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盗撮jkアイアンボトム07

 戦艦比叡は金剛型戦艦の二番艦である。


 激戦が続いた海域で戦い、鉄底海峡、アイアンボトム・サウンドで沈んだとされていた。その最後、海に沈んだときの詳細は長く不明。目撃証言もあまりないとか。まったく記録がないわけじゃないみたいだけど、アメリカの攻撃なのか日本が大破したのを見て駆逐艦等を使って沈めたのか、それとも他の原因で沈んだのかはわからない。爆発大破沈没、あるいは浸水。これまでは浸水して静かに海に沈んだと考えられていたみたいだったらしいけど、二千十九年に行方不明だった船が海底で見つかったと記事で読んだ。先頭が爆破して吹き飛んでいたと書いてあったのを憶えている。攻撃を受けて沈んだのだろうか。


 戦争のために作られ戦争で役目を終えて沈んだ艦。そして大激戦の海域で多くの艦が沈んだ海。海底。日本の艦だけでも、暁、綾波、霧島、高波、照月、比叡、吹雪、古鷹、巻雲、夕立など数え切れない。海の底に沈んだ鉄で出来上がった海底。だから徹底海峡、アイアンボトムサウンド。サウンドは直訳では「陸に囲まれた海の広がり」みたいな意味らしく、意訳して海峡。海兵によって称された名前が普及したのかも。現在はスキューバダイビングの名所として有名らしいが、果たして潜った先の景色に負の連鎖破壊は見えるか。屈辱を晴らすための復讐も同じ手段を取って繰り返していたのでは同じ被害者を生み出してまた憎しみを生むだけ。繰り返してどうする。


 悪の盗撮大好き組織は壊滅した。被害者だと泣きついてきた盗撮大好きjkを拉致してエスパー超能力とヤクザの尋問で怖い目に遭わせた。相談を受けて俺に依頼をしたガールズは事実を盗撮jkから聞いた。ガールズはそれ以上のことを知りたいとは言わず、盗撮jkが再び氷永会に連れて行かれるのを見送った。


 ちなみに敵のアジトから巻き上げた金は氷永会と創成川リバーサイドで仲良く分けた。仲良くするまで少し大変だったけどなんとか収まった。今回はアフターお疲れ様会なし。互いを労うこともなくいつもの世界に各々戻った。


 最後に、気になっていた被害者がひとり残っていたので会いに行くことにした。


「いらっしゃいませー……あっ」


「こんにちは。えーっと、ここの席いいかな。アイスコーヒーをひとつください」


 俺は喫茶店のカウンター席のひとつに座った。他に客はいない。平日の午後一番だ。みんなお仕事中。


「ええと、七草さん、どうして」


「そうか、あの時、適当に言ったんだっけ。俺、本当の名前は茨戸創って言うんだ。みゆきさんもあの時の名前は確か『すすきののノノさん』だったっけ。ちょっと気になってね。元気にしているみたいでよかった」


「名前までバレてるんですね」


「まあ、無駄にこの街で働いてないよ。今日は報告をしようと思ってね」


「報告?」


「君を雇っていた組織が、占いの館が突然消えてなくなっただろう。何があったか気になっているかもと思って。結果から言うと、奴らは悪いことをしていた。良くない金に手を出し、敵にしちゃいけない奴を敵にした。俺も協力して有り金全部頂いて、組織壊滅。潰したんだ」


「そうですか。やっぱり、そうだったんですね」


「勘づいてた?」


「そうですね、なんとなく。あまりよくない人たちなのかなって。女性の方と一緒に占いの館に来てましたよね? 彼女さんでしたか?」


「いや、違う。彼女も密偵だ」


「そうだったんですね」


「占い師は続けているのか?」


「いえ、今は辞めてて。ひとりでやるにはお金も人脈も無くて。いいように使われていただけなので、何も残ってないんです。楽しかったので、少し未練がありますけど」


「そうか。実はな、偶然にも俺の友達がこの街の経済を支配していて。『オニロ』って言うカクテルバーを持っているんだけど、そこはお酒を飲みながら占い師に占ってもらえるって言うのがコンセプトらしいんだ。客と一緒に酒を飲無必要はないし、占いカクテルバーに物珍しさを覚えてやってきた客に酒を飲ませながら占いを見せて金を稼ぐ。本気でやる占い師とは違うから嫌なら聞かなかったことにしてくれ。一応その店はいつも占い師不足だって。見学とか話を聞くだけでもいい。やっぱりやめたでも構わないらしい。ヤクザも手出しを躊躇うほどの男がいるからそこ店は世界一健全安心安全運営。公務員より安定しているかもしれない。活躍したら占い業界のから話しが貰えるかもな。俺はその業界知らないから、知った口で言うのはおかしいけど」


 みゆきさんは俺のこの話を信頼してくれた。カクテルバーの店長の名刺と一週間だけ使える電話番号を教えた。この番号に電話するときは「すすきののノノ」と名乗ればいいと教えて。社長に繋がるかは分からないけど、きっと取り次ぎいだうちの若者が親切に相談に乗ってくれるはずさ。


 喫茶店を出たあと、ふと思って日替わり番号の電話にかけた。


「どうした、創」


「この間頼んだ占い師の女の子のことなんだけど、働きたいってさ」


「そうか。ガールズのメンバーにも入らないか勧誘しておこう」


 へえ、意外と人員確保に抜け目ないのね。


「そうだ、ちょっと言いたいことがあって」


「なんだ」


「お前に愛を伝えようと思って。占いの結果なんだ。成哉くん、愛しているぞ」



 ……は? 



 俺はたぶんここ十年で一番素っ頓狂で間の抜けた声を聞くことに成功した。今年一年の幸運を手に入れようと思っただけなんだけど、すぐに切れちゃった。キレたかもしれない。向うこう十年電話が繋がらなくなったら困るな、と思いながら楽しい気持ちになった。向こう一年は楽しいことが待っているだろう。次に起こるだろうトラブルを待つため、るんるんで帰宅した。




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