「こんにちは。私がマルゴと言います。お客さんは久しいので、嬉しいです。冷やかしでも見ていってください」
「突然押しかけてすみません。ここでプラモデルのキットを作って販売しているんですか?」
「ええ。主に各国の戦艦、空母、駆逐艦、軽、重巡洋艦、潜水艦などなど。そういうの作ってます。一階に機械があって、そこで製造をしています。二階では事務仕事や、お客様とのビジネストークに花を咲かせています」
「では、ここは一般買い物客が来るところじゃなかったんですね。なおさら申し訳ない。でも、どうしても話がしたくて」
「はい。何かご入用だと感じました」
「不躾で申し訳ないのですが、詐欺師とか、詐欺という言葉に心当たりは無いですか。暗殺とか殺人みたいな言葉でもいいんですけど。最近身近で耳にしたとか、起きたとか。物騒な言葉で失礼なのは承知で」
「ふむ。そうですね、あなたはなぜ私にそのような事を聞くのですか」
「実は友達に殺人の疑いがかけられてしまって。明らかに無実なんですが、疑いが晴れなくて。そこに詐欺師が関わっているみたいなんです。その詐欺師は『マルゴ』と言う言葉を残しています。手掛かりにならないかと思って。だから、何かご存じないかと」
「なるほど。そういうことでしたか。確かに私は詐欺師に関わっています」
「えっ」
「三人の詐欺師を弟子としています」
俺は顔の表情レベルをひとつ下げ、硬くした。
「コードは797、798、799。798は破棄しましたが」
「破棄?」
「不要になりましたので。今必要なのはふたつです」
「俺から質問しましたが、なぜそこまで教えてくれるのですか」
「事実だからです。詐欺師は嘘をつきませんので」
マルゴは三人の詐欺師の弟子がいると言った。師匠であると。しかし、自分が詐欺師であるとは明言していない。嘘はついていない。言わなかっただけ。認識は間違いじゃない。でも全てではない。嘘のような本当の話。
「では、もう一つ質問をします。今あなたの後ろに立っている人間のことは知っていますか。知っていれば嘘偽りなく話してください」
「えっ」
今度は詐欺師の師匠が小さく驚いた。真後ろには死屍累々が立っていた。それは誰でも恐怖する。
「マルゴ。貴様を探していた。ここにいる娘がな」
「動かないで。殺します」
「まって、あなたは」
「797を差し出せ。さもなくばこの娘が貴様を殺す」
なるほど。そういうことか。人間関係背景はちゃんと最初から教えてよ。仲間なら騙さないで。騙さないことができない存在なんだろうけど。騙すという行為そのものの存在が死屍累々なんだろうけど。
※ ※ ※
ホテルの一室にマルゴと797を縛り、鼻息を荒くする暗殺少女を制し、死屍累々同席で聴取を始めた。
「お前が最初に騙した人間は誰だ」
「資産家の山田」
「質問が悪かった。この部屋にいる人間のうち、最初に騙した人間は誰だ」
「そこの子供だ」
「それはいつだ」
「二週間前」
「どうやって騙した」
「暗殺しようとしていたそこの子供を騙し、暗殺を妨害した」
「なぜ」
「詐欺師は騙すことが生きる全て。ここまでの会話も騙している」
「でも嘘は言わない」
「ああ」
「続ける。その次に騙そうと試みた人間は誰だ」
「この部屋にいる奴でか?」
「そうだ」
「そこのスーツの背の高い男だ」
「騙せたか?」
「失敗した。799と共闘して作戦を実行したが失敗した。この男は手強い」
「そうか。その次に騙したのは誰だ。この部屋の人間以外で」
「雁来成哉と言う男だ」
「そうか」
続ける。
「お前は、暗殺少女が暗殺に失敗した暗殺の犯人が雁来成哉になるように暗殺少女を騙した。そうだな」
「そうだ。都合が良かった」
「つまり、こうだ。暗殺少女は、自分の仕事を797に邪魔されたことを根に持っていた。797を殺してやろうと思った。暗殺少女を騙した797は799と合流し、次のターゲット死屍累々を騙しに掛かるが失敗。逆に死屍累々に目をつけられてしまう。797殺しを画策していた暗殺少女は死屍累々に辿り着いた。暗殺少女の資質を死屍累々は認め、797の真意を探るためにふたりは一時同盟を結ぶ。死屍累々騙しに失敗した797は次のターゲットに雁来成哉を選んだ。暗殺少女が暗殺に失敗した暗殺の犯人が雁来成哉になるように騙して疑いを掛けた。暗殺少女騙しのアト処理も含めて騙しのターゲットにしたんだろう。797に雁来成哉は騙され、その797に騙された雁来成哉に死屍累々は接触。797の情報を聴取した。その際に雁来成哉は俺を、死屍累々に茨戸創を紹介した。雁来成哉は797の真相を暴ける人間を知っている。雁来成哉殺人事件の真相には797の真相も含まれている。そんなことを言って。そして成哉が俺を旭川に呼んだ。俺と最凶の詐欺師は吹雪の中で逢会。違うか、死屍累々」
「そうだ。やはり良い洞察力を持っている。少ない情報と状況だけでここまで読めるとは。推理とは違う」
「ああ、推理じゃない。事実を整理しただけ。オーガナイザーは、まとめるって意味がある。それにお前たちは詐欺師だからな。ありがたいことにその言葉の多くは人を騙している言葉だと言う前提がある。そして嘘を言わない。嘘ばかり言って自分を誤魔化すガキ共に比べたら親切だよ」
「さすがオーガナイザーだ」
「次はマルゴだ。797を問い詰める前に行ったお前の詰問の時に、お前は一日百万回人を騙すと言ったな。なぜそんなに人を騙す。何度も、万単位で騙す必要があるんだ。騙して金を稼いでいるようには見えない。何がしたい」
この言葉にマルゴはにやりと笑い、話し始めた。この程度の笑いなら敵として小者。死屍累々ほどの恐怖はなく、成哉ほどの冷たさは無い。小者はにやりと笑う。
「では、話そう。この地球人間の詐欺師は嘘はつかない決まりだと学んだ。もちろん、この話を信じるかどうかはお前の自由だ」
こうして、雁来成哉殺人事件の嘘か本当か分からないような本当の背景が、首謀者の口から語られた。