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第5話 「告白未満の攻防戦、そして不破くんの熱視線」

合宿も終盤。疲れがじわじわ体を蝕んでいるけれど、心は逆に熱く燃えている茉莉奈だった。


「今日も特訓頑張るぞー!」

朝の挨拶はいつも通り元気いっぱい。でもその声の裏で、心臓はバクバク。


なぜなら、藤井先輩との距離が、なんとなく急接近している気がするから。


体育館の窓から差し込む朝日が眩しい中、二人は剣を握り合っていた。


「茉莉奈、動きが遅いぞ。もっと集中しろ」

藤井先輩はいつも通り、ツンとした口調。でも目は真剣で、時々ふっと柔らかくなる。


「は、はいっ!」

心の中では「ドキドキが止まらない…!」と騒いでいるのに、口にすると途端に空回り。


稽古の後の休憩タイム。水を飲みながら、茉莉奈は藤井先輩の横顔をじっと見つめた。


「ねえ、藤井先輩……」


「……なんだ」


「私、先輩のことが、少し気になってて」


「……おまえ、そんなんじゃ勝てねぇよ」


「ええっ!? 気になってるって言っただけなのに、そんな毒舌は酷くないですか!?」


「……べ、別におまえのことなんて考えてねぇし」


ああ、まさにツンデレの典型。恥ずかしさと素直になれなさが入り混じってる。


茉莉奈は思わず笑ってしまった。




そんな時、不破ふわくんが近づいてきた。


「茉莉奈、今日の稽古、良かったぜ!」


不破くんはちょっと熱血タイプで、茉莉奈に熱い視線を送っている。


「ありがとう、不破くん。でも藤井先輩の方が断然上手くて…」


「そうかな? 僕は茉莉奈の成長に驚いてる。最近すごく強くなったよ」


「えへへ、ありがとう!」


「それに、俺……茉莉奈のことが本気で好きなんだ」


「えっ?」


「だから……これからはライバルだけじゃなくて、ちゃんと恋の勝負もしようぜ!」


不破くんの真剣な告白に、茉莉奈の胸は大きく揺れた。




夕方、体育館の隅。

莉乃先輩と二人で基礎練習をしている時、ふいに莉乃先輩が言った。


「ねぇ、茉莉奈」


「はい?」


「藤井はね……ああ見えて、繊細で孤独な子なの。だから、ああやって毒舌になるけど、本当は自分を守るためなんだよ」


「そうなんですか……」


「でも、茉莉奈みたいに明るくて純粋な子がいると、藤井も救われる。君は大切な存在なんだ」


莉乃先輩の言葉に、茉莉奈は胸がジンと熱くなるのを感じた。


「それにね、茉莉奈」


「はい?」


「私も、少しだけ、君に特別な気持ちを持ってるかもしれない」


その一言に、茉莉奈の顔は一気に赤くなった。


「莉乃先輩……」


二人の視線が重なり、しばらく言葉が出なかった。




合宿の最終日。

部活対抗のトーナメント戦が開かれた。


茉莉奈は藤井先輩、不破くんと共に、チーム剣王会のエースとして挑む。


試合は白熱し、藤井先輩はいつも以上に闘志を燃やしていた。


「茉莉奈、お前が負けるわけにはいかない!」


「はいっ!」


一瞬の攻防で、藤井先輩の竹刀が相手の竹刀を弾き飛ばす。


その表情は、普段の無口な藤井とはまるで違う――燃えるような真剣さ。


試合後、藤井先輩は茉莉奈に小さな声で言った。


「……おまえ、俺のこと、少しは意識してるんだろ」


「え?」


「素直になれよ」


「そ、そんなの……」


「もういい、次の練習だ!」


ツンデレ全開で、顔を真っ赤にして走り去る藤井先輩に、茉莉奈は思わず笑ってしまった。




合宿が終わり、夜。

部屋で一人、茉莉奈は思い返していた。


「私、どうしたらいいんだろう……」


藤井先輩、不破くん、そして莉乃先輩。三人それぞれに特別な気持ちがあって。


「でも、全部が好きなんだって気づいちゃった」


甘酸っぱくて、切なくて、時々苦しいけど――


これが青春ってやつなんだろうな。



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