詐欺。民法にはこのように書かれている。
〉詐欺……他人を欺罔(ぎもう)して錯誤に陥れること。
〉欺罔……人をあざむき、だますこと
経済犯罪としては、他人を騙して金品などを奪ったり損害を与える犯罪行為、らしい。
単に人を騙すことが詐欺かと言うと、何か違うような気もするけど大枠では間違い無いと思う。一般理解と現実は違う。嘘をつかれることと、詐欺が違うように。詐欺は人を騙すことに特化した進化系。その結果として金が手に入るかどうかは別問題、と死屍累々は言う。
「お前はこの商店街にいる、マルゴという人間を探せ。重要人物だ。俺たちは何人か殺してくる」
「えっ」
「この娘は殺し屋だ。詐欺師と殺し屋がタッグを組めば騙して殺せない人間はいない」
それは酷い。騙し、騙されたことに気が付かない内に殺される。どっちも人道的じゃない。
「それとも手がかりなしでは探せないか、オーガナイザー」
「うるせぇ! やってやる。どこに何時に集合だ」
「夕方十八時。ホテルで待っている」
二人が瞬間移動で消えていくのを見届け、俺は知らない街にひとり残された。さて、どうしたものか。
その商店街はシャッター街だった。人の気配がしない。錆と共に寂れている。本当にここにいるのだろうか。いや、こういうところだからいるのか。不良のたまり場ではないが、不審者が潜むのにはうってつけだ。俺たちもよく使っている。
しかし、それにしてもどうしたものか。知らない街にひとり、土地勘もなく、知り合いもおらず、情報も聞き込みもできない。どうやって探そう。
とりあえず端から端まで歩いてみた。
分かったことはシャッターが多いことだ。
「そんなにシャッターばかりあるもんなのかな」
シャッター街とは言っても、別にシャッターが売りの商店街のことではない。シャッターが下りている店が多いというだけ。しかしそれにしても多い。九割ぐらいの店がシャッターを下ろしている。八百屋とか店頭販売を主としている店はそもそもシャッターがあるのか? それに、一軒も営業していないなんて。そんなことあるか? これでは廃墟だ。
旭川の商店街が廃墟になっているというニュースを聞いたことはなかった。幾ぶんか繁栄が厳しいと耳にしていたが、こんなことになっているなんて。旭川は道内でも指折りの大きな都市だ。これはおかしい。何かがおかしい。普通ではない。何かが起きている。なんだ。妖怪か、超能力か、地球外生命体か、宇宙からの侵略者か、呪術師か、結界師か。一体何が起きている。成哉の殺人事件といい、分からないことが多すぎる。断片的な情報すら手に入らなければ、俺は動けない。探偵じゃないんだ。そこまで頭脳明晰じゃない。殺人事件の真犯人を言い当てる事ができるなら、事件は今ここで解決している。
歩き回ることしばし。もうすぐ昼だったので、商店街を離れて店を探した。ラーメン屋があったので入った。旭川ラーメンは醤油が多い。札幌の味噌、函館の塩、旭川の醤油。昔からよく言われている。
「お兄さん、若いね。札幌から来たの?」
「ええ。昨日」
「それは大変だったね。猛吹雪だったろ」
ラーメン屋の店主が、湯切りをしながら話しかけてきた。気さくで男前な女性。
「そうですね。特急が少し遅れました。急ぐ用は無かったので大丈夫でしたけど」
「仕事かい?」
「ええ。そうですね」
「そうかい。今出来るからね、ほら、よっと、よしよし。お待たせしました。醤油ラーメンです」
「ありがとうございます。いただきます」
温かで、コクがあり、旨味と深い味わいが感じられる一杯。なんて美味しいんだろう。
「お兄さん、人でも探してるのかい?」
「えっ。よく分かりましたね」
「昔、大手メーカーの営業をしてたんですよ。人のことを良く見ないと、合わせた営業トークはできませんからね」
「なるほど」
「ここで店を開いて十二年になりますね。多少はこの辺のこと知ってますので、おチカラになれるかもしれない」
「それはありがたい。マルゴさんと呼ばれている人を探しています」
「マルゴ? ああ、それならうちの常連客にいるよ。お兄さんと同じぐらいの年だね」
「本当ですか! ええと、どの辺りに住んでいるとか、いや、お客さんだから無理か。どのような人か教えてもらえますか」
「うちの向かいで仕事してるよ。あのビルの二階。プラモデル作ってる」
「プラモデル?」
俺はまたまた予想外なワードに混乱した。