「え? 転校生!?」
茉莉奈が思わず声を上げたのは、合宿が終わって数日後、日常に戻った剣王会の部室でのことだった。
「今日からこの学校に転入してきた
顧問の紹介とともに入ってきたのは、長い黒髪と鋭い目つきが印象的な、クール系美少女だった。
「スポーツチャンバラ、全中ベスト8って……ガチの人じゃん!?」
「しかも、剣王会に入部希望だと!?」
ざわめく部員たち。だが、茉莉奈の胸を最もざわつかせたのは、彼女が放った一言だった。
「藤井先輩に、会いに来ました」
……え? いま、なんて?
「ごめんなさい、聞き間違い……?」
「中学の頃から、ずっと先輩に憧れていました」
即死レベルの宣戦布告が、茉莉奈のハートを直撃した。
「ちょ、ちょっと待って……何それ!? まるで少女漫画のライバルキャラじゃん!」
茉莉奈はその日の帰り道、藤井先輩とすれ違った瞬間を思い出して頭を抱えた。
「……先輩、なんて顔してたっけ……。いや、いつもの無表情だったけど、目がちょっと泳いでた気がするし……!」
悶々としながら部室に戻ると、紗綾が藤井先輩に付きっきりでフォームを教わっているのを目撃してしまう。
(う、うわあああああ! 近い、距離近すぎ! ていうか先輩、教えるのうまいし! えっ、何その優しい目……私のときと違くない!?)
さらに追い打ちをかけるように、紗綾が茉莉奈の目の前で藤井先輩に言い放つ。
「私、恋愛とか興味ないって思ってた。でも、先輩だけは特別なんです」
その言葉に、茉莉奈の胸の奥がズキンと痛む。
その日の練習後、莉乃先輩が茉莉奈の肩をポンと叩いた。
「……焦る気持ちはわかるけど、大事なのは自分の気持ちとちゃんと向き合うことよ」
「莉乃先輩……」
「誰が好きで、どうして好きで、どうしたいのか。ね?」
莉乃先輩の言葉が胸にしみて、茉莉奈はゆっくり頷いた。
そして数日後、校内スポーツチャンバラ部活対抗戦が開催されることに。
茉莉奈はエントリーリストを見て、目を見開いた。
「え……!? ペア戦のくじ引き、まさかの……!」
──藤井先輩と紗綾がペアになっていた。
「え、私のペアは……まさかの不破くん!?」
不破「やっと来たか、この時が……! おれの全力、見せるときだ……!」
不破くんが気合いを入れる中、茉莉奈の心中は真逆だった。
(うそ、うそでしょ……先輩と、紗綾ちゃんがペアって……)
でも、泣き言なんて言ってられない。試合は明日。全ての恋と剣が交差する、運命の一日が始まる。
そして大会当日。
白熱する試合が続く中、ついに――
「準決勝、剣王会代表・藤井&不知火ペア vs 剣王会代表・茉莉奈&不破ペア、開始!」
「なんで身内対決なの~~~~~~!?」
茉莉奈の叫びは虚しく響いた。
試合が始まると、紗綾は藤井先輩にぴったりと張り付き、流れるような連携を見せた。
「な、なにあの連携力! はじめて組んだとは思えない!」
「藤井先輩は、私の剣のリズムを分かってくれてるんです」
紗綾の言葉がまっすぐに刺さる。
(そんなの、ずるい……! でも、私だって……!)
茉莉奈は全力で打ち込み、不破くんも負けじと動いた。
そして――決着の一太刀。
「一本! 勝者、茉莉奈&不破ペア!」
観客が湧く中、茉莉奈は息を切らしながら藤井先輩を見る。
「私、もっと強くなる……剣も、気持ちも!」
その言葉に、藤井先輩は顔を少し赤らめて、ぼそっと言った。
「……バカ。勝手にそうやって決意するなよ……応援、するけど」
顔を赤くしながら目をそらす藤井先輩に、茉莉奈の胸がきゅうっと締めつけられた。
紗綾は静かに茉莉奈の隣に立ち、低く言う。
「負けたからって、諦めません。藤井先輩は、私の初恋なんですから」
(──恋のチャンバラ、第二幕突入。甘くて苦くて、ちょっと切ない。でも、絶対負けられない!)
青春の勝負は、まだまだ続く。