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ホワイトウィング07

「こんにちは、創くんのお友達のお兄さん。茨戸久瑠美です。焼肉をご馳走になった日はありがとうございました」


「おう、創の子供。久しぶりだな」


 年上の、先輩や上司に対するビジネスマナーを卒なくこなす娘。先日はご馳走様でした。抜け目ない。かなり前の話なのに。


 そう言えば、卒業詐欺騒動での氷永会のその後を書いていなかったな。


 結果から言うと、もちろん氷永会、賭場利場は守られた。〝一等星〟はあの動画は自分たちがやりました、と言うことに反対した。自分たちがヤクザ、反社に関与しているなんて噂は絶対に嫌だと懇願、土下座してきた。小学生の土下座なんて見ても仕方ないので、やむなく動画を完全削除(こっちが世の中から、保存した人間を残らず潰して削除)し、中身をすり替えることで妥協した。彼女達の捏造動画だと公言することが最適解ではあったが、シロツバサに対して嫌がらせしたことを〝一等星〟は認めている。トドメの一撃として氷永会を利用したことは決して口にせず、それ以外を認めて無かったことにした。


 僅か五秒の〝賭場利場〟の動画は〝夜のすすきの〟を若者が映しただけの動画に上書きされた。gifに近い。「今日はすすきのに来ました!遊んじゃうぞ!」みたいな。無意味な動画になった。


 これにより、動画から氷永会が被害を被ることはなくなり、シロツバサの反社疑惑から氷永会が追求されることは無くなった。今後もシロツバサの事務所を経営できる。灰色が白と認識されたので、より誰にも疑われることなく裏から白いアイドルを育て上げられる。ひとり卒業しても、シロツバサの活動は終わっていない。頑張れヒダカプロデューサー♪



 ここは音楽スタジオ。防音設備、機材バッチリのスタジオ。俺と久瑠美、タカと横山翼。そして。


「茨戸さん。このお嬢さんは」


「俺の娘だ。久瑠美、このお姉さんがアイドルだ。ここにいる四人もアイドル。☆奏でる白の翼☆の皆さん。普段は動画配信だけで直接会えないアイドルたちなんだけど、今日は特別に全員集合。来てもらった」


「ほら、お前ら挨拶しろよ。俺の友人の子供だ」


「はい!こんにちは、私が伍の翼☆!」


「私が肆の翼☆!」


「私が参の翼☆!」


「私が弐の翼☆!」


「私が壱の翼☆!五人揃って……」


「「「「「☆奏でる白の翼☆です!」」」」」

「わぁ!創くんすごいね!久瑠美、アイドルさんに会うのは初めてだよ。ええと、茨戸久瑠美と言います。年は十歳。小学四年生をしています。今年で五年生になります。父がお世話になっております」


 久瑠美がお辞儀をする。


「こちらこそ、お父様に助けて貰いました。おかげでアイドルを続けることができます」


「それより翼……伍番目の翼はもう卒業したのに五人揃ってでいいのか?もうその決め台詞使えないだろ」


「いえ、アイドルは永遠なので問題ありませんよ。卒業と云う形で翼ちゃんがいなくなってもシロツバサは五人です。挨拶は肆翼から始めますが、ちゃんと五人揃ってと言います」


「ふーん。それでいいなら良いんだろうけど」


「もちろん翼ちゃんにも生活と人生がある事、分かっています。私たちだって永遠に活動はできない。限界はいつか来ると思います。でも、アイドルの活動とか歌ってずっと残るじゃないですか。記憶と記録に。だから卒業しても活動が終わっても永遠に覚えてもらえるアイドル。語り継がれるアイドル。そんなアイドルに私たちはなりたいです」


「そうか。それは良い覚悟を持っているな。きっとタカ……ヒダカの教えが良いんだろう。タカ……ヒダカが育て上げたんだな。やるじゃん。俺も少しシロツバサを応援しようかな」


「本当ですか!嬉しいです!」


「おい、創。それより例のブツを持ってきたぞ」


「おっ、マジか。それは本当に嬉しい。ありがとうな。ほら、久瑠美。ギターが欲しいと言っただろ。だからこの伍番目のアイドルに頼んでみたら、ギターを持っているからそれを貰えるってさ。マネージャーの、ええと、事務所の人間の、ええと、俺のこの怖い友人が翼ちゃんのギターを持ってきてくれた。俺の働きに免じて貰えるってさ。何でも翼ちゃんのために作った特注品で、シロツバサのライブに使っていたとか」


