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第八話 入団試験

「んで、誰よこのトカゲ人間」

「入団希望者です」


 ザイロスの質問にライラちゃんが答える。


「めんどくせーなー。今日はクエスト帰りで疲れてるってのによぉ~」

「それじゃザイロス様、あたしがテストしますよ。このトカゲ君」


 カリンが前に出てくる。

 クソ。いまだにコイツの声を聞くと体が強張る。なにかと理由つけて暴力振るってきやがったからな、この腹筋女。


「じゃ、お前に任せた。俺は先に宿に帰ってるよ。ムゥ、お前はどうする?」

「私は一応カリンについていきます」

「そうかい。終わったらすぐ合流しろよ~」


 カリンとムゥを残し、ザイロスは美女たちと本部を出ていった。


「ほら、ついてきなトカゲ野郎。あたしが相手してやる」

「よろしくお願いします」


 ザイロスは後回しだ。

 まずはコイツからだ。借りを返す。



  --- 



 ギルド本部の地下には修練場がある。石床、石壁のこざっぱりした場所だ。広さはそれなりだが特別な道具とかはない。修練用の木刀とかがあるだけだ。

 俺とカリンはその中央で向かい合う。


「さてトカゲ君、ルールは簡単だ。ギブアップした方が負け。それだけさ」

「……合格条件は?」

「あたしをギブアップさせりゃ確実に合格だよ。まぁそれは無理だと思うけど。ある程度やれるようなら入れてやる」


 ギャラリーはムゥとライラちゃんだけ。

 ムゥが控えているのが気がかりだが、追い出すわけにもいかないしな。仕方ない。


「よーい、スタートだ!」


 カリンは全速力で距離を詰めてくる。


――遅いな。


 バチン!!


「え?」


 俺は接近してくるカリンの額に、デコピンを当てた。

 カリンはデコピンの衝撃で頭から上半身を仰け反らせる。


「あ、アンタ……いま、なにをやった!?」


 どうやらカリンには今の一連の動作が見えなかったらしい。


「デコピン」

「はぁ?」

「指で額を弾いただけだ。まさか、今の一撃でもう終わりじゃないよな?」


 カリンは額の血管をピクピクと動かす。


「舐めやがってぇ!!」


 カリンの筋肉が肥大化する。

 その一つ結びの赤毛が逆立つ。

 カリンのユニークスキルは『闘魂(とうこん)』。感情の高ぶりに応じて身体能力が向上するというスキル。最大でステータスは1.5倍まで増える。

 カリンの力は300といったところ。1.5倍で450。大したものだ。だが今の俺の相手ではない。


「はは! あたしを怒らせたね! こうなりゃおしまいさ!! その鱗剥いでカーペットにしてやるよ!!」


 カリンは跳躍し、俺に接近。その勢いのまま、俺の胸を殴った。


「なっ!?」


 カリンは全力の拳を叩きつけてきた。だが、俺は一切微動だにしない。ダメージは0だ。

 今の俺の耐久は2500を超える。力450に対し耐久2500、これだけの差があればまずダメージは入らない。


「どうした? 笑えよ。いつも誰かを殴る時、笑ってたじゃねぇか」

「なに、言ってんだ」

「ほら、こんな風に――」


 俺は歯を剝き出しにして笑う。リザードマンの全力の笑みだ。カリンも、そして他二人も俺の笑顔を見て顔を真っ青にさせた。怯んだカリンの腹に、俺は右拳をめり込ませる。


「ごはっ!?」


 カリンは吹っ飛び、石の壁に背中から突っ込んだ。


「何の快感も不快もないな。暴力こんなことの何が楽しかったんだ? お前」

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