合宿も終盤。疲れがじわじわ体を蝕んでいるけれど、心は逆に熱く燃えている茉莉奈だった。
「今日も特訓頑張るぞー!」
朝の挨拶はいつも通り元気いっぱい。でもその声の裏で、心臓はバクバク。
なぜなら、藤井先輩との距離が、なんとなく急接近している気がするから。
体育館の窓から差し込む朝日が眩しい中、二人は剣を握り合っていた。
「茉莉奈、動きが遅いぞ。もっと集中しろ」
藤井先輩はいつも通り、ツンとした口調。でも目は真剣で、時々ふっと柔らかくなる。
「は、はいっ!」
心の中では「ドキドキが止まらない…!」と騒いでいるのに、口にすると途端に空回り。
稽古の後の休憩タイム。水を飲みながら、茉莉奈は藤井先輩の横顔をじっと見つめた。
「ねえ、藤井先輩……」
「……なんだ」
「私、先輩のことが、少し気になってて」
「……おまえ、そんなんじゃ勝てねぇよ」
「ええっ!? 気になってるって言っただけなのに、そんな毒舌は酷くないですか!?」
「……べ、別におまえのことなんて考えてねぇし」
ああ、まさにツンデレの典型。恥ずかしさと素直になれなさが入り混じってる。
茉莉奈は思わず笑ってしまった。
そんな時、
「茉莉奈、今日の稽古、良かったぜ!」
不破くんはちょっと熱血タイプで、茉莉奈に熱い視線を送っている。
「ありがとう、不破くん。でも藤井先輩の方が断然上手くて…」
「そうかな? 僕は茉莉奈の成長に驚いてる。最近すごく強くなったよ」
「えへへ、ありがとう!」
「それに、俺……茉莉奈のことが本気で好きなんだ」
「えっ?」
「だから……これからはライバルだけじゃなくて、ちゃんと恋の勝負もしようぜ!」
不破くんの真剣な告白に、茉莉奈の胸は大きく揺れた。
夕方、体育館の隅。
莉乃先輩と二人で基礎練習をしている時、ふいに莉乃先輩が言った。
「ねぇ、茉莉奈」
「はい?」
「藤井はね……ああ見えて、繊細で孤独な子なの。だから、ああやって毒舌になるけど、本当は自分を守るためなんだよ」
「そうなんですか……」
「でも、茉莉奈みたいに明るくて純粋な子がいると、藤井も救われる。君は大切な存在なんだ」
莉乃先輩の言葉に、茉莉奈は胸がジンと熱くなるのを感じた。
「それにね、茉莉奈」
「はい?」
「私も、少しだけ、君に特別な気持ちを持ってるかもしれない」
その一言に、茉莉奈の顔は一気に赤くなった。
「莉乃先輩……」
二人の視線が重なり、しばらく言葉が出なかった。
合宿の最終日。
部活対抗のトーナメント戦が開かれた。
茉莉奈は藤井先輩、不破くんと共に、チーム剣王会のエースとして挑む。
試合は白熱し、藤井先輩はいつも以上に闘志を燃やしていた。
「茉莉奈、お前が負けるわけにはいかない!」
「はいっ!」
一瞬の攻防で、藤井先輩の竹刀が相手の竹刀を弾き飛ばす。
その表情は、普段の無口な藤井とはまるで違う――燃えるような真剣さ。
試合後、藤井先輩は茉莉奈に小さな声で言った。
「……おまえ、俺のこと、少しは意識してるんだろ」
「え?」
「素直になれよ」
「そ、そんなの……」
「もういい、次の練習だ!」
ツンデレ全開で、顔を真っ赤にして走り去る藤井先輩に、茉莉奈は思わず笑ってしまった。
合宿が終わり、夜。
部屋で一人、茉莉奈は思い返していた。
「私、どうしたらいいんだろう……」
藤井先輩、不破くん、そして莉乃先輩。三人それぞれに特別な気持ちがあって。
「でも、全部が好きなんだって気づいちゃった」
甘酸っぱくて、切なくて、時々苦しいけど――
これが青春ってやつなんだろうな。