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第14話「すれ違いの剣先、交差する想い」

春の陽射しが差し込む体育館の中、剣王会の練習はいつもと変わらず熱気に包まれていた。


茉莉奈は、フォームソードを握りしめながら、先輩たちの動きを目で追っていた。


その視線の先には、藤井慧先輩の姿があった。


無口で無愛想、だけどその剣さばきは誰よりも美しく、力強い。


茉莉奈の胸は、自然と高鳴っていた。


そんな茉莉奈の隣に、紗綾がそっと近づいてきた。


「ねぇ、茉莉奈。最近、藤井先輩と仲良くなったんじゃない?」


「えっ!? そ、そんなことないよ!」


茉莉奈は慌てて否定したが、顔が赤くなるのを止められなかった。


紗綾は、そんな茉莉奈の様子を見て、少し寂しそうに微笑んだ。


「そっか……。実はね、私、藤井先輩のこと、好きだったんだ」


茉莉奈は驚いて紗綾を見つめた。


「でも、今日、告白してきたの。そしたら……断られちゃった」


紗綾の目には、涙が浮かんでいた。


「茉莉奈には、頑張ってほしいな。応援してるから」


そう言って、紗綾は笑顔を作った。


茉莉奈は、胸が締め付けられる思いだった。


練習が終わり、茉莉奈は一人で体育館に残っていた。


フォームソードを握りしめ、藤井先輩の言葉を思い出していた。


「下手だけど、まっすぐ突っ込んでくるの、悪くない」


その言葉が、茉莉奈の胸に深く刻まれていた。


「私、どうしたらいいんだろう……」


茉莉奈は、心の中で自問自答していた。


その時、体育館の扉が開き、藤井先輩が入ってきた。


「……まだ、練習してたのか」


茉莉奈は驚いて振り返った。


「あ、はい……。もう少しだけ、練習しようと思って」


藤井先輩は、茉莉奈の隣に立ち、フォームソードを構えた。


「一本、付き合ってやる」


茉莉奈は、驚きながらも頷いた。


二人は、静かに構え、剣を交えた。


その一瞬一瞬が、茉莉奈の心に深く刻まれていった。


試合が終わり、藤井先輩は茉莉奈に言った。


「お前、少しは上達したな」


茉莉奈は、嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます!」


藤井先輩は、少し照れたように目を逸らした。


「……うるさい。黙ってる方が可愛いぞ、お前」


茉莉奈の心臓が、一瞬止まったような気がした。


「えっ……?」


藤井先輩は、何も言わずに体育館を出て行った。


茉莉奈は、その背中を見送りながら、胸の高鳴りを感じていた。


「これって……恋、なのかな」


茉莉奈は、そっと呟いた。


その夜、茉莉奈は紗綾に電話をかけた。


「もしもし、紗綾? 今日、ありがとう」


紗綾は、電話越しに笑った。


「ううん、茉莉奈が幸せになるなら、それでいいんだ」


茉莉奈は、涙をこらえながら言った。


「私、頑張るね」


「うん、応援してるよ」


二人の友情は、さらに深まっていった。


そして、茉莉奈の恋も、少しずつ動き始めていた。

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