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ホワイトウィング01

「カジノ?あれか、流行りのオンラインカジノ。どうせ裏にはお前らがいるんだろ」


「ばーか。あんな百人見たら百人違法だって分かるやつに手ぇ出すかよ。ヤクザがそんなことするか。法律用語の賭博と日常言語の賭博の区別がついてないバカだけだろ、あんなの。それこそお笑い芸人とか野球選手とかが広告を見て信用したとか、みんなやってるから大丈夫だろうって手を出したらしいが、何をしているんだか。最近話題になってるの野球ネタは不倫とか賭博ってことなんだろ?まったく昭和かよ。みんなで手をつないで赤信号渡るほうがよっぽど利口だ」


「まあ、おまえらのところは絶対にそっちには手出さないんだろうなぁとは、そう思っていたよ」


「それなら聞くな!……ったく、タバコが増える。ったく盲目的に信用するなよな、ったく。自分で考えろよ。自分の娯楽選びぐらい間違えるなよな、ったく。まあ、普通に生きる人間は自分で娯楽を選んで、自由時間に消費しているつもりなんだろうが、それは逆だって事に気付いてねぇだろうし。ドラマもバラエティも公式無料、有料配信サイトが主流なのは消費者の自由時間に見ろと誘導されているだけだってよ。好きなときに好きな番組を好きな速さで楽しめる。仕事終わりの自由時間の娯楽を選んでるようで選ばされている。ドラマも映画も二倍速で楽しむ人種がいるっておまえ言っていただろ。便利と利便に束の間の休息時間の使い方が支配されてることに気づいてない。だから釣針に引っかかる。気が付かなかった、違法だとは思わなかった、なんて言い訳。けっ。動画漬けの子供時代を過ごすガキでもエスエヌエスの広告は悪い大人が誘導して手招きしていることくらい分かる。カジノとか、セミナーとか投資とか。昔からずっと騙しの常套手段。楽して簡単に、できれば無料で金を稼ぎたいだなんて。けっ。いつの時代になってもバカしか生まれないね。そんなんだから俺達の闇に手を出すんだ。闇市場。闇金。闇取引。闇仕事、闇バイト。闇カジノ。人生捨てたりどん底だと思い込んでるバカ。そんなことねえよ。いつも簡単にこっちに来るなって思うぜ。そんなんだから、俺達の賭場利に来て賭博で遊び、借金まみれになるのがオチになる。まあ、こっち・・・はイカサマカジノだから賭博罪じゃなくて詐欺罪だろうけど」


「はいはい。けっ、が多い。セリフ長い長い。酒とえだまめを食べて落ち着きなさい。ええと、話戻すと、今回の話題として出てきた〝カジノ〟はいつもの〝賭場利場〟のことなんだな。それがトラブル」


「そうだよ。他にあるかよ、ったくよ」


「どうした?いつもより苛ついてるな」


「何もなかったらお前みたいな一般人に話なんかするか!」


「分かった、分かった。聞いてあげるから話してみ?」


「くそっ。その賭場利場の営業中に、一瞬だが、五秒ぐらい俺達の営業をスマホで配信したバカがいた。一瞬とは言え証拠が残るのが問題だ。証拠を残さないための情報秘匿、移動式賭場利場だ。帷に掛けて、賭けてるらしいが俺は知らん。組に物好きがいるんだろ」


 続ける。


「つまり、警察が動くのにはこれで十分だってこと。だから苛つくんだ。もちろん男は即処理した。脳の神経すべて失って新しくなったはずだ。人生やり直し。よかったな。異世界転生だの、生まれ変わってチートだ、一度目の人生では叶えられなかった望みや願いを叶えるだのなんだの、それこそそういうのが流行りなんだろ?この処刑は世間の人間の望み通りってわけだ。そいつがそんなこと考えてるかなんて知ったこっちゃねえが。ったく、わからんね。一回生まれて生きて死ねばそれで十分だろうよ。ひとりの人間が生まれ変わったところで世界を変えることはできねぇだろうに。視点が変わっただけだ」


「そうかそうか。セリフ長い長い。つまり、お前らの賭場利場オフラインカジノがバカのスマホで強制的に一瞬オンラインになった。オンライン上にオフラインカジノとして世間に一瞬公開されてしまった。ってことか?」


「そんなとこだよ」


「ふーん。それで、何で俺がお前に呼ばれたわけ?その程度なら何とかするでしょ、お宅ら」


「お前、アイドルは知っているか?」


「は? 何だよ急に。言葉って意味ならタカ、バカにするなよ。それくらい知ってる。歌って踊れるアイドルのことだろ?」


「いや、バカにしたわけじゃない。今話題の☆奏でる白い翼☆ってアイドル知ってるか?」


「知らない。棒読みだとめちゃくちゃわからんな。サイトか画像かエスエヌエス教えてくれ」


「分かったよ、ほら。エスエヌエスのアカウントをメッセージで送った。それだよ」


「どれどれ……ふーん。可愛い女の子五人組。白いドレスが特徴的……普通じゃん。カジノとどう絡んでるの?」


「一番右の女だ。そして今、この女が組の賭場利場で働いている」


「えっ」


「彼女のシロツバサでの活動名は〝かなで〟彼女は既に卒業している。しかし、卒業間際に起こった卒業詐欺疑惑が未だに晴れていない。それに加えて賭場利場だ。調べた限りだと卒業詐欺騒動の中心で声を荒げていたファンの一部、これがストーカー紛いで賭場利場で生中継を強行したと見ている。ほら、ガキ共はそういうの配信っていうんだろ?まったく、取材許可なしに自分らの都合だけ押し通すとか。取り敢えずそれは対処したから良い。創、つまりだ。問題はカジノでアイドルが働いてるって噂が流れることだ。その噂はアイドルグループの存続に関わることが一つ、こっちの組の問題に発展する可能性があるのが一つ。アイドルがヤクザのカジノに手を出していたってなれば、週刊誌どころじゃない。そこまで広がると手に負えない」


