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雁来成哉殺人事件02

 詐欺。民法にはこのように書かれている。


 〉詐欺……他人を欺罔(ぎもう)して錯誤に陥れること。

 〉欺罔……人をあざむき、だますこと


 経済犯罪としては、他人を騙して金品などを奪ったり損害を与える犯罪行為、らしい。


 単に人を騙すことが詐欺かと言うと、何か違うような気もするけど大枠では間違い無いと思う。一般理解と現実は違う。嘘をつかれることと、詐欺が違うように。詐欺は人を騙すことに特化した進化系。その結果として金が手に入るかどうかは別問題、と死屍累々は言う。


「お前はこの商店街にいる、マルゴという人間を探せ。重要人物だ。俺たちは何人か殺してくる」


「えっ」


「この娘は殺し屋だ。詐欺師と殺し屋がタッグを組めば騙して殺せない人間はいない」


 それは酷い。騙し、騙されたことに気が付かない内に殺される。どっちも人道的じゃない。


「それとも手がかりなしでは探せないか、オーガナイザー」


「うるせぇ! やってやる。どこに何時に集合だ」


「夕方十八時。ホテルで待っている」


 二人が瞬間移動で消えていくのを見届け、俺は知らない街にひとり残された。さて、どうしたものか。


 その商店街はシャッター街だった。人の気配がしない。錆と共に寂れている。本当にここにいるのだろうか。いや、こういうところだからいるのか。不良のたまり場ではないが、不審者が潜むのにはうってつけだ。俺たちもよく使っている。


 しかし、それにしてもどうしたものか。知らない街にひとり、土地勘もなく、知り合いもおらず、情報も聞き込みもできない。どうやって探そう。



 とりあえず端から端まで歩いてみた。



 分かったことはシャッターが多いことだ。


「そんなにシャッターばかりあるもんなのかな」


 シャッター街とは言っても、別にシャッターが売りの商店街のことではない。シャッターが下りている店が多いというだけ。しかしそれにしても多い。九割ぐらいの店がシャッターを下ろしている。八百屋とか店頭販売を主としている店はそもそもシャッターがあるのか? それに、一軒も営業していないなんて。そんなことあるか? これでは廃墟だ。


 旭川の商店街が廃墟になっているというニュースを聞いたことはなかった。幾ぶんか繁栄が厳しいと耳にしていたが、こんなことになっているなんて。旭川は道内でも指折りの大きな都市だ。これはおかしい。何かがおかしい。普通ではない。何かが起きている。なんだ。妖怪か、超能力か、地球外生命体か、宇宙からの侵略者か、呪術師か、結界師か。一体何が起きている。成哉の殺人事件といい、分からないことが多すぎる。断片的な情報すら手に入らなければ、俺は動けない。探偵じゃないんだ。そこまで頭脳明晰じゃない。殺人事件の真犯人を言い当てる事ができるなら、事件は今ここで解決している。


 歩き回ることしばし。もうすぐ昼だったので、商店街を離れて店を探した。ラーメン屋があったので入った。旭川ラーメンは醤油が多い。札幌の味噌、函館の塩、旭川の醤油。昔からよく言われている。


「お兄さん、若いね。札幌から来たの?」


「ええ。昨日」


「それは大変だったね。猛吹雪だったろ」


 ラーメン屋の店主が、湯切りをしながら話しかけてきた。気さくで男前な女性。


「そうですね。特急が少し遅れました。急ぐ用は無かったので大丈夫でしたけど」


「仕事かい?」


「ええ。そうですね」


「そうかい。今出来るからね、ほら、よっと、よしよし。お待たせしました。醤油ラーメンです」


「ありがとうございます。いただきます」


 温かで、コクがあり、旨味と深い味わいが感じられる一杯。なんて美味しいんだろう。


「お兄さん、人でも探してるのかい?」


「えっ。よく分かりましたね」


「昔、大手メーカーの営業をしてたんですよ。人のことを良く見ないと、合わせた営業トークはできませんからね」


「なるほど」


「ここで店を開いて十二年になりますね。多少はこの辺のこと知ってますので、おチカラになれるかもしれない」


「それはありがたい。マルゴさんと呼ばれている人を探しています」


「マルゴ? ああ、それならうちの常連客にいるよ。お兄さんと同じぐらいの年だね」


「本当ですか! ええと、どの辺りに住んでいるとか、いや、お客さんだから無理か。どのような人か教えてもらえますか」


「うちの向かいで仕事してるよ。あのビルの二階。プラモデル作ってる」


「プラモデル?」



 俺はまたまた予想外なワードに混乱した。




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