「ほら、もっと叫べよ!もっと泣けよ!そうじゃないと面白くないだろぉ?」
粘着的で、そしてどこか狂気を感じさせる笑みを浮かべた成人男性が、ナイフを振り上げ、振り落とす。
その先にあるのは、紅く染まった夫婦が1組。
その光景を僕、堺優斗は呆然と眺めていた。
「なぁ、ほら!お前らの子供が!お前らが殺されてるところを見てるんだぜ?なぁ、だから泣き叫べよ!早く!!」
僕のことは眼中にないよ…いや、僕の両親を苦しませるための材料としか見ていない男は、そう叫びながらまた、ナイフを振り落とす。
あぁ、楽しそうに笑ってるな。
ふと、そう思った。
僕は、空気だ。
もちろん、言葉通りの意味ではなく、比喩的な意味だ。
学校には1人も友達がいないことは愚か話せる人もいない。
なら、ネットはどうかと聞かれても、現実となんら変わらない。
ネット上で話しかけられても、何を返せばいいのかわからず基本的な挨拶すらできない。
———そう、僕は世間一般的に「チー牛」と呼ばれる人種にもなれない真性のボッチなのだ。
そのせいで僕は、趣味と呼べるものを一つも持っていない。
自身がして、「楽しい」と思えるものを一つも持っていないのだ。
得意なこともなく、僕の特徴といえば信じられないほどに陰が薄く、そこにいても気づかれないことしかない。
だからつい、思ってしまったのだ。
狂気を感じさせるとはいえ、その、楽しそうな満面の笑みを浮かべられることが、羨ましいと。
目の前で、両親が殺されているにも関わらず。