朝の澄んだ空気が肌を刺す。
剣王会のメンバーはバスに揺られて、遠くの合宿所へと向かっていた。
今回の「勝ち抜き合宿」は、県内外の強豪校が集まるスポーツチャンバラの祭典。
「ここで勝てなきゃ、剣王会のプライドが保てない」――そんな緊張感が胸を締め付ける。
茉莉奈は窓の外を見ながら、心の中で呟いた。
「莉乃先輩と二人旅なんて、緊張するけど楽しみ……」
同時に隣の席でスマホをいじっている藤井先輩をちらりと見る。
彼はいつも通り、無言で画面に没頭しているけど、時々眉間にシワが寄っている。
「……あいつも緊張してるのかな?」
そして後ろの席から、どんと肩を叩かれた。
「おい、茉莉奈。準備はいいか?」
振り返ると、そこには不破くんの真剣な眼差しがあった。
「うん、もちろん!」
不破くんの瞳の奥に見え隠れする「俺が守る」という熱い決意が、なぜか心強く感じられた。
合宿所に着くと、すでに県外の強豪校たちが集まっていた。
大会前のウォーミングアップが始まる中、莉乃先輩が茉莉奈の元へ歩み寄る。
「茉莉奈、しっかり準備できてる?」
「はい、先輩! 莉乃先輩と一緒だから絶対頑張れます!」
莉乃先輩の瞳が柔らかく輝き、優しい笑顔を見せる。
「じゃあ、私たちのペア、絶対負けないわよ」
二人の距離が自然に近づき、茉莉奈は胸の鼓動を押さえきれない。
大会が始まる。
まずは個人戦。
藤井先輩は驚異的な動きで次々に勝ち進んでいく。
だが彼の顔には、普段の無表情とは違う、熱い覚悟がにじんでいた。
試合の合間、茉莉奈は藤井先輩に話しかけた。
「先輩、試合中、すごくかっこよかったです!」
彼は少しだけ顔を赤らめて、ぽつりと言った。
「……別に、おまえのためじゃねえし。勝つのは当たり前だ」
でも、その照れ隠しの口調が、茉莉奈には愛しく聞こえた。
次は団体戦。
茉莉先輩・藤井先輩・不破くんの三人で戦うことになった。
だが、試合は思わぬ展開を見せる。
不破くんが茉莉奈に向かって叫ぶ。
「茉莉奈、俺が絶対守るからな!」
彼の目は真剣そのもの。
茉莉奈は胸が熱くなったが、同時に心の中で葛藤もあった。
「私のこと、あんなに想ってくれて……でも、私の気持ちは藤井先輩に向いてる……」
試合後の休憩時間、莉乃先輩が茉莉奈にそっと寄り添う。
「茉莉奈、あなたのこと、ちゃんと見てるわよ。自信持ちなさい」
「莉乃先輩……ありがとうございます。先輩の言葉が、すごく心強いです」
二人は見つめ合い、まるで秘密の約束を交わすかのように微笑んだ。
その夜、合宿所の広間で行われた交流会。
みんなが盛り上がる中、藤井先輩は不破くんに不意に言った。
「……おまえ、茉莉奈のこと好きらしいな」
「えっ、バレてた?」
「バレてんだよ。だが、勝負はこれからだ」
「藤井先輩、手加減しねえからな!」
二人の目が真剣にぶつかり合う。
茉莉奈はその様子を見て、胸の中で何かがはじけるのを感じた。
翌朝、莉乃先輩と茉莉奈は早朝の道場で稽古をしていた。
「今日は特訓よ。私たちの絆をもっと強くするの」
茉莉奈は刀を握りしめ、真剣な眼差しで応じた。
稽古の合間、莉乃先輩はぽつりとつぶやいた。
「実はね、私も昔は恋に不器用で……でも、剣王会で皆と過ごすうちに少しずつ変わったの」
「莉乃先輩がそんなことを?」
「そうよ。だから、茉莉奈も焦らずに、自分の気持ちに正直になりなさい」
二人は刀を合わせて、火花を散らしながら笑い合った。
それはまるで、未来への約束のようだった。
合宿最終日、決勝戦が始まる。
対戦相手は県内最強のチーム。
剣王会の三人は力を合わせ、互いを信じて戦う。
藤井先輩は毒舌を交えつつも、茉莉奈への特別な視線を隠さず、
不破くんは茉莉奈を守るために果敢に攻め、
莉乃先輩は冷静かつ的確な指示でチームをまとめた。
試合は激闘の末、ぎりぎりの勝利で剣王会が勝ち抜いた。
帰りのバスの中。
茉莉奈は藤井先輩の隣で、少しだけ手を握った。
藤井先輩は驚いて、一瞬固まる。
「……バ、バカ。なにしてんだよ」
でもその頬は真っ赤で、目はどこか優しかった。
不破くんはその様子を見て、「俺も負けてらんねえ!」と拳を握った。
莉乃先輩はそんな二人を微笑みながら見つめていた。
茉莉奈は心の中で決めた。
「この三人との関係、どれも大切。どんな展開でも、私はこの青春を大切にしたい」
甘酸っぱさ、友情、恋。
スポーツチャンバラはただの勝負じゃない。
それは彼女たちの心を繋ぐ、真剣勝負だった。