目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第11話「おでこがぶつかる5cm前! 告白未遂と、青春しょうゆラーメンの味」

 駅のホームでの別れ際。


 まだ夕焼けが残る空の下、私は思った。


(あのとき言えばよかった。好きって、ちゃんと)


 でも、あのダサい私服と、割れたコップと、先輩の赤い顔と、店員さんの「触らないでくださいね〜」が頭の中でループしてて、告白どころじゃなかった。


 ラーメン屋で笑いすぎて涙を流したあとも、先輩は「バカ」とか「うるさい」とかぶつぶつ言ってたけど、ずっと顔は真っ赤だった。


 ……あの顔、忘れられない。


 そして、翌週の放課後。


 私はまたしても、剣王会の部室でひとり、もんもんとしていた。


「はあ……」


 藤井先輩に会うと、顔が熱くなる。まともに目を見られない。練習中に手が触れると、頭がふわっとしてしまう。


(だめだ……このままじゃ、まともに練習もできない……!)


 悩んでいたそのとき、部室のドアが開いた。


 「おつかれ」


 藤井先輩だ。


 私は跳ね起きた。反射的に立ち上がり、思わず叫ぶ。


「せ、先輩! もう一回、ラーメン行きませんか!?」


 沈黙。変な空気。自分でも何言ってるんだってわかってる。でも、止まらない。


「い、いや、その……違うんです! いや、違わないんです! その、つまり――」


 私はぐるぐると回りながら、覚悟を決めた。


「先輩のこと、ずっと……気になってて!」


 言っちゃった。もう引き返せない。


 でも、先輩はじっと私を見ていた。真っ直ぐな視線。怖いほどの無表情。でも、なぜか耳はまた赤い。


「……おれ、そういうのよくわからないけど」


 一歩、先輩が近づいた。


 心臓の音が、自分にも聞こえるくらいにドクンドクン鳴ってる。


「おまえがラーメン食べて笑ってるのとか、試合で全力なとことか……見てると、変に落ち着く」


 そして、もう一歩。


 距離、あと5センチ。


「だから、また行こう。ラーメンでも、なんでも」


 おでことおでこが、ぶつかるくらい近かった。


 でも、そこで――


 「うぉい、茉莉奈~! 今日こそ決着つけようぜぇ~!!」


 不破くんが、超絶タイミングで乱入してきた。


「なっ、いま、いまじゃなかったでしょ!!」


「えっ、何? 修羅場? なんか修羅場!?」


 私は顔を真っ赤にして、不破くんを部室の外に押し出す。


 ……このバカ、最高のタイミングで来やがって!!


 先輩はというと、珍しく声を出して笑っていた。


 「……ぷっ」


「ちょ、笑ってるし!?」


「おまえら、青春って感じでいいなって思って」


 その笑顔が、また不意打ちで、私の心臓にクリティカルヒットした。


 ラーメンもコップも私服も、どうでもよくなるくらい。


 ――これはたぶん、好きってことだ。


 いや、たぶんじゃない。絶対に。


 次こそはちゃんと言う。絶対に。ラーメン屋でも、部室でも、どこだっていい。


 私のこの気持ち、届けるんだ。


 それが、きっと――


 恋のチャンバラ、第三幕。


 「私、勝ちたいです。恋でも、ちゃんと」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?