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第233話 マーザスの怒り

「あの、レクシャ様」

「何でしょう、宰相閣下」



 沈黙を破った宰相は、眉を顰めながらレクシャに問い質した。



「かの愚か者が使っているのは、結界魔法の魔法陣なんですよね?」

「はい、おっしゃる通りです。宰相閣下」



 ペトロート王国に配置されている結界魔法の魔法陣は、国土を囲むように東西南北に満遍なく設置されていた。

 そして、ノルベルトはその全ての魔法陣を掌握していた。



「となると、数はもちろんのこと、魔法陣自体も大きいですから、使われていない魔法陣がある可能性も……」

「いえ、それはありません」



 宰相の推測を真っ向から否定したレクシャは、残念そうな顔で小さく首を横に振った。



「ノルベルトが国民全員に改竄魔法をかけた後、下級文官として身を隠していた私は、仕事の一環として王国全土を視察しました」

「王国全土を視察? それって本来、中級文官……いや、上級文官がすることでは?」

「そうなのですが……今の上級文官は、全員ノルベルトの息がかかっているもので構成されており、全員が有力貴族達のご機嫌取りが主な仕事となっております。そのため、地方の視察は下級文官に押し付けているのです」



 レクシャの話を聞いた皇帝は、ニヤリと笑みを浮かべると宰相に視線を向けた。



「どうする宰相? 我が国に腹黒宰相がいる今なら、王国を簡単に乗っ取ることが出来るぞ?」

「陛下、冗談でも口にしないでください」

「だが、貴様だって一瞬でも考えただろ?」

「そちらに関しては、否定しませんが……」



 ニヤニヤと笑みを浮かべる皇帝に、宰相は頭を抱えながら深いため息をついた。

 そんな2人のやり取りを微笑ましく見ていたレクシャは、そのまま話を続けた。



「それで、視察のついでに設置されている魔法陣を全て見てきました」

「「全てですか!?」」



(帝国でも、部下からの定期報告でやっと状態を把握出来ている、あの魔法陣を1人で全て確認したのですか!?)


 驚く宰相とマーザスを見て、レクシャは苦笑しながら頷いた。



「えぇ、そのお陰で行動を起こすのに随分と時間がかかってしまいましたが」

「フン! ともかく、貴様が自らの足で見て回った結果、結界魔法として使われていた魔法陣が、全てあのバカ宰相の手に落ちたということだな?」

「その通りでございます」



 笑みを潜めて深々と頭を下げたレクシャの返事に、不意にマーザスが首を傾げた。



「ですが、たった1人で全ての魔法陣を維持できるとは思えません。その方が、私のように魔法に携わっていない、ただの貴族なら尚更です」



(そして、私より魔力が多いうちの弟弟子でも、数多の魔法陣を維持するなんて無理だろう)


 再び眉を顰めたマーザスからの問いかけに、レクシャは下唇を噛むと拳を握った。



「……もし」

「えっ?」



 キョトンとするマーザスに向かって、レクシャはゆっくりと顔を向けた。



「もし、結界の維持のために国民全員の魔力を使っていたとしたら?」

「っ!?」



(それって、つまり……!!)


 レクシャからの問いかけを聞いたマーザスは、顔を真っ赤にして立ち上がると、レクシャの襟首を掴んで無理矢理立たせた。





「おい、マーザス……」

「そんな、そんな外道なことを本当にやっているというのですか!?」

「マーザス殿、急にどうし……」

「レクシャ様!! どうして、改竄魔法が闇魔法の中でも最悪な魔法なのはご存知ですよね!? 他人の魔力を使うからですよ!!」



(そして、他人の魔力を使うことは本来ならば禁忌とされている。なぜなら……)


 困惑している皇帝や宰相を前に、レクシャに詰め寄ったマーザスは、襟首を掴んでいる手に力を込め、無表情でいるレクシャに顔を近づけた。



「人間の中にある魔力が、人間の生命力に直結しているからだ! 故に、他人の魔力を安易に使ってはいけない! それを……それを、あの愚か者は平然とやっているというのですか!!!」



(そんなやつ、魔法を使う資格なんてない!! 何なら、『帝国の天才魔法師』である俺が、直接この手で始末してやる!!)


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