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回想1 「初めてのスポーツチャンバラ」

「──先輩、私、今日こそ絶対に勝ちたいです!」


夕陽が校舎の窓からこぼれ落ち、校庭の砂埃を黄金色に染め上げていた。

北天王寺学園の剣王会部室にて、茉莉奈は胸を高鳴らせながらそう宣言した。


「ふふ、それはいい意気込みね。けど、初めての試合は勝つことだけが全てじゃないわよ」


凛とした声で微笑むのは、一ノ瀬莉乃いちのせりの先輩。

3年生でありながら剣王会の部長を務める彼女は、誰もが認めるスポーツチャンバラのエースだ。


「スポーツチャンバラって知ってる?」


莉乃先輩はウレタン製のエアーソフト剣を手に取り、ゆっくりと回して見せる。

それは見た目こそ本物の刀のようにしなやかだが、柔らかい空気で膨らんだ安全な剣だった。


「これはエアーソフト剣。これを使って戦うのがスポーツチャンバラ。

試合はだいたい、6メートルから9メートル四方のコートで行われるの。

一本勝負なら1分間。三本勝負なら3分間で決着をつけるのよ」


莉乃先輩がゆっくりと構えを取る。

「打突部位は全身。どこに当ててもポイントになるけど、相手の身体にしっかりとした威力で当てるのがコツ。

ただし、両足がコートの外に出ると『場外反則』になる。反則は2回で負けになるから、位置取りも大事よ」


茉莉奈は真剣な表情で先輩の説明を聞きながら、頭の中で試合の風景を思い描いた。

「得物は小太刀と長剣があるんだよね。長さはそれぞれ60センチ以下、100センチ以下って決まってる」


「そうそう。自分の得意な剣を選んで戦うの。茉莉奈はどっちが好き?」


茉莉奈はふと考える。

「うーん、見た目は長剣の方がカッコいいけど、小太刀の方が動きやすそうかな……」


「じゃあ、試してみましょう!」


莉乃先輩がにっこり笑って、茉莉奈に剣を手渡す。


「……あれ?思ったより軽い!」


茉莉奈は剣を握りしめ、初めての感触に胸が高鳴った。


「では、基本の構えと打突の仕方を教えるわね」


そう言って莉乃先輩は、茉莉奈に丁寧にフォームを教え始めた。

構えは剣の先端を相手に向け、足は肩幅に開き、体重を均等にかける。

打つ瞬間には腰をしっかり回して、一撃の威力を最大限に引き出すのだという。


「スポーツチャンバラはただ力任せじゃない。リズムと間合いが命。

そして何より、相手と自分の動きをよく観察して……」


莉乃先輩の説明は続くが、茉莉奈の頭の中は言葉以上に体験した感覚でいっぱいだった。

竹刀や剣を握ったことすらなかった彼女が、初めて味わう真剣な“戦い”の感触。

そのすべてが新鮮で、怖さよりもワクワクが勝っていた。


(私はここで、強くなりたい。自分の弱さを乗り越えて、誰かのために戦いたい)


そう思いながら、茉莉奈は初めてのスポーツチャンバラに、真っ直ぐな一歩を踏み出したのだった。



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