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雁来成哉殺人事件04

『宇宙戦略小惑星突破目論見軍』のマルゴ・ケイは◯5計画を所属している部隊のために、何が何でも実行に移して成功させる必要があった。 


 それは地球が存在する宇宙とは違う宇宙の宇宙戦争の話。激しさを増す戦況に対して、勝利のために何か手を打たなければいけない状況だった。


 目論見軍が保有する宇宙戦艦に、大和型という艦がある。現在のマルゴ計画では、改大和型戦艦と超大和型戦艦の建造が予定されている。この戦争は非常に激しく、目論見軍側の戦況は厳しい。打破するため、戦力を増強するためにも早急に竣工したい。しかし現在、四隻の空母が苦戦を強いられている。このまま全ての空母を失えば、恐らくこの計画は破棄され空母急造計画に変わるだろう。計画が見直され、改マルゴ計画になってしまう。その前にマルゴ計画を強行しなければいけない。育ててきた『人の子』を既に持っているマルゴ部隊として、この大型計画を失うわけには行かなかった。


 この宇宙における戦艦は、人の子を地球現世からこの宇宙に転生させることで建造できる。つまり、この宇宙における戦艦は人の魂を持っている戦艦であった。


 戦艦の転生に必要な人の子は、穢れた魂を持つ必要があった。転生させるには魂が穢れていなければ発動条件を満たせず、転生ができない。人の子は他人を騙せば騙すほどその魂を穢すことができる。より穢れた魂を持つ人の子は良い戦艦になる。これが万の人を騙し続ける理由。797号艦改大和型戦艦、799号艦超大和型戦艦建造のために。


 シャッター街が作られた事にも理由がある。


 シャッターは日本語で『鎧戸』と表記される。改大和型戦艦、超大和型戦艦はその装甲が鎧に覆われている特徴がある。シャッター街で転生の儀式を行えば、鎧戸のスキル持ちで転生できる。


「そんな壮大な話だったとはな。詐欺師に騙された時以上に騙された気分だ」


「宇宙は広い。少なくともこの宇宙ではないが」


「そうか」


 死屍累々が口を開く。


「どうする、オーガナイザー。雁来成哉の疑いはどうする」


「それは簡単に決着がつく。俺が行く。そのために俺はひとつ情報が必要だ。おい、マルゴ。今ここには799がいない。教えろ。どこだ。雁来成哉と一緒にいる799はどこにいる。ここには最凶の二人がいる。お前らのことは宇宙の果てまで追いかけるだろう。お前らレベルの詐欺師では勝てない。教えろ。殺される前に、教えろ」


「分かった。白状しよう。我々の負けだ。素直に殺されて、強制転生するとしよう。目標数値には足りていないが、急造なら間に合うだろう」


 俺は宇宙戦争に身を投じる軍事詐欺師から場所を聞き出した。すぐにその場を後にして走った。詐欺師に別れを言う義理は無い。いずれまた会うことになるのだ。その時にまた憎まれ口を、敵としての挨拶を互いにすれば良い。今は旭川の冬よりも冷えている社長の元へ行かなければ。すぐに。




 ※ ※ ※




 廃ビルの階段を駆け上がった。七階。疲れた。


「799、成哉を解放しろ。忠告する。お前は俺には勝てない」


 ハンドガンを構える。これはラーメン屋の店主に貰った。ラーメン屋の店主は『大宇宙正義執行連合軍』の部隊長。『宇宙戦略小惑星突破目論見軍』と激戦を繰り広げている『宇宙戦略小惑星突破目論見軍』の敵『大宇宙正義執行連合軍』だ。


 両者は地球でもバチバチにやり合っていた。『大宇宙正義執行連合軍』のどこかの部隊に所属するラーメン屋の彼女に、俺が敵を始末することに反対する理由はなかった。地球には存在しない特殊な弾が一発だけ装填されたハンドガンを渡されていた。


「よくここまで来た。いや、マルゴが負けたのか。そうか。それは予想外。なるほど、それでは私は勝てないかもしれない」


「相変わらず詐欺師の言葉は一語一句卑怯だ」


「お前は敵か?」


「いや、お前が想定している宇宙戦争の敵ではない。俺は雁来成哉の仲間だ」


「そうか。そっちか」


「その後ろの部屋にいるのか」


「そうだ」


「じゃあ、俺に撃たれて転生しろ。成哉は返してもらう」


「ああ。さようなら」


 弾は799の頭を貫通。同時に何かが起動した。後ろの部屋が爆発した。




〉deceive



 死屍累々はマルゴ移送中に、以下のように発言している。


「私は詐欺師だ。騙すことができるのであれば、何であれ躊躇うことなく使う。誇りも矜持も私にはない。欲しいのは金ではない。相手を騙すことだ。金は副産物に過ぎない。私はその愉悦で生きている。理解はできまい。オーガナイザーの立場では、理解できなくて当たり前だ」


