俺の生まれた家はそれなりに裕福だった。決して貴族にカテゴライズされるほどではないが、兄妹5人いて食う物に困らず暮らせていたのだから裕福と言っていいだろう。
父も母もB級程度の冒険者で、街中の人間に信頼されていた。俺の兄妹たちもそんな両親の才能を引き継ぎ、恵まれたステータスとユニークスキルを持っていた。
一方、俺だけは外れスキルに劣るステータス。預けられた冒険者学校でも落ちこぼれ、次第に両親からの愛情は消えていき、兄妹には馬鹿にされた。自分の弱さゆえに、どこにも居場所がなくなった俺は11歳の時、無謀にも家出して冒険者になった。
意外にも世界は落ちこぼれに優しいもので、できない者なりに仕事はそれなりにあった。薬草採り、掃除、そして――荷物持ち。
しかし俺もまだまだ子供で夢見がち。時には実力以上の依頼を受けた。たとえばオーク狩りとかね。そんでもって、まぁ、普通に返り討ちにあって死にかけたわけだ。
オークは俺よりも大きな金棒を振りかぶる。足はすくみ、体は動かない。振り下ろされたら死ぬ――ってところで、光の弾丸がオークを四方八方から撃ち抜いた。光の弾丸の正体は
「大丈夫?」
白い髪、日に焼けたような褐色肌、葉のような尖った耳。そして――あまりにも美しい、女性として完璧なバランスのその体。生まれて初めて、俺は女性に見惚れた。外見の特徴的に、エルフと呼ばれる種族であるとすぐにわかった。
「もう、無理しちゃダメよ坊や。自分の身の丈に合った相手を選びなさい」
そう言って去ろうとするエルフの背中を呼び止める。
「待ってください! あ、あの! 僕を弟子にしてください!」
地面におでこを擦りつけてお願いする。
「へぇ、人間がエルフに頭を下げるなんてね。帝国とは大違い」
「お願いします! 僕! 強くなりたいんです!!」
「強くなりたい、か。強くなって、どうするの?」
エルフからの質問。この質問の答え次第で、彼女の気が決まると直感した。
だけど俺は……上手い言葉を選べなかった。
「つ、強くなって……まずはあなたを、守ります」
なんというか、悪く言うと下心で答えてしまった。あまりに目の前のエルフが美しすぎて、気持ちが先走った。
でも思いのほか好感触だったのか、彼女は腹を抱えて笑った。
「私を守る? あなたみたいなちっちゃい男が? あはは! 面白いなーっ! いいね。若いっていうのは!」
彼女は俺の手を掴んで起こし、その後で頭を撫でてきた。
「いいわよ。一か月程度しか面倒見れないけど、あなたの師匠になってあげる」
「あ、ありがとうございます! が、頑張ります!」
「うんうん。頑張れ男の子」
男の子。と子ども扱いされたのが気に食わなかった。
俺はムッと顔をしかめて、
「あ、あの……僕は……ダンザ。ダンザ=クローニンって言います」
俺が名乗ると、彼女はくすりと笑って、
「私はロゼッタ。ロゼって呼んでね。ダンザ」
昔々、オッサンの淡い初恋の話だ。