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爆散雪像配信07

「おい、誰もいねぇぞ。ハメられたか……?」



「待っていたよ、フレイムウイングマン。逃げなかったな。覚悟は十分か?」



 いないと思いかけたところスマホのライトが光り、俺の声に驚いた。それからすぐ何かに気づいた彼らは辺りを見回したが、遅い。囲まれた。囲んだ。それはとり囲むなんてレベルじゃなかった。この公園に逃げ場はもうなくなっている。圧倒的人海で占領した。しかし、奴らはそれを想定済みだった……ことを俺達は分かっていた。名誉挽回。窮地に立たされたように見えて、これこそ絶好のチャンス到来。すぐにカメラが回された。スマホじゃない。ちゃんとしたカメラだ。やるならちゃんとやることは譲れないんだろう。その手際の良さもさすが。手慣れてるな。さてと。じゃあ、お前たちがこれを利用しようとしているのを利用させてもらうよ。



「うわっ。どうした、なんだ、おい、なんだよこれ。どうなってんだ。カメラが吹き飛んだぞ」



 カメラマンの担いだカメラは爆発した。それは闇夜の公園に明かりをもたらし、配信するには良い明かりになりそうだったが、残念ながらそのためのカメラは爆散。もちろん、細工済み。フレイムウイングマンのお仲間カメラマンも怪我をして崩れ落ちた。



 他のお仲間も近くにいたので被害を受けた。フレイムウイングマンは仲間のところに駆けつけ、状況を確かめた。俺はライトをさらにそこへ向けて、よく見えるようにした。



 途端。



 公園の外に止まっていた黒くて大きな車からひとりの男が降りてきた。真っ白のスーツで。誰もが振り向いた。



 スマホのライトが一斉点灯。それはずらっと並び、暗闇の公園に道を作った。そこが公園であることを忘れ、別の空間に見えた。こいつの登場は当初の予定にはなかったんだけど、作戦を立てて実行しているうちに作戦の全容を知った成哉から電話があった。これは伝説がまたひとつ生まれるぞ。



「お、お前は。知ってるぞ、その白」


「ほう。この街の人間ではないくせに、この俺様を知っているとは。良い心がけだ」


「まさか、お前が相手か? こんなにたくさんいる中登場とか、ヤクザの組長かよ」



 スマホのライトとは思えないほど明るく、神々しい空間は広がり、この公園に集まったボーイズガールズがライトになった。そしてよく見えるようになった成哉の冷え冷えに冷えたクールな笑みは、残酷への道標に違いなかった。こわ。



「珍しく創がブチギレていたんでな。どんな人間か見てやろうと思って来たが、こんな小物だとは。いや、ザコだから怒らせたのか。なるほどな」


「お前が、雁来成哉が俺の相手するのかよ」


「そうだ。俺様が相手をしよう。本来なら俺様が出てくる必要は無いが、今回は友人のための特別だ」


「おいおい。舐めんなよ? これでもな、無駄に炎上とか迷惑とか言われる配信やってない。空手の段も持ってる。数字は教えるまでもないけどな。はっ、ひとりが相手なら勝てるぜ」


「ほう」


「このバカみたいに囲んでいるお前らに集団リンチされるんだと思って来たが、まさか違うとはな。そんなにお前らのリーダーは強いんかよ。アイティー企業の社長だろ? 喧嘩とかしたことないんじゃないの?」


「なるほどな。創がキレた意味が分かった。事実を見るまでもない。人間の質は一言あれば判別出来る。そういえば、いつだったか。最近、揉め事の決着をここでつけた気がするな。いや、時系列で言うとこの次になるのか。まあいい。創の怒りは俺様の怒りだ。あれでも質の良いオーガナイザーなんだ。無駄な感情は出さない。かかってこい。この街最後の思い出をあげよう」



 自己中配信中をこのイベントで繰り返してきたこの人間はこうして記憶に残らない思い出を手に入れた。



 懐に入れていた録音機を隼の如き右の一発で破壊され、なぜか同時に放たれた同じ右の二発目で、その顎へのストレートで崩れ落ちた。人間の神経と体の機能を一撃で停止されるにはそこが一番らしい。苦痛を与えるだけなら、腹とか背中の方が分かりやすいとか。へえ。



 この一幕はすぐに口コミと映像で我らの仲間内で広がり、予想通り伝説の一つとなった。音が破裂する一撃と音なく落とす二発目の一撃。信頼と崇拝がますます強固になったことだろう。安楽椅子でふんぞり返って指示ばかり出してたら新入りは信用しなくなるからな。圧倒的な強さを定期的に見せていかないと。



 依頼人の祭り運営を炎上と非難から助け、犯人の中学生も助け、事件を悪化させた配信者を締めた。全てが胸くそ悪い事件はここで区切りとなる。






 ※ ※ ※






「ありがとうございました。大変助かりました。あの後警備が厳重になって迷惑国内外の観光客も含めて対処してくださり、被害がなかったことをお礼申し上げます。迷惑配信者と当該の中学生と中学校から謝罪があったことも、きっと茨戸さんが関わったているのでしょう。配信者から謝罪と動画の削除を自ら行うとは思いませんでした。警察と行政が動けば何とかなるかもしれないと思っていたのですが、不要でしたね。あと、人件費を含めた経費とお礼を合わせてお渡ししたいのですが、どうしましょうか。現金がいいですか? 口座とかに振り込んだほうが良いですか?」


「口座に振り込んでください。口座教えますね。ありがたいです。俺の取り分もありそうだ。娘に靴を買ってやりたいんですよ。雪が解けてから使う、春夏用の。もう大きくなったんで」


「そうですか。お役に立てそうで良かったです。失礼ですが、娘さんはおいくつですか?」


「十歳、四年生です」


「あっ、私の息子と同じです。子供の成長は早いですよね」


「ええ、ほんとに」



 雪像を作った有志市民の方も、多少は気が晴れただろうか。被害者で今回の関係者ではあったが、エスオーエスも被害を訴えていることも聞かなかった。情報も回ってこなかったため、特別関与することはなかった。もしかしたらどうしようもないと諦めていたのかもしれない。



 雪暗の灰雪。冬はまだまだ終わらない。寒さに耐えているうちにまたすぐトラブルが舞い込んでくる。俺は懲りずに突っ込んでいく。そこには人間が息を白くし、生活襲う脅威に怯えていることを忘れずに。どれだけ活躍しても、そんなこと当事者には関係ない。驕り高ぶることなく、真摯に向き合って仲間と戦おうと思う。全てひとりで抱えむと失敗するからな。本当に。







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