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第三次すすきの抗争02

 氷永会は市内最大のヤクザ組合である。65年設立の老舗。裏稼業やら何やらで稼いでいるのは言うまでもない。噂によると最近はコンカフェの経営などで稼いでいるらしいが、さて。魔法少女がいることが売りのコンセプトカフェらしいが、さて。


 揉め事とは常にお友達で、大小含めるといくつもある。大きな事件、抗争と名前がついたのは過去に二回。一度目は96年に若者と衝突した。もう一つは02年に警察と衝突している。それ以降は比較的大人しくなり、夜の街との関係も概ね良好であった。しかし、ヤクザはヤクザなので、暴力的であったり違法的であったりする。人の見ていないところで行われたそれらは、威厳を保つための武勇伝として使われ、語られた。


 2013年頃に入会したタカはその喧嘩の強さ、右のストレート一発で次々に意識を奪い去っていく鮮やかさから一気に幹部にまで登りつめた。以降、数々のヤクザトラブルがタカを通じて俺の所にやってきているってわけ。


 氷永会部員による暴力事件という濡れ衣。真っ赤な嘘で、赤の他人が恐れ多くも「氷永会」の名前を勝手に使った不届き行為であるが、その名前が出ただけで成哉だけでなく警察も動いた。暴力団は徹底排除。存在すら許さず、犯罪行為はすべて断罪すべき。その正義を持つ世間が一斉攻撃。タダでさえ生きる場所を失っているのに、この埒外の不祥事ひとつで消滅の危機。あまりも危機。何が起きてもおかしくない。最悪血が流れる。双方の上が真実を握っていても、話を聞かずに走り出す部下はいつの時代もいる。時間はない。


 この危機にタカは氷永正の命で犯人を殺す気で探している。時間が無い中でわざわざ俺と話す時間を作ったのはそのためだろう。頼れるものは、なりふり構わず頼るしか無いってね。


 つまり、俺は二人の友のためにも、この街のためにも働かなければいけない。急ごう。




 ※ ※ ※




 聞き込みをした。街にたむろしている若者たちだ。この時期は、地下歩行空間にたむろしている事が多い。コロナ明けに起きた事件なんかは、若者たちがとにかく揶揄されてとにかく話題になった。若者が邪魔者扱いされて、街から居場所を失うのは何も今の時代から始まったことではない。他人事なんだよ、当事者じゃないヒトはみんな。


 収穫があった。ボーイズのガキ共からは聞けなかった情報だった。なんでも喧嘩の強い四人組がいると噂。武勇伝を言いふらしている奴らがいると言う。リバーサイドボーイズもヤクザも倒したことがあると自慢げに吹聴しているらしい。


 若いカップルが車を目撃していた。煽り運転が酷かったため、証拠として写真を撮ったという。車の特徴は緑の軽自動車。ぼやけてはいるがナンバーが写っている。なぜその車が四人組の車だと分かったのかと言うと、


「おい。俺たちはこの街で一番強いの知らないのか? リバーサイドもヤクザも倒した。聞いてんのか、おい」


 などと運転席までやってきて言い放ったから覚えていたと言う。そんなことをしてなぜ警察に捕まっていないのか分からないが、警察でさえ捕まえられないバカだとするなら、それは都合がいい。けちょんけちょんに懲らしめたい団体を二組知っているからな。


 俺はすぐに電話をかけた。相手は……迷ったが、成哉にした。まだ相手を確保できたわけじゃない。取次の秘書が電話に出て、名前を名乗って成哉に繋ぐように頼む。


 成哉にはひとり詳しい人間を寄越すからそいつを使えと言われた。車の画像があれば特定できるサイバーな部下がいるとか。さすが。サイバーとか、ネットで調べるのは疎いんだよね。



 ※ ※ ※



 俺は指定された珈琲チェーン店でボーイズを待った。暖かいコーヒーを飲んで。この時ばかりはゆっくり待つしかない。


 やって来たボーイズは大男だった。ラグビー選手みたいにガタイがいい。え、詳しい人間ってこいつ?


「キエン・マツシマと言います」


「これはご丁寧にどうも」


 名刺をもらった。そこには超能力者と書かれていた。俺が疑問に思う前に、彼は手のひらに炎の玉を作り上げて、それから握りつぶして消して見せた。にこっと、仰々しく笑う彼は、なるほど、超能力者らしい。どこかで見たことがあるような気もする。まあ、リバーサイドボーイズの人間なら、出会っていてもおかしくはない。妖刀使いや魔法少女がいるくらいだ。超能力者がいてもおかしくない。


「それで、どうやって探すの?」


「これです」


 カバンから取り出したのはノートパソコンだった。まさかお前が本当にサイバー担当か? 


 ラガーマンみたいな超能力者は、ノートパソコンパカリと広げると、カタカタとキーボードを打ち始めた。そんな薄いやつで大丈夫だろうか。


「見てください。犯人グループのネットへの書き込みです。リーダーから共有された情報を元に見つけました。この掲示板を住処にしてよく書き込んでいるようです。武勇伝とか、依頼と称して次の相手を募集しています」


「狂ってるな。それより、そんなのよく見つけたな」


「今の時代、ネットで自己承認欲求を満たそうとする若者は多いです。目立つことをやるならばなおさら。自分を話題にしたいと思う。そう考えると、見つけるのは簡単なものですよ。素人でもなんとかなります」


 素人以下でごめんね。見るからに肉体脳筋派なのに実は頭脳派でネットにも強い超能力者。俺はオーガナイザーなのに足を動かすだけ。時代錯誤か。せめてものと、写真の画像を見せた。


「移動に使用していると思われる車の特徴とナンバーだ。不鮮明だが、使えるかな。聞き込みをして手に入れたんだけど」


「流石ですね、茨戸さん。どれどれ……なるほど、これなら特定できそうですね」


「なにを?」


「走行している範囲を」


 え、範囲? 車を特定とかじゃなくて? 走ってる範囲?


「出ました」


「……すげぇ。これは、ビンゴだな。見事に暴力事件が起きている四箇所を通っている。なあ、こいつらって呼び出せるか?」


「わかりませんが、言葉次第ではできるかと思います」


「どこに入力すれば良い?」


「ここです」


「了解」


 俺は扇動するような、それでいて相手が動かざるを得ないような言葉を羅列した。小さなウェブライターをやっているので、そういうのは得意だった。まさに十八番である。あとは氷永会の言葉を無断使用すれば完了っと。


「ありがとう。成哉に連絡してくれ。深夜に間に合いそうだ。今夜すべてを終わらせようって」


 そう言って、キエンに成哉へ電話してもらい、俺はタカに電話した。犯人が見つかった。誘い出す。今夜、賭場理場で会おう。





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