「誰が怖い友人だ。ほら、創の子供。少しでかいだろうが、我慢しろ。百万円する」


「えっ、大丈夫?」


 久瑠美が遠慮するような仕草をする。


「何が?」


「こんな高級品、久瑠美にはもったいないよ」


 翼ちゃんが目線を合わせるようにしゃがみ、優しく話す。


「久瑠美ちゃん。私はもうこのギターを使わないの。本当はヒダカさんが卒業祝いにくれるって言うんだけど、なんか持っていると未練がましく思えちゃって。だから卒業イベントでファンにあげて記念にしてもらおうかと思ったんだけど、ちょっとトラブルで出来なかった。そのトラブルを茨戸さんに解決してもらったんだよ。お礼じゃないけど、貰ってくれると嬉しい。未来のギタリストさんに」


「分かったよ。久瑠美はどんなギターでも弾ける特殊能力があるからね。大切に使うね。ありがとう、翼さん」


 令和7年になって、再度再々度ガールズバンドがフューチャーされている。気がする。


 特にアニメやマンガ。引き篭もりはロックをやれ、みたいな。アジカンを知らないガキ共が聞くようになったんじゃないか? え、あれ? 気がするだけ? いや、ほら平成だと十年前ぐらいに右京さんとお茶会をする軽音楽部のアニメが大流行したし、二十年前にはバニーガールのヒロインが学校祭てギターを弾いたし、それを目にした子供たちにギターを持たざるを得ない影響を与えて来たただろ。アニメが変わっただけで、起きている現象は同じだ。ヒロインのギターが売れ、すぐに挫折して中古店に売り飛ばすオチは変わっていなかっただろ。見栄をはらずにバスカーズから始めれば良いのにね。ということは、やっぱり久瑠美にいきなりド高級ギターはまずいのか……? 小学生だし……? さすがに……?


「ありがとうございます!」


 その笑顔には勝てない。


 まあ、もう貰っちゃったし。動画を見て感化され、ギターを手にしたという意味ではアニメオタクと娘の動機は変わらないのだ。挫折したら中古店に売り飛ばすさ。


「それにしてもこれがタカ……ヒダカの特注ギター?アイドルのギターにしては随分と真っ白だな。ピンクとか赤とか青とか、明るい色だと思っていたけど。磨かれた銀のような白のギター。ピックガードに書いてあるこのイラストは鷹?隼?」


「ふん。創はバカだから教えてやる。そのギターはホワイトファルコンっていうギターで、世界一美しいギターって呼ばれている。白いボディとかゴールドパーツに目がいくビジュアル抜群の一本だが、この特注品は軽いんだ。できる限り軽くなるように特別に作ってもらった。女の子が持つからな。重いと大変だろ。だから娘さんでも弾けるかもな。あと、フレットも見ろ。そこに白い翼のマークがあるだろ。翼のあるホワイトファルコン。だからこのギターの正式名称はホワイト・W・ファルコン。他のメンバーも使わないと言うから遠慮なく受け取れ」


 ホワイトファルコン。世界一美しいギター。白の隼。白の翼。ホワイトウィング。シロツバサ。白のアイドルとヤクザの隼。そのギターの名前はホワイト・ウィングW・ファルコン。いい名前してやがる。


「良かったな、久瑠美。じゃあさっそく始めようぜ」


「?なにがあるの、創くん」


「ああ。ここに五人も呼んだのは久瑠美に挨拶をするためじゃない。この五人は全員ギターが弾けるらしくてな。詳しく聞いたら年に一度、白または銀のギターを全員が持って歌うライブやっているんだと。俺が手を合わせてお願いしたら、久瑠美にギターを教えてくれるって。良かったな。先生が五人もいるぞ」


