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第6話

圭介は彼女の言葉をはったりだと決めつけた。


「好きにすればいいさ。でも言っておく。もう一度宗弥を家に呼んで食事させたら、今度こそ本当に無視するからな。」


そう言い捨てると、そのまま二階へ上がり、自分の部屋のドアに鍵をかけた。


美也子は鼻で笑った。


「ふん!」


図々しさにもほどがある。

まるで自分の家とでも思っているのだろうか。


部屋に戻った美也子は田中に連絡した。


「明日、圭介の荷物を部屋から全部出しておいて。」


この家に、私の頭の上に立とうとする寄生虫を置いておくつもりはない。


続いて、宗弥の携帯番号を保存し、メッセージを送った。


「もう家に着いた?」


返事はなかった。





翌朝


美也子が階下に降りると、もう圭介はいないだろうと思っていた。だが、彼はダイニングで待っていた。

無視して席に着き、朝食を始める。


圭介がじっと立ち尽くしているのを見て、美也子は眉を上げた。


「親友を迎えに行かないの?今ならまだ間に合うわよ。」


「恵理とはただの友達だ。変なこと言うな。」


圭介は慌てて否定した。


実際は既に関係を持った仲だが、優等生である自分にそんなスキャンダルは許されない。もし前世で恵理が調子に乗って口を滑らせなければ、美也子も最後まで信じられなかっただろう。


美也子は彼の自己欺瞞な表情を見上げた。今になっても、まだ自分を馬鹿にしているの?


朝食を終え外に出ると、運転手は知らない顔になっていた。圭介は先に車のドアを開けて美也子を乗せ、自分もすぐに後部座席へ乗り込む。


美也子は冷ややかに見つめた。


「葛城さん、何のつもり?昨日はもう帰らないってはっきり言ってたわよね?その言葉、ちゃんと覚えてるから。」


圭介は口をつぐんだ。


父親に頼まれなければ、頭なんて下げるものか。親のために仕方なくなのだ。家柄だけが取り柄の彼女に、なぜここまで……だが、父は本当にこの仕事が必要なのだ。


美也子はもう相手にせず、運転手に発車を促した。


学校に到着すると、圭介は相変わらず彼女の後ろにぴったりついていた。

いつもなら恵理も一緒に車で来るが、今日は一人でバス通学してきたらしい。圭介を見つけると、すぐに駆け寄ってきた。


「圭介くん!」


「おはよう。」


圭介は軽く頷いた。


恵理の視線が美也子をかすめる――昨日、この運転手の娘がここまで図々しく振る舞うなんて。二人が一緒に登校しているのを見て、恵理は探るように言った。


「二人仲直りしたの?」


美也子は無視して、そのまま校門をくぐった。


圭介は彼女の冷たい背中を睨みつけ、眉をひそめた。恵理には「気にすることじゃないよ」とだけ説明した。


「そうは言っても、運転手の娘に見下されてるなんて、圭介くんも随分お人よしね。今や学校中、美也子さんこそ本当のお嬢様だって噂になってるのよ!」


圭介は一瞬、胸がざわついたが、平然を装った。


「噂なんて気にしても仕方ない。家同士が昔からの付き合いで、頼まれて面倒を見ているだけさ。」


「そう……」


恵理は納得したふりをしたが、瞳の奥に陰が走った。


教室では、山本萌が美也子の席を塞ぐように立ちはだかっていた。


「どいて。」


美也子の声は冷たかった。


山本萌は鼻で笑った。


「恥知らずね。昨日は圭介と恵理を置いて、自分だけ車で帰るなんて!」


美也子はすぐに切り返す。


「うちのマイバッハに誰を乗せるかは私の自由よ。あなたに口出しされる筋合いはないわ。」


周囲の生徒たちがざわめいた。


「あのマイバッハ、あなたの家の?」


「そうだけど?」


美也子は平然と答えた。


山本萌は大声で嘲笑した。


「冗談でしょ?美也子、あなたの素性なんてみんな知ってるのに。今さらお嬢様気取り?似合わないわよ。運転手が父親だって噂もあるし、家族みんな葛城家で働いてるんでしょ?圭介先輩が優しいから追い出されずに済んでるだけよ!」


わざと声を張り上げ、周囲の冷たい視線が美也子に突き刺さる。


そのとき、圭介と恵理が教室に入ってきた。


圭介の顔は一瞬で険しくなった。山本萌の言葉は、彼のプライドを強く傷つけていた。


「自分の席に戻れ!」


鋭い声で怒鳴った。


山本萌はその迫力に押され、不満げにどいた。圭介は美也子の隣に座る。教師のお気に入りである彼が席を変えても、誰も文句を言えない。


山本萌は恵理の隣に移り、怒りを抑えきれずに言った。


「恵理、圭介先輩は何を考えてるの?美也子にここまでされて、まだ庇うなんて!」


恵理は平静を装った。


「お父さんに頼まれてるだけよ。あまり気にしないで。」


「ふん!」


山本萌は圭介の高級スマートフォンを見て、美也子の古い携帯と比べてさらに小馬鹿にした。


「どこがお嬢様よ。」


席に着いた美也子は、こっそり携帯を開いた。宗弥からようやく返信が来ていた。たった一言。「うん。」


その冷たい返事に胸が刺されるようだった。


昨夜まではまだ普通だったのに、帰宅後、急に距離を置かれた。返事も一晩経ってからだ。


圭介は、彼女のスマホ画面に表示された「宗弥」の名前を横目で見て、眉をしかめた。同じ人物のはずなのに、昨日からの美也子はすっかり別人のようだった。





美也子は再びメッセージを送る。


「午後の補習、予定通り?」


「うん。」


宗弥からの返信はやはり短い。


来てくれるなら、それでいい!余計なことは考えず、授業に集中した。これまでにないほどの集中力だった。


昼休みのチャイムが鳴り、恵理が圭介を誘いに来た。


圭介は思わず美也子の方を見てしまう。今日の彼女の真剣な様子は、彼には驚きだった。授業中も一度も居眠りせず、今も丁寧にノートをまとめている。


自分に夢中で、勉強になど興味のなかったあの美也子が、まさかこんな姿を見せるとは。


彼女が全く席を立つ気配もないので、圭介は我慢できず声をかけた。


「昼ご飯、行かないのか?」


美也子は何事もなかったかのように無視し、まるで彼など存在しないかのように、完全に空気の外へと追いやった。

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