駅のホームでの別れ際。
まだ夕焼けが残る空の下、私は思った。
(あのとき言えばよかった。好きって、ちゃんと)
でも、あのダサい私服と、割れたコップと、先輩の赤い顔と、店員さんの「触らないでくださいね〜」が頭の中でループしてて、告白どころじゃなかった。
ラーメン屋で笑いすぎて涙を流したあとも、先輩は「バカ」とか「うるさい」とかぶつぶつ言ってたけど、ずっと顔は真っ赤だった。
……あの顔、忘れられない。
そして、翌週の放課後。
私はまたしても、剣王会の部室でひとり、もんもんとしていた。
「はあ……」
藤井先輩に会うと、顔が熱くなる。まともに目を見られない。練習中に手が触れると、頭がふわっとしてしまう。
(だめだ……このままじゃ、まともに練習もできない……!)
悩んでいたそのとき、部室のドアが開いた。
「おつかれ」
藤井先輩だ。
私は跳ね起きた。反射的に立ち上がり、思わず叫ぶ。
「せ、先輩! もう一回、ラーメン行きませんか!?」
沈黙。変な空気。自分でも何言ってるんだってわかってる。でも、止まらない。
「い、いや、その……違うんです! いや、違わないんです! その、つまり――」
私はぐるぐると回りながら、覚悟を決めた。
「先輩のこと、ずっと……気になってて!」
言っちゃった。もう引き返せない。
でも、先輩はじっと私を見ていた。真っ直ぐな視線。怖いほどの無表情。でも、なぜか耳はまた赤い。
「……おれ、そういうのよくわからないけど」
一歩、先輩が近づいた。
心臓の音が、自分にも聞こえるくらいにドクンドクン鳴ってる。
「おまえがラーメン食べて笑ってるのとか、試合で全力なとことか……見てると、変に落ち着く」
そして、もう一歩。
距離、あと5センチ。
「だから、また行こう。ラーメンでも、なんでも」
おでことおでこが、ぶつかるくらい近かった。
でも、そこで――
「うぉい、茉莉奈~! 今日こそ決着つけようぜぇ~!!」
不破くんが、超絶タイミングで乱入してきた。
「なっ、いま、いまじゃなかったでしょ!!」
「えっ、何? 修羅場? なんか修羅場!?」
私は顔を真っ赤にして、不破くんを部室の外に押し出す。
……このバカ、最高のタイミングで来やがって!!
先輩はというと、珍しく声を出して笑っていた。
「……ぷっ」
「ちょ、笑ってるし!?」
「おまえら、青春って感じでいいなって思って」
その笑顔が、また不意打ちで、私の心臓にクリティカルヒットした。
ラーメンもコップも私服も、どうでもよくなるくらい。
――これはたぶん、好きってことだ。
いや、たぶんじゃない。絶対に。
次こそはちゃんと言う。絶対に。ラーメン屋でも、部室でも、どこだっていい。
私のこの気持ち、届けるんだ。
それが、きっと――
恋のチャンバラ、第三幕。
「私、勝ちたいです。恋でも、ちゃんと」