「ええ!?本当に!久瑠美そんな贅沢して良いのかな。創くんレッスン代払える?」


「初回無料だ。忙しいアイドルだから二度目は無いだろうけど」


 ギターは一日練習すればすぐできる楽器ではない。毎日の練習が、試行錯誤しているうちに「あっ」と掴んでできるんだとか。音がちゃんと鳴れば教本に書いてあるコード通りに押さえる必要はないし、手を()抜いても、ごまかしても良いとか言っているけど、そんなものかね。


 俺は何度も見返して練習に使えるように、アイドルのギター講座を全部動画に収めた。会いに行けないアイドルに直接教えてもらえるなんてこと、百万円払っても無理だろうよ。


 氷永会の裏カジノ、賭場利場も無事に隠蔽できたし、シロツバサも翼ちゃんも助けたし、報酬も手に入っておまけにレッスンも。娘からの尊敬も手に入ってハッピー! ここまでうまくいくと何か失敗してそうで怖い。




 ※ ※ ※




 レッスンが終わり、四人は帰った。タカが翼ちゃんと俺に話をしたいと言った。久瑠美に居残り練習をして待っていてくれと言って残し外に出た。タカがすぐに口を開く。


「聞け、翼。俺の名前は鷹宗一(たか そういち)と言う。それはーー」


「おい!!!タカ、お前何を!!!」


 俺はタカのカミングアウトを即遮って叫んだ。全身の血流が一気に逆流するかのような、怒りに近い叫びだ。咄嗟のこととは言え、これは翼ちゃん以上に俺のほうが過剰反応した。


「おまえ!なにを、おい、お前!!ばか!その名前は、もう!」


「焦るな、創。良い。……翼、この名前は俺がこっち側に入る時に捨てた名前だ。疾うの昔に。俺にも、創にも、昔は親がいた。家族として暮らせなかっただけで、親がいた事は一生変わらない。死んでないから、会おうと思えば会える。それこそ、俺たちが会う意味はないがな」


「なんで今さら。二度と口にしないんじゃ無かったのかよ」


 俺は必死に考える。困惑と混乱を抑えられずに。


「こいつには、翼には言うべきだ。言わなくても分かることを、敢えて言わなければいけない事もある。創。翼が賭場利場で働いているって話をしたよな」


「ああ。確か、アイドルを卒業した後の進路に悩んでいたから、お前が誘って働くようになったって……おい、まさか」


「その通り。翼は組の店で円盤をやっていた。半分氷永会の人間だったんだよ。俺も最初は知らなかった。シロツバサを運営していた俺との関係はアイドルとマネージャー。でも行動がおかしいから、調べたんだ。巧妙に隠していたから時間がかかったけどな。翼は当たり前のように禁止行為をやって、追加の円もがっつりふんだくっていた。ほとんど組に吸われているだろうけどよ。当然、バリバリの未成年だ。ったく、どうしょうもないやつだよ。氷永会も大きくてな。互いにライバル視している組もある。ライバルに情報を全て明かすバカはいないだろ。だからより気がつくのが遅れた。翼は高額な給与に目が眩み、一回だけだと思って手を出してしまったらしい。辞めるに辞められなくなった典型例。もちろん、翼にも親は居るが、共に放蕩だと聞いている」


 未成年で風俗。裏世界に手を出していたのは、反社に関与していたのは噂じゃなくて事実だった。マジかよ。


「こっちの世界の悪い大人は一度手を出した娘をそう簡単に逃してはくれない。俺がこの事実を突き止め、翼に話をしたら足を洗いたいって言った。だから一時的に、俺の組に引きずり込んで働かせることにした。普通の風俗嬢が辞めるのとは訳が違う。氷永会の息が掛かっている。段階を踏まないと最悪俺も殺される。賭場利場は完全秘匿移動式。違法まみれだが、俺が擁護すればカタギのガキでも何とかはなる。でもそろそろ限界だ。本名を明かした意味はわかるだろ。お前から俺のことを好きだと言ったんだぞ。その意味も分かっているだろ」


 ヤクザの女になる。その世界に入る覚悟は、二度と戻れない覚悟だ。そしてそれは最悪の選択で、最悪の覚悟。自ら選ぶべきじゃない。タカは悪をやって、その果てに覚悟を決めた。まだ引き返せるなら、翼ちゃんが今求められているこの選択はどう見たって最悪だ。


