合宿4日目。剣王会の部屋は朝の光に包まれていた。
藤井先輩は布団にくるまったまま、無理に起き上がって鏡の前に立つ。
「……今日も、負けられねぇな」
表情は無表情を装いながらも、瞳の奥には熱い決意が燃えていた。
その隣の部屋では、不破くんが鏡に向かって拳を握りしめていた。
「絶対、茉莉奈を守る! 俺が勝つ!」
彼の声は自分への約束だった。
茉莉奈はというと、莉乃先輩と共に朝のランニングに出ていた。
莉乃先輩は大人の余裕を漂わせながらも、ふと茉莉奈の肩に手を置いて言った。
「焦らないことよ。恋も剣も、ゆっくり成長していくもの」
茉莉奈は少し顔を赤らめて、「はい、先輩」と返す。
朝食後、剣王会の部員たちは次の試合に向けて準備を始めた。
不破くんが茉莉奈のそばにやって来て、小声で言う。
「茉莉奈、試合終わったら、ちょっと話がある」
茉莉奈は驚きつつも、笑顔で頷いた。
「うん、わかった!」
だが、藤井先輩はそのやりとりを見ていて、内心穏やかではなかった。
「……くそっ、俺の気持ちに気づいてないんだな」
ツンデレの彼は、感情をうまく言葉にできず、無意識に背を向けてしまう。
そして、勝ち抜き戦、3回戦。
対戦相手は強豪の女子チーム。
莉乃先輩は茉莉奈に戦術を伝えつつ、優しく励ます。
「茉莉奈、私が前で足止めする。あなたはチャンスを逃さないで」
茉莉奈は刀を握りしめ、「はい!」と元気に応えた。
試合は白熱し、莉乃先輩と茉莉奈は息の合った連携でポイントを重ねていく。
試合中、莉乃先輩が一瞬見せた優しい笑顔に、茉莉奈の心はドキドキした。
「こんな先輩ともっと近くで戦いたい」
その思いは、友情以上の何かへと変わっていく。
試合後、疲れた茉莉奈が控室で息を整えていると、不破くんがやってきた。
「約束の話、今だ」
茉莉奈は少し緊張しながらも、彼の真剣な瞳を見て答えた。
「聞かせて、不破くん」
不破くんはゆっくりと言葉を選びながら話し始める。
「俺は……茉莉奈のこと、好きだ。おまえの笑顔が見たい。守りたい」
茉莉奈の頬が赤く染まる。だが、彼女の胸の奥には、藤井先輩への想いも確かにあった。
「ありがとう、不破くん。気持ちはうれしい……でも、私、まだ整理できてないんだ」
不破くんは少し俯いたが、「分かった。焦らず待つ」と誓う。
その夜、剣王会のメンバーはみんなで談笑していた。
藤井先輩は茉莉奈の隣に座りながら、ぽつりと言った。
「なあ、茉莉奈……おまえ、俺のことどう思ってるんだ?」
茉莉奈は驚き、すぐに言葉が出ない。
藤井先輩は顔を背けて、悔しそうに続ける。
「無視すんなよ。俺は……おまえが気になるんだ」
茉莉奈の心は大きく揺れ動いた。
「私も、先輩のこと……」と言いかけて、言葉を飲み込む。
合宿最終日、勝ち抜き戦の決勝が始まる。
藤井先輩、不破くん、茉莉奈、莉乃先輩。
四人の心がせめぎ合う緊張感が、会場を包む。
決勝戦は、まるで恋の三つ巴バトルのようだった。
藤井先輩は茉莉奈を狙い、不破くんはそれを阻み、莉乃先輩は冷静に指示を飛ばす。
激しい剣戟の中、茉莉奈は必死に自分の気持ちを整理しようとしていた。
その時、藤井先輩が小さく呟いた。
「茉莉奈、俺を信じろ」
茉莉奈はその言葉に背中を押され、思い切って前に出た。
試合終了のホイッスルが鳴り響き、剣王会は勝利を掴んだ。
みんなが歓声を上げる中、茉莉奈は藤井先輩と不破くん、そして莉乃先輩を見つめた。
「みんな、ありがとう。私、みんなが大好き」
藤井先輩は頬を赤らめながら、ぎこちなく言った。
「……バカ、そんなこと言うな」
不破くんは「俺も負けねぇ!」と叫び、莉乃先輩は微笑みながら二人を見守った。
茉莉奈の青春は、まだまだこれからだ。
甘酸っぱい恋と、真剣な剣戟が織りなす物語は、これからも続いていく。