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第三次すすきの抗争01

 2024年。冬の2月。


 時は、昨年末に起きた大騒動を経て年が明けた二月。夏の白黒、妖刀使い、チルドレンの話を経てこれが第四話。その年末、いや、もう少し前か。秋の終わり頃で冬の始め頃。この騒動は六話でまた話すからそれまで楽しみにしておいてくれ。


 今回は少し大きな話になる。街の構図を再認識して理解する意味でも、とても重要な事件になった。


 その始まりは雪が降る夜だった。しんと静まった、静かな、すべての音を雪が飲み込む、白に染まった夜だった。


 男がひとりで歩いていた。雪がしんしんと降りしきる中を歩いていた。


 横に一台の、緑の軽自動車が止まった。中から四人の男たちが出てきて、その男に殴りかかった。ひたすらに痛めつけるだけ痛めつけて殴ってそれから、その男を歩道上に放置して車が去った。


 すぐ犯行声明が出た。‘’リバーサイドボーイズを暴行した我ら集団の名前は『氷永会』である”。そう名乗った。


 これに対して成哉の組とタカの組の両者が動き出した。ヤクザとガキ共、若者集団。静かで激しい牽制。一触即発の事態になってしまった。


「じゃあ、タカサイドの誰かがやったわけじゃないんだな」


 俺は即日氷永会幹部の幼馴染み、同級生のタカに電話を掛けていた。タカも今回の騒動で内部にも外部にも対応をしなくてはいけないらしく、なかなか忙しい身分のようだった。襲撃事件から数日して、俺と話をする時間を作ってくれた。その間も氷永会を名乗る四人組の暴行は何件も続いた。被害者は全員リバーサイドの仲間。全面戦争手前だった。


「そんなの言うまでもない!うちの組は無関係だ!無実だ!」


「そうか。つまりそうなると、どこかの赤の他人が、恐れ多くも市内随一の組の名前を使って暴れまわってると」


「ああ、そうだろうよ。ったく。似たような暴力事件が今日でもう四件だ。そして犯行声明はすべてうちの組の名前が使われている。生業が生業だ。あまりコトを大きくしたくはない。表沙汰にはしたくないが、当然警察は嗅ぎつける。最近はこれをいいことに近くをウロウロしてるよ」


「そうか。濡れ衣なのに、それが最悪の事態になりそうだと、そういうわけだ」


「ああ、存続に関わることにならなければいいんだが」


「わかったよ。俺の方でも、その犯人を探してみる」


「頼むぞ、オーガナイザー様」


 俺は電話を切った。


 電話を切ったその場所は、冬の大通り公園。テレビ塔を眺めながら車が来るのを待っていた。


 その日は一転、よく晴れた日だった。


 冷たく、冷え込んだ空気が、晴れて息を白くさせる。冷え切った空気が、優しくどこまでも続いている気がする。これからさらに冷えに冷えな男が来るのに。


 目の前に一台の車が来た。やはりキンキンに冷えたハイエース。しかし中は暖房のお陰で暖か。ありがたい。もちろん助手席にはクールに冷え切った王様がいらっしゃる。もう冬だと言うのに、どこまで冷えるのか。


「よう、茨戸創。元気にしていたか」


「やあ、雁来成哉。俺は相変わらず元気だぜ」


「出してくれ」


 俺は報告をする。


「本物の氷永会は無実。無関与。手は一切出していないってタカが言っていた。ボーイズを殴ったのは、たぶん組とは無縁の別の奴らだ。半グレにすら該当しない、仲良し若者グループかな。友達の集まりか、ネットで募集して集まった有象無象とか。まあ、そんなところだろう」


「そうか。創が言うならば、そうなんだろう」


「氷永会が手を出してないのは確かだろうよ。あいつの必死な声を久々に聞いた」


「それは良かったな。うちとしても、全面戦争は構えたくなかった。避けれるのなら、それはラッキーニュースだ」


「それで、どうするんだ? 成哉」


「そうだな。犯人は見つけられそうか」


「わからない」


「できないと言わないのは流石だな。そっちは任せた。氷永会とは話をつけておこう。人手が必要なら連絡しろ。いくらでも使って良い」


 お許し貰いました! 社長兼会長兼リーダー様のお言葉は違うぜ。クールで外気より冷え切ったその声は、その軽い笑みは人を殺してしまいそうなほどに鋭くて軽くてキレキレだった。たぶんキレてる。怒ってる意味で。相手はこの街全体を敵に回してるんだ。無理もない。


 車は俺を乗せた全く同じ場所に戻ってきて停まった。成哉が軽く手を上げて扉が閉まり、颯爽と走り去って行った。


 さてと。偉大なる新時代のリーダー様のため、仲間の意趣返しのために犯人探しを始めますかね。


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