「はい。分かっています。私が好きだという気持ちは変わりません。私はきちんとヒダカさんが好きです。私の抱えている問題は簡単じゃ無いと分かっています。ヒダカさんに良くしてもらっていることも、本当に感謝しています。でも、私は、ごめんなさい。やっぱり嫌です。恐いです。ヤクザには、なれる気がしません。震えます。恐いです。ただ暴力で物を言わせている人たちじゃないから、本当に私が居てはいけない場所なんだって、恐くて。一生そこになんて、その世界だなんて。……だから、私は、私は、ヤクザにはなりたくない……私はそういう関係でのお付き合いではなくて、普通の男女交際で……だから、なりたくない……本当に、純粋に、この気持ちは……ああ、でもこの考えが甘いのは……自分が子供だって、自分でも分かっているのに……私は……」


 その声はか細く、手で顔を覆ってしまった。何という事だろう。ここにきて、俺は彼女の本音がようやく聞くことが出来たことになる。俺は何も見えていなかった。何もきこえちゃいなかった。俺はそう思った。  


 タカの覚悟も分かった。俺がここに残された意味も分かった。タカと翼ちゃんが二人きりで話すべき話を俺が同席してこの話を聞いた意味も分かった。本当に助けるべきはタカと翼ちゃんの関係だったってか。ったく笑えないな。


「分かった。二人の話は聞かせてもらった。いや、俺にわざと聞かせたんだろ。お前が昔の名前を口にしたのを初めて見た。忘れるなよ翼ちゃん。そして誰にも言うなよ。信頼して明かしたんだ。タカが俺にヤクザ裏カジノ関与疑惑の噂を消すように依頼したのは、タカが考えていた段階に不都合だったから。噂が広まってライバルの組にバレたらタカが裏切り者として処罰される。不運だな、お前も。アイドルとしての関係だけなら、知らない未成年風俗嬢としての関係だけだったなら、氷永会のライバルの組に使われながらタカのアイドルとして関わっていなければ。ここまで面倒は見なかっただろうに。優しいヤツだよ、お前は」


 沈黙。沈黙は肯定か。否定しないだけか。


「分かった。これら全てを踏まえて、このどうにも出来ないような状況に対して、居合わせた俺が出来ることは一つしかない」


 翼ちゃんが顔をあげる。俺のことを見る。その目は俺がここまで話を聞いてきた時の目ではなかった。ひとりの女の子のとして助けを求める彼女に対して、俺のことを見る彼女に出来ることは一つだけだ。


「雁来成哉をここに呼び出す。翼ちゃんはまだヤクザじゃない。だけど、あいつが、成哉が翼ちゃんを引き取れば誰も手が出せなくなる。風俗店も。氷永会も。タカも。成哉はこの街で一番強い男だ。ヤクザにも負けない。創成川リバーサイドのトップ。ここに直通の電話番号がある。念の為に用意していた番号だけど、まさかこんな形で使うことになるとはな。あいつには頼らないで終わる予定だったのに。まったく、みんな隠し事し過ぎなんだよ。最初から言ってくれよな」


 悪びれる様子はない。しょうがないな、もう。


「翼ちゃん。タカのことは諦めろ。住む世界が違う。本気で足を洗って真っ当に生きたいなら、諦めてこっちに来い。失恋を選べ。成哉は他の人間の言葉には耳を貸さないが、俺が電話をすれば一発で来る。保険で用意した番号だからすぐに使えなくなる。決めろ。足を踏み外したガキが、この街で〝真ん中道〟を手にする方法はこれしかない。なに、俺はタカの親友なんだ。リバーサイドガールズに入れば、いつでも俺がタカと翼ちゃんのティータイムをセッティングしてやる。ヤクザの人間に直接会うのは法律に抵触するだろうが、ひとりの友人としてなら大丈夫だろ。成哉の権力はそれを可能にできる力がある」


