。
なんとかするには、徹底的に追い詰めた方がいいと思ったが、彼氏は穏便に事を収めたいらしい。
「どうすればいいんっすかね」
「逆に聞くが、どうしてほしい?」
当事者がどんな決着を望んでいるかが重要だ。
「オレっすか? オレは……先輩とこれ以上関わりにならなければ、それでいいっす……あと、お金が返ってくれば」
「なるほど……それくらいなら、簡単だ。問題ない」
「ホントっすか?」
「時間はかかるが、大丈夫だ」
「お兄ちゃん、安請け合いして、いいの?」
冬美が心配してきた。
「大丈夫だろ。難しい案件じゃない」
「ほー……そうなんだ」
「こういうのは、昔からどこにでもある話だ。対処法は決まっている」
俺がそう言うと、彼氏が「だったら、お願いします」と頭を下げた。慌てて彼女も頭を下げる。
「解決するまで少し日数がかかる。それまで先輩と会わないでいられるか?」
「一週間くらいなら、大丈夫っす」
「問題ない。もし家に来たり、電話があっても、家族に留守だと伝えてもらえ」
「分かりました。そうするっす」
こんな感じで話し合いは終わった。
~大賀冬美視点~
「……はぁ~~」
お兄ちゃんが去ったあと、親友のはるかが、大きく息をはき出した。
「あの威圧感、ヤバい」
大山さんが、額の汗を拭いて、胸をなで下ろしている。
「ねえ、冬美。……あの人、本当にお兄さん?」
「そうだよ。なんで?」
「いつも話してる内容と全然違うじゃん。ガリ勉のひょろ、頭がいいことを鼻にかける陰険な性格っていうのは、何だったのよ!」
「あ~……それは、昔はそうだったというか……なんというか」
「ヤベえって……オレのイッコ下とは思えない」
「だよね。大人っぽいというか、大人みたいっていうか……雰囲気が大人?」
たしかに、はるかの言うことも分かる。
お兄ちゃんが話しているのを横で聞いて、まったく口を挟めなかった。
「でも簡単って……どうするつもりなんだろ」
「そうよね……まさか、特攻?」
「いや、それはない……よな? なんか怖くなってきたんだけど」
大山さんが、身体をブルッと震わせた。お兄ちゃんが、不良相手に無双する……ありえないと思うけど、自信がない。
「お兄ちゃんが大丈夫って言ったんだし、大丈夫だよ」
そう言うしかなかったが、はるかも、大山さんも「そうだよ(だな)」と納得してくれた。
でも本当に大丈夫……だよね?
家にパトカーが来ることだけは、ないようにしてもらいたい。