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第8話 「三者三様、揺れる恋心──勝ち抜き合宿、終盤戦」

合宿4日目。剣王会の部屋は朝の光に包まれていた。

藤井先輩は布団にくるまったまま、無理に起き上がって鏡の前に立つ。

「……今日も、負けられねぇな」

表情は無表情を装いながらも、瞳の奥には熱い決意が燃えていた。


その隣の部屋では、不破くんが鏡に向かって拳を握りしめていた。

「絶対、茉莉奈を守る! 俺が勝つ!」

彼の声は自分への約束だった。


茉莉奈はというと、莉乃先輩と共に朝のランニングに出ていた。

莉乃先輩は大人の余裕を漂わせながらも、ふと茉莉奈の肩に手を置いて言った。

「焦らないことよ。恋も剣も、ゆっくり成長していくもの」

茉莉奈は少し顔を赤らめて、「はい、先輩」と返す。


朝食後、剣王会の部員たちは次の試合に向けて準備を始めた。

不破くんが茉莉奈のそばにやって来て、小声で言う。

「茉莉奈、試合終わったら、ちょっと話がある」

茉莉奈は驚きつつも、笑顔で頷いた。

「うん、わかった!」


だが、藤井先輩はそのやりとりを見ていて、内心穏やかではなかった。

「……くそっ、俺の気持ちに気づいてないんだな」

ツンデレの彼は、感情をうまく言葉にできず、無意識に背を向けてしまう。


そして、勝ち抜き戦、3回戦。

対戦相手は強豪の女子チーム。

莉乃先輩は茉莉奈に戦術を伝えつつ、優しく励ます。

「茉莉奈、私が前で足止めする。あなたはチャンスを逃さないで」

茉莉奈は刀を握りしめ、「はい!」と元気に応えた。


試合は白熱し、莉乃先輩と茉莉奈は息の合った連携でポイントを重ねていく。

試合中、莉乃先輩が一瞬見せた優しい笑顔に、茉莉奈の心はドキドキした。

「こんな先輩ともっと近くで戦いたい」

その思いは、友情以上の何かへと変わっていく。


試合後、疲れた茉莉奈が控室で息を整えていると、不破くんがやってきた。

「約束の話、今だ」

茉莉奈は少し緊張しながらも、彼の真剣な瞳を見て答えた。

「聞かせて、不破くん」


不破くんはゆっくりと言葉を選びながら話し始める。

「俺は……茉莉奈のこと、好きだ。おまえの笑顔が見たい。守りたい」

茉莉奈の頬が赤く染まる。だが、彼女の胸の奥には、藤井先輩への想いも確かにあった。

「ありがとう、不破くん。気持ちはうれしい……でも、私、まだ整理できてないんだ」

不破くんは少し俯いたが、「分かった。焦らず待つ」と誓う。


その夜、剣王会のメンバーはみんなで談笑していた。

藤井先輩は茉莉奈の隣に座りながら、ぽつりと言った。

「なあ、茉莉奈……おまえ、俺のことどう思ってるんだ?」

茉莉奈は驚き、すぐに言葉が出ない。

藤井先輩は顔を背けて、悔しそうに続ける。

「無視すんなよ。俺は……おまえが気になるんだ」

茉莉奈の心は大きく揺れ動いた。

「私も、先輩のこと……」と言いかけて、言葉を飲み込む。


合宿最終日、勝ち抜き戦の決勝が始まる。

藤井先輩、不破くん、茉莉奈、莉乃先輩。

四人の心がせめぎ合う緊張感が、会場を包む。


決勝戦は、まるで恋の三つ巴バトルのようだった。

藤井先輩は茉莉奈を狙い、不破くんはそれを阻み、莉乃先輩は冷静に指示を飛ばす。

激しい剣戟の中、茉莉奈は必死に自分の気持ちを整理しようとしていた。


その時、藤井先輩が小さく呟いた。

「茉莉奈、俺を信じろ」

茉莉奈はその言葉に背中を押され、思い切って前に出た。


試合終了のホイッスルが鳴り響き、剣王会は勝利を掴んだ。

みんなが歓声を上げる中、茉莉奈は藤井先輩と不破くん、そして莉乃先輩を見つめた。

「みんな、ありがとう。私、みんなが大好き」

藤井先輩は頬を赤らめながら、ぎこちなく言った。

「……バカ、そんなこと言うな」

不破くんは「俺も負けねぇ!」と叫び、莉乃先輩は微笑みながら二人を見守った。


茉莉奈の青春は、まだまだこれからだ。

甘酸っぱい恋と、真剣な剣戟が織りなす物語は、これからも続いていく。



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