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067 公園での話し合い

 冬美から相談を受けた数日後。

 妹の友人とその彼氏と会って話すことになった。


 どこかの店で……と思ったら、公園がいいという。

 公園で立ち話というのは、いかにも中高生らしい。


 冬美と一緒に公園で待つことしばし。

  妹の友人とその彼氏がやってきた。


 彼氏の名前は大山おおやま伸幸のぶゆき、高校二年生。俺より一歳上となる。

 脱色した頭髪に、ロゴがデカデカと描かれたTシャツ。


 ダブダブのジーパンは、古着のようで、かなりくたびれていた。

 この時代、高校生が髪を染めると教師がうるさいのだが、どうやらこれは、先輩に無理矢理、脱色させられたらしい。


 彼女は、妹の同級生なので中学二年生。名前は髙橋たかはしはるか。

 会った記憶はないが、何度か家に遊びに来たことがあるという。


 そんな彼女が、なぜか不思議そうな目を俺に向けている。


「……ども」

 彼氏が俺に向かって、小さく頭を下げた。


「大賀愁一だ。とりあえず、話を整理しようか」

 これまで彼氏から聞いた話をまとめると、以下のようになる。


 二歳上の先輩に目をつけられたのは、今年のゴールデンウィーク頃。

 先輩は高校を卒業していて、現在はプー。


 プーというのは、無職のことだ。男はプー太郎、女はプー子と言ったりする。

 とくに働いていない女は家事手伝い、通称『カジテツ』と表現することがある。実際に手伝っているかどうかは関係ない。


 先輩から「仲間に入れてやる」と言われ、自宅に誘われ、そのまま断れない関係がしばらく続き、ある日突然「俺たちが守ってやるから、少し金を納めろ」と言い始めたらしい。


 会うたびに数千円。額としてはそれほどでもないが、週に一、二度となると話は違ってくる。

 また、パシリをさせられることも多く、自腹で買いに行かされたりもするらしい。


 これまで、かなりの額を融通したらしい。

 もうお金がなく、友人からのカンパでしのいできた。


 これから先、どうすればいいのか。

 このままだと彼女にも迷惑がかかるし、自分の友人たちも目を付けられはじめた。


 もはや限界だと彼氏は思い詰め、心配した彼女が親友である冬美に相談。

 俺のところに話がきたというわけだ。


 その先輩とやらの話も聞いたが、中途半端な不良集団の一人といったイメージしか抱けなかった。

 本人というよりその仲間か、さらに上にいる奴が問題なのかもしれない。


「早速だが話を進めよう。その先輩から、後輩に声をかけろ、もしくは後輩を集めろと言われていないか?」

「……うっす。言われてます」


 一瞬驚いた顔をしたあと、すぐに認めた。

「やはりな。昔からあるやり方だ。その先輩もどこかに属していて、同じように言われている可能性がある」


 その先輩の立場からすれば、相手はだれでもよかったのだ。

 都合良く顔見知りの後輩が歩いていた、だから声をかけた。そんな感じだろう。


 次に先輩が目を付けるのは、後輩の後輩だ。

 直接知らなくても、後輩を使って芋づる式に配下に加えられる。


 先輩から後輩、またその後輩へ続く集金システムを確立させることで、上が潤うというわけだ。

「このままじゃ、はるかにも迷惑がかかると思って……」


 彼氏はチラッと彼女の方を見た。

「そうだな。いくら払おうと、何度払おうと、相手から『もう十分だ』なんて言葉は出てこないだろう」


 こういうのは、少額でも、たった一度でも、払ってしまえばもう、関係を切ることはできないのだ。

 なんとかするには、徹底的に追い詰めた方がいいと思ったが、彼氏は穏便に事を収めたいらしい。


「どうすればいいんっすかね」

「逆に聞くが、どうしてほしい?」


 当事者がどんな決着を望んでいるかが重要だ。

「オレっすか? オレは……先輩とこれ以上関わりにならなければ、それでいいっす……あと、お金が返ってくれば」


「なるほど……それくらいなら、簡単だ。問題ない」

「ホントっすか?」


「時間はかかるが、大丈夫だ」

「お兄ちゃん、安請け合いして、いいの?」


 冬美が心配してきた。

「大丈夫だろ。難しい案件じゃない」


「ほー……そうなんだ」

「こういうのは、昔からどこにでもある話だ。対処法は決まっている」


 俺がそう言うと、彼氏が「だったら、お願いします」と頭を下げた。慌てて彼女も頭を下げる。

「解決するまで少し日数がかかる。それまで先輩と会わないでいられるか?」


「一週間くらいなら、大丈夫っす」

「問題ない。もし家に来たり、電話があっても、家族に留守だと伝えてもらえ」


「分かりました。そうするっす」

 こんな感じで話し合いは終わった。




 ~大賀冬美視点~


「……はぁ~~」

 お兄ちゃんが去ったあと、親友のはるかが、大きく息をはき出した。


「あの威圧感、ヤバい」

 大山さんが、額の汗を拭いて、胸をなで下ろしている。


「ねえ、冬美。……あの人、本当にお兄さん?」

「そうだよ。なんで?」


「いつも話してる内容と全然違うじゃん。ガリ勉のひょろ、頭がいいことを鼻にかける陰険な性格っていうのは、何だったのよ!」

「あ~……それは、昔はそうだったというか……なんというか」


「ヤベえって……オレのイッコ下とは思えない」

「だよね。大人っぽいというか、大人みたいっていうか……雰囲気が大人?」


 たしかに、はるかの言うことも分かる。

 お兄ちゃんが話しているのを横で聞いて、まったく口を挟めなかった。


「でも簡単って……どうするつもりなんだろ」

「そうよね……まさか、特攻?」


「いや、それはない……よな? なんか怖くなってきたんだけど」

 大山さんが、身体をブルッと震わせた。お兄ちゃんが、不良相手に無双する……ありえないと思うけど、自信がない。


「お兄ちゃんが大丈夫って言ったんだし、大丈夫だよ」

 そう言うしかなかったが、はるかも、大山さんも「そうだよ(だな)」と納得してくれた。


 でも本当に大丈夫……だよね?

 家にパトカーが来ることだけは、ないようにしてもらいたい。


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