 山本の彼女になった風嵐結の時も、オンラインゲームマッチングで稼いでいた彼女も同じ手で助けた。あの時は、ヤクザに関与している噂をこっちから流したんだけど。


 結は、彼女は組の人間にはなっていない。姉御にはなっていない。無論、ヤクザに関わっている以上、完全クリーンで健全な人間には戻れない。それは俺も同じ。暴対法では俺も彼女も許されないのだろう。それを法的にも違法的にも変えるのが雁来成哉の存在。あいつの庇護下にいるから、俺も彼女もこっち側でいられる。そうでなきゃ毎回毎回、ガキ共とヤクザの橋渡しするなんてできっこない。あいつが努力で上り詰めて手に入れた権力はそう云う権力だ。ただのガキ共を率いるトップじゃない。会社の社長じゃない。IT業界のリーダーじゃない。この権力に名前は付けられないし、誰も理解できないだろう。政治家でも総理大臣でも大統領でもな。国家権力なんて、可愛いものだよ。平民でも分かるように言えば、そうだな、権力は誰かを従わせるモノじゃない、が正解に近いか。


 俺はスマホの『非通知』の画面を全員が見えるように差し出した。黒の画面に、赤の受話器マークと緑の受話器マーク。片方は番号の削除。片方は呼び出し。俺は我らがビッグボスへ繋がるマークに親指を掛ける。緑にも赤にも。  


「どうする?」


 さすがに迷っている。翼ちゃんは静かに、雨どいを流れる水のようにか細い涙を流している。子供に戻れず、大人にも成れず。哀しみか、後悔か、自責か、過去か、仲間か、救いの手に対しての涙か。


「翼ちゃんの好きにしていいよ。タカの言葉を受け入れて交際し、ヤクザの女になるか。成哉に助けを求める電話をするか。どちらを選んでも、誰も責めないし誰も喜ばない。猶予は与えない。考える時間を下さいと言ったらその時点で終わり。番号は削除される。あいつの電話番号はよく変わるからな。躊躇していたら物理的に連絡できなくなる」


 〉どうする?


 彼女は肩を震わせ、涙を両手で必死に拭いて、何度も拭いて、それから顔を上げて、タカに深く頭を下げた。それを見たタカが軽く抱擁して後ろから肩を一度叩く。


 俺は電話を鳴らした。取り次ぎなしの直通番号。冷えた声を確認すると、俺はスマホを横山翼に渡す。


 有料回線で、支払いは俺なんだ。俺に感謝してあいつと話をしろよ。話が終わったら、たぶん成哉は十五分くらいでここに到着するだろ。悔しいけど、俺にチカラは無い。俺に出来ることはほとんど無い。誰かに頼るしか能がない。いつも誰かを呼ぶことぐらいしかできないが、でも今回は俺があいつを呼び出したことになるからつまりやっぱり俺が主人公! 最強キャラを召喚してトラブル解決! 美少女元アイドル中学生が名実共に仲間になったと思えばそれで良し。


 後日談に見えて、実は見えていなかった真実が明かされる重要回だった最終話。物語の裏側。卒業詐欺、アイドルの噂を巡る攻防は表層。タカの本音は別にあった。賭場利場にアイドルを引き込んだって最初に居酒屋で打ち明けてきた時点でおかしいなと思ってはいた。でもさすがに、氷永会の内部事情は分からんよ。中学生だから性風俗の可能性は最初から消していたし。どっかで足踏み外した女の子なのかと思っていたけど、俺は何も見えていなかった。価値観と思考をアップデートしないと。常識が通用しない街にいることが俺の常識だって忘れないようにしないとね。


 ホワイトウィングはようやくこれで終わり。これ以上余計なことを書いても仕方がないので、ここでおしまい。巻き込んだ成哉、依頼人のタカ、トラブル解決に尽力奔走した俺。後処理は得意。何とかしてやったぜ。


 全てが落ち着いた後日。三人揃って居酒屋で「卒業詐欺と白翼のホワイトファルコン」騒動お疲れ様会! を執り行った。実は三人で顔を合わせるのは今年初めてだった。この三人は忙しいからな。俺がひとりで「お疲れ様でした!遅くなったけど、あけましておめでとうございます!今年もよろしく!」とビールジョッキを掲げたら無視された時間など面白くないだろうから割愛。


 三月になれば黙っていても春がやってくる。俺のところに舞い込んでくるトラブルも暖冬と共にグレードアップしている事だろうし、娘のギターを見守り、アイドルの動画でも観ながら次のトラブルを待つことにするよ。


 今度はヤクザ無しがいい。面倒くさいよね、ほんと。



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