「あー、そういう」


「いろいろ解決しなくちゃいけないんだよ。それにのんびりしていたら命取り。賭場利場はある意味俺達の生命線に近い。そこで正さんが指名したのがお前。そういう事だ。情報は流す。それと、今回はちゃんと報酬を出す。ヤクザの金だからって言って、お前が受け取りを拒否しなければな。あと、ついでに言うとそのアイドルの卒業詐欺を後ろから支援したのは俺だ」


「えっ」



 素っ頓狂な話に、俺は目をパチクリさせた。




 ※ ※ ※




 タカの言う卒業詐欺とは、人気絶頂期のアイドルが突然卒業を宣言し、卒業ライブ・イベントを行ってチケットで儲け、卒業グッズやサインを売りまくって儲け、懐を大いに膨らませてから卒業。卒業したあとは女優などに転身して再活動するというもの。生身の人間でも、バーチャルの皮を被った変声マイクで喋る人間でも変わらない。


 卒業は事実だから偽りはなし。その後の生活、活動は言及していなかっただけ。この一連の騒動に対してずっと応援してきたファンが声を荒げたとしても、騒いでいるのは結局卒業するという事実だけを鵜呑みにして活動が終わると思い込んだ人間が悪いのだと、アイドルサイドは言う。もちろん、涙と共にその卒業を見届けた人間にとっては肩透かしを食らった気持ちになるのは共感できるし、卒業後別の形で活動を続けるというなら、あの卒業ラストライブの時間は何だったのかと虚無に襲われることも、アイドルオタクではない俺でも想像して理解することができる。


 俺がそれを聞いて最初に思ったのは、女性アイドルユニットの二人の名前から取ったユニット名なのに、二人とも卒業してしまってそこに新しい無名の若手のメンバーが加入して存続。卒業前のアイドルが頑張って作った知名度抜群のアイドル看板を利用して無名若手を世間に売り込む。卒業詐欺の話でまずこれがふと思い浮かんで、こういうのもまた詐欺に近いのだろうかと、思った。ファンの心と心情と気持ちを利用するビジネス。まあ、どこかの死屍累累に比べたらどっちもてんとう虫のように小さい詐欺だけど。詐欺の質とレベルが違う。


 タカからの依頼は、既に卒業している伍の奏の卒業詐欺疑惑を晴らすこと、伍の奏の窮地脱出、卒業詐欺問題で非難を食らっている☆奏でる白い翼☆の残りのメンバーへの対処とグループの存続、組の賭博カジノが明るみになることの阻止、伍のアイドルがヤクザ&賭博関与している疑惑の噂が起こる前に根絶、これら騒動の決着。


 卒業した奏とグループに残った奏。その結果、最終的に氷永会を助けろって事か。やれやれ。とりあえずそのアイドルの本名か別の名前が聞きたいね。壱とか伍とかややこしくてわけわからんくなる。依頼人の名前ぐらいはグループ奏と区別したい。聴いた限りじゃ一度にたくさん起きている事になる。全てを把握するのは難しい。簡単には解決できない。見事大成功したら絶対に高額請求するからな。卒業詐欺を裏から操ったなら卒業詐欺収益の九割は奴らの金だろうし。その卒業ビジネスでがっぽがっぽ稼いだ金を分けてもらうことにしよう。


「みんな、今日もライブに来てくれてありがとう!また次のライブ配信も見に来てね!」


「ライブ配信のライブ、か。現代だねぇ」


 ☆奏でる白い翼☆は会いに行けないアイドルを売りにしているらしい。なるほど、リアルヴァーチャルアイドルってことか。ライブは動画の生配信のみ、視聴はスマホなどの端末でアクセスできる動画サイト限定。動画視聴するためのチケットは有料。箱代無いから割安。Wi-Fiがあれば日本全国、いや全世界どの国のどこでも視聴できる。国内、国外の人からも支持をもらえて海外展開も容易。ワールドアイドル。


 配信は残さず、一度きりのその場と時間の共有を楽しめるリアルアイドルライブとしての良さを残している。観にいく敷居とハードルを大幅に下げて、興味ない人でもアイドルでもオタクでもない人でも、実は部長のおじさんもお局様も隠れて見ていました、みたいな環境を作ることができる。


 ミュージックビデオなどはフル尺で流して知名度を上げ、ショート動画などを大量に作ってファンを集める。もちろん、ドームツアーや全国ツアーなどは行わない。テレビ出演もなし。ラジオは何度かあるらしい。声だけなら周りにはスタッフと進行ラジオ人間がいるだけで、ファンに会うことは無いからって理屈かな。ファンの間では白翼シロツバサ、またはホワイトウイングと呼ばれているとか。そりゃ、いちいちあの厨二グループ名で呼ぶわけにはいかないよね。


 金と地位と名誉。画面の向こう側で白い翼の白を奏でる歌って踊るアイドル。奏でるように歌って踊っているのは白い翼ではなく、白い翼の白。俺はそう感じた。


 アイドルを卒業して闇カジノに身を投じる。そして卒業詐欺で卒業したのは一番人気のセンターを務める壱の奏ではない。なぜ伍番目が卒業することになったのか。調べるのはまずそこからだな。




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