「そうか」


「貴様は良い洞察力を持っている。認めよう。免じてひとつだけ質問に答えてやる。私が『警察を騙す』ような発言をしたが、あれは事実ではない。警察を騙す必要は最初から無い。『私は詐欺師だ。騙せば良い。相手が警察でも変わらない。人間を騙すことに変わりはない』と言っただけだ。警察を騙すとは言っていない。騙されたな」


「警察を騙す必要は無かったのか」


「殺人事件は起きていない。暗殺少女の暗殺は詐欺師が暗殺少女を騙して妨害したから起きていない。貴様の推察通りだ。警察は雁来成哉を指名手配していない。探してなどいない。殺人の容疑も、疑いも無い。初めから事件など起きていない」


「やっぱりそうか。じゃあ、成哉からの頼みも嘘?」


「嘘ではない。雁来成哉に接触した私は797の情報を一部共有した。雁来成哉が言うには茨戸創と共に行動すれば797の真実が分かると言われた。その時に『無実の証明と警察の懐柔』を頼まれた。これは事実だ」


「事件は起きていないのに? 成哉がお前に頼んだ?」


「そうだ。貴様はその持っているピストルを最後に使うのだろう。その音を聞いた警察が貴様のところに駆けつけては、それこそ事件になる。茨戸創の無実を証明し、警察を懐柔する。797の真実へ辿り着くことが出来る対価として、引き受けた。もちろん詐欺師として引き受けた。警察ならたくさん金を持っているだろう。働く意味はある」



〉deceive



「くそっ、戦艦の子供が、あいつが死ぬと爆発する仕掛けとか。宇宙人間はめちゃくちゃだな」


 幸いにも、炎はそこまで強くない。なんとか成哉に辿り着く。


「おい、生きてるか?」


「大丈夫だ。それよりこれをなんとかしてくれ」


 何か特殊なチカラで椅子に縛られている。地球人間のチカラでは解除できないだろう。


「まかせておけ。とっておきがある」


 俺はハンドガンに仕込まれていたナイフを取り出す。明らかにこれは地球のナイフではない。成哉を縛っていたモノを切って解放。椅子を蹴飛ばし、成哉の肩を担いで炎上する部屋を脱出した。


「もっと早く来い。俺様を殺すつもりか。死ぬところだっただろ」


「悪かったって。いろんな人間に騙されたんだよ」


 成哉は797に騙されることを最初からわかっていた。そしてそれを利用する為に自ら騙される選択をした。利用したのだ。797に騙されることで、797と接触していた死屍累々が成哉に接触を試みる事を。それが目的。成哉と言えども、幻の詐欺師、最凶の詐欺師、死屍累々に遭遇することはほぼ不可能。だから向こうから会いに来るように仕向けたのだ。


 成哉は今回も俺をタダ働きさせたってわけ。助けてくれ〜なんて言って。まあ、実際799に捕まってはいたけど。


「ガールズがその詐欺師に引っかかってな。一千万円の借金を背負った。軽く調べたら、嫌な予感がした。他のメンバーに任せるのは危険だと思った。俺様が直々に探ったらこの有様だ」


「助けて欲しい、状況は深刻、お前しか頼れない、か。警察に追われているみたいな事言うから。殺人事件として助けて、深刻、頼れない、だと普通に思ったよ。騙したな」


「捕まっただろ」


「指名手配は嘘だっただろ。嘘を言わない詐欺師の方がよっぽど誠実だよ」


「おい、お前は俺様が詐欺師に騙されたって言いたいのか?」


「いや。お前は詐欺師を利用したが騙されなかった。だから生きてる」


「当たり前だ。俺様を何だと思ってる」


「俺の親友」


「それは間違いない。帰ろう」



〉今回の騒動で殺人事件は起きていない。タイトルを雁来成哉殺人事件としたが、それは私、死屍累々の手口だ。騙されたな。



 どこからどこまで騙されて、どれが本当でどこまで信じて良いのか分からない事件だった。少なくとも俺は嘘を言ってない。騙してもいない。いや、本当だよ?


 まんまと全てに騙された厳しい旭川の冬。この冬がいつの冬だったかは覚えていない。騙されたことだけは覚えている。ではまた次の事件で。殺人事件はもう勘弁して。




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