時は2024年、8月22日。
「創くん、ついに決着をつける時が来たね」
「娘よ。俺はこんな形で敵対したくなかったよ」
星が降り星が
ここはすすきの。ココノススキノ近郊。
狸小路の一角で二人は対峙していた。茨戸創の相手は愛しき我が娘。互いに木刀を持ってその時を待っている。
張り詰める緊張。指だけ握り直した刀。固唾をのんで見守る観衆。
その合図は、微(かす)かに舞って静かに立ち去る風だった。
二人は同時に地を蹴り、その間を詰める。ぶつかって火花を散らす。
「負けないからね、創くん」
「娘だからといって手加減はしない」
※ ※ ※
この街の夜には噂がある。妖刀使いが出るってもっぱらの噂がある。夜を往く人々は「怖いねー」とか言いながら出会ってみたいと思っているらしい。物珍しさからだろうか。好奇心だろうか。
一方、裏側に住む人間は冗談じゃない、本当に殺される面妖な存在だと噂を否定せずに警戒している。現に犠牲者が後を絶たない。妖刀使いは夜を明るくしているすすきの交差点の電光掲示板を見あげる一般人間は襲わず、犯罪者やヤクザのような不届き者ばかり狙う。もちろん妖刀使いの目的を理解できる人間はいない。どこかでその理由を耳にしたとしても、誰も理解できないだろう。人斬りではなく鬼切をしているだなんて。
その夜も妖刀使いは現れた。そこはいつも通る裏世界に通じている少し幅のある道。客引きをしていたホストや風俗嬢はその影を見るなり隠れる。誰もが恐れている。
「決着をつけるわよ、妖刀使い! もう逃さない!」
そんな恐怖道路のど真ん中に立ち、行く手を塞ぎ妖刀使いに対峙する者がいた。彼女の名前はルルシュシュ・リラ・ルシエ。魔法少女である。妖刀使いを宿敵だと一方的に言いつけ、毎夜決闘を申し込んでくる。妖刀使いとしては面倒なことこの上なかったので、ある提案をすることにした。
「まったくしつこい人ですね。息をつく暇もない。毎夜戦うのは私も疲れます。では、こうしましょう。代わりの者を立てるのです。代理戦争です。私も、そなたも自分の代わりに戦う者を選ぶのです。一人ではなく、複数人自分の味方を選んで戦う。どうでしょう。もちろん、我々も大将として最後に参戦することにして」
「なるほど……確かに毎回引き分けで勝てないし、この膠着状態も何とかしたかったし。それで何か戦況が変わるかもしれない。試すのはありかも……うん、臨むところよ妖刀使い! 受けて立ってやろうじゃないの! あと、発言は取り消せないからね! あんたが言った最終決着大将戦は絶対よ! 妖刀使いと直接戦うんだから!」
「決まりですね。では、分かりやすくするために私は妖術で味方に旗を立てます。そなたは魔法で旗を立ててください。私が紅でそなたが藍」
「わかったわ。それじゃあ、代理戦争の日が決まり次第、その夜ここに集合よ。妖刀使いも勧誘した手下を連れてくるのよ」
「ええ。では、今日のところは解散にしましょう」
こうして、すすきの代理戦争・夏の陣、開戦がここに決まった。
代理人としてこの二人の争いに巻き込まれる事になる人間にとっては迷惑この上無いが、しかし魔法と妖術から逃れられる人間はいない。強制参加。
翌夜、街のあちらこちらで戦いの火蓋が切られることになる。