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第2話

「もう、刺さないのですか?」


 すでに先ほどのような興奮はおさまり、狂気の笑みをおさめた男性に問う。


「あぁ、もう満足だよ」


 そう、男性はその返り血のついた顔で、爽やかに笑って返した。


「君は、僕のことを通報したりはしないのかい?」


 そう問われ、今気づく。

 「そういえば、殺しって犯罪だったっけ」、と。

 つい、その楽しそうな笑みにしまっていた。


「もう、いいかなって」


 両親が殺されたとはいえ、特に僕は男性に恨みなどを持っているわけではない。

 僕の陰の薄さは、家族内でまでも無駄に発揮されていたのだから。


「僕、家族にも存在忘れられてるようなものですし」

「え?そうだったのかい?」


 妙に困惑したような雰囲気を出す男性。


「僕、一応君の父親の部下なんだ」

「え?」

「それで僕、君の父親にいじめられていたんだ。その時に、『お前も俺の子供のようにするぞ』的なこと、何回も言われてたから。君のこと、忘れていたことはないと思うよ」


 父さん、僕のこと覚えてたんだ。

 部下をいじめいたという事実より、そのことが、いちばんの驚きだった。


「ふふっ、驚いているね。自分の父親が部下をいじめておるだなんて思わなかったかい?」

「いや、僕のことを覚えていたのがびっくりで...」

「そっちなのか」


 呆れたように笑う男性。

 気になった僕は、もう聞いてみることにした。


「あの——殺しって、楽しいんですか?」

「楽しいよ」


 間髪入れずに答える男性。

 あまりの返答も早さに驚き、その顔を見る。

 そこには、さっきと同じ美しさの中に狂気を含む笑みが浮かべられていた。


「君に、嫌いな人種はいるかい?」


 嫌いな人種、そういえば、これまで考えたこともなかった。

 嫌い...嫌い...


 その問いの答えを考え、思いついたのは。


「...目上の人の前ではいいツラ被ってる自分勝手ないじめっ子とか」


 僕のクラスにもいる、カーストトップに居座る系の人種だった。


「じゃあ、その嫌いな人種が自分に媚び、へつらい、最後に絶望しながら死んでいくその様を思い浮かべてみてよ。きっと、気持ちいよ」


 確かに、そうだろう。

 きっとそのようなことがあったら、僕は本当に笑えるだろうと、想像するだけでもそう思える。


「うん、まぁ、僕の答えを聞いて君がどう思ったのかを僕は知らない。だけどまぁ、好きに生きてみなよ。——どうせ、生きた先にあるのは『死』というバッドエンドなんだ。いくら僕たちが人を殺そうと、それは『終わり』が早まるだけ。いくら他人に何を言われようと、僕たちがそれを機に追う必要はないさ」


 確かに、一理ある。

 そう、納得してしまった。


「それじゃあ、僕はもういくよ。別に僕は君まで殺したいわけじゃないからね」


 そういって、男性は軽く服を洗い流してから去っていった。

 僕は、先ほどの男性の言葉について、考えていた。

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