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第20話

美也子が圭介のそばを離れてからというもの、今まで当たり前のようにもらえていた贈り物もすっかり途絶えてしまった。


恵理はそのことを誰よりもよく分かっていた。


生活は以前よりずっと厳しくなった。圭介は今アルバイトでなんとか小遣いを稼ぐのが精一杯で、毎日家まで送ってもらうことすら難しくなり、生活の質は一気に落ちてしまった。美也子に面倒を見てもらっていた頃とは比べ物にならない。


恵理は考えていた。やはり美也子をもう一度味方につけるしかない。


美也子が圭介のことを好きで、これまで通りお金を出してくれさえすれば、また元のように裕福な生活が戻るはずだ。


どうせ圭介が美也子のような女の子を好きになるはずがない。たとえ美也子がどれだけ尽くしても、恵理は少しも心配していなかった。


だから、恵理が美也子をバスケットボールの試合に誘ったときも、美也子は顔も上げず、きっぱりと言い放った。


「行かない。」


それでも諦めきれず、恵理は優しい声で続けた。


「どうして?圭介くん最近も美也子のことよく話してたよ。前はみんな仲良かったんだし、もうこんなのやめようよ?」


美也子は恵理を見て、前世の記憶がよみがえた。


あのとき、圭介に無理やり結婚させようと父親の会社まで差し出した。恵理も今と同じように、毎日圭介のことを褒めて、まるで何も気にしない振りをしていた。


その頃は本当に恵理が優しいだと思っていたが、結局恵理の寛大さなど、圭介の心が自分にあると確信しているからこその余裕にすぎなかった。美也子の存在が二人にとっては都合のいい道具にすぎなかった。


今また恵理が圭介のためにいい子ぶっているのを前にすると、美也子はその偽善がひどく鼻についた。冷たく言い放つ。


「私、友達選ぶときはちゃんと基準があるから。」


その一言で、恵理の笑顔は固まった。


周りにいた女の子たちがすぐに恵理の味方をして声を上げる。


「恵理、気にしないで!行かないならそれでいいじゃん!」


そう言いながら、恵理を囲んで去っていった。





美也子は用事を済ませてから、ゆっくり体育館へ向かった。


体育館の中では、圭介がすでにユニフォームに着替え、恵理と何やら話し込んでいる。制服を脱いだ圭介は鍛えられた体つきがよく目立つ。恵理はそんな圭介を見て、頬を赤らめていた。


圭介は美也子が入ってくるのに気づき、眉をひそめてやや苛立った声で言った。


「来ないって言ってなかったか?」


恵理もその声に気づき、優しく声をかける。


「美也子。」


美也子は二人に目もくれず、観客席の最前列、できるだけ遠い場所に座った。


座ったとたん、軽い口笛が聞こえた。顔を上げると、この前校門で会った鈴木陽太が近づいてきた。


大きな声で「如月美也子!」と呼び、周りの視線を集める。


陽太はやや怒った顔で言う。


「この前、俺にひどいこと言ったよな。謝るべきじゃないの?」


美也子は鼻で笑った。


「謝る?先にちょっかい出してきたのはどっち?」


「俺何かしたか?」


「パパ活してるって噂を流してたくせに、それが礼儀って言える?」


美也子は鋭い目で睨む。


「女の子の悪口ばかり言って、誰があんたなんかに優しくすると思うの?」


陽太はむきになって「みんなそう言ってるだけだし……」と答える。


「へえ?」


美也子は皮肉っぽく眉を上げる。


「じゃあ、みんながあんたのことゲイって言ったら、本当にそうだって認めるの?」


「誰がそんなこと言ったんだよ!」


陽太は思わず身を乗り出し、その必死な様子が美也子にはおかしくてたまらない。


陽太はさらに距離を詰め、声を潜めて自信ありげに言った。


「この前、俺の名前わざわざ聞いてきたよな。もしかして俺を誘惑したかったとか?葛城圭介と俺、どっちがカッコいい?」


わざとユニフォームの裾をめくり腹筋をちらりと見せると、周りの女子が小さく声を上げた。


美也子は思わず呆れてた。

この前鏡を見てって言ったのに、全然聞いてなかったみたいね。





そのとき、体育館が突然大きな歓声に包まれた。皆の視線が一斉に入り口へ向かう。


宗弥が入ってきた。


白い11番のユニフォームを着こなし、姿勢も雰囲気も圧倒的な存在感。まるで光をまとったかのように、体育館の雰囲気が一変した。


陽太も美也子そっちのけで宗弥のもとへ駆け寄る。


「宗弥先輩!」


美也子もすぐに笑顔になり、宗弥に向かって手を振る。


宗弥は会場を一通り見回し、美也子のところでほんの一瞬だけ視線を止め、表情を変えずに軽くうなずいた。


鈴木は宗弥の視線を追い、美也子が嬉しそうに手を振っているのを見て、

心の中で「なんだ、宗弥先輩狙いかよ。でも宗弥先輩は女に興味ないって有名だし、無駄だ」と毒づく。


一方、圭介は美也子が宗弥に向けた笑顔を見て、無意識に唇を引きつらせた。恵理はその横で、少し妬ましそうに小声で言った。


「美也子、宗弥のこと好きになったのかな?」


宗弥が現れた瞬間、恵理自身もその美しさに目を奪われたが、宗弥のような人間とは自分とは住む世界が違うと分かっていた。


恵理には美也子がどこからそんな自信を持って宗弥を狙うのか理解できなかった。パパ活をしてるくせに、どうしてあんな高嶺の花を狙えると思うのか。


圭介は何も答えず、苛立ちを隠せないまま「ウオーミングアップしてくる」とだけ言い残し、その場を離れた。美也子が自分のためでなく、宗弥のために来ていたと知った瞬間、その事実が胸に突き刺さる。


かつて、圭介は美也子にまとわりつかれるのが鬱陶しくてたまらなかった、ガムのようにしつこい。だが、そのガムが自分から離れ、しかも宗弥に向かい始めた今、その気持ちは言葉にできないほど苦しかった。


如月の家にいた頃社長が宗弥を婿にと望んでいたことを思い出す。そのときは、心の中で歪んだ満足感を覚えていた。

どんなに宗弥が自分を圧倒しても結局美也子は自分のものだ、宗弥には見向きもしない。その事実だけが、宗弥への劣等感をかろうじて克服できた。


だが今、その唯一の慰めすら美也子自身の手で壊されようとしていた。


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