目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第232話 魔法陣を奪還

「そうか……」



(宰相はまだしも、我が国の筆頭宮廷魔法師ですら魔法陣の中にある闇魔法だけを無効化するなんて聞いたことがないなんて)


 困惑する宰相とマーザスから話を聞いた皇帝は、僅かに眉を顰めながら首を傾げた。

 すると、その様子を見ていたレクシャが、笑みを浮かべてマーザスに視線を向けた。



「マーザス殿」

「あっ、はい! 何でしょうか?」



 突然名前を呼ばれたマーザスは、慌ててレクシャの方に顔を向けた。



「魔法というものは、そもそも魔力を使って具現化したいものをイメージして作り出すものですよね?」

「えっ? えぇ、そうです」



 太古の昔、創造神アリアによって人々にもたらされた力である魔法。

 それは、人間の体を巡っている内なる魔力と、魔物を構成する上で欠かせない空気中に含まれている外の魔力が合わさり、術者の創造するものを具現化する力である。



「ですが、イメージが曖昧だったり、具現化するものが大きかったりすると、使用する魔力は大きくなります。実際、大昔に使われていた魔法は大半が無駄に魔力を消費しますので」



 そう言うと、マーザスはマジックバックから銀色の杖を取り出すと、杖に刻まれている数多の魔法陣の1つを指さした。



「ですので、使いたい魔法のイメージや消費魔力を簡素化した魔法陣と、安定的に魔法を具現化出来るよう詠唱が生まれたのです」

「つまり、現代の魔法では魔法陣と詠唱が主流ということですね?」

「まぁ、そういうことになりますね」



 マーザスが魔法を扱う者なら誰でも知っている常識を説明すると、レクシャは満足げに頷いた。

 そして、そのまま視線を皇帝に移した。



「皇帝陛下。ここで、先祖代々から伝わる魔法をお見せしてもよろしいでしょうか?」

「あっ、ああっ……いいぞ」

「ありがとうございます」



 戸惑ったような顔で返事をした皇帝に、小さく笑みを浮かべたレクシャは、その場から立ち上がると、片手に透明な魔力を纏わせた。



(相変わらず、透き通るような綺麗な色だ。そして……)



「やはり、魔力の中に魔法陣に刻まれている文字があるというのは……何度見ても、違和感しかありませんね」



『ご気分を害するようなことを申し上げてしまいすみません』と頭を下げたマーザスに、レクシャは気にしていないように優しく微笑みかけ、魔力を纏わせている手に視線を戻した。



「皆様ご存じかと思いますが、無効化魔法はイメージされた魔法だけでなく魔法の根源である魔力さえも無効化出来ます。ですので、無効化したい魔法や魔力を知覚出来れば、無効化したいものだけに魔力を注いで無効化することが出来るのです」

「つまり、無効化したい魔力を知覚していれば、魔法陣を消さなくてもそこに流れている魔力だけを無効化出来るということでしょうか?」

「そういうことです」



(なるほど。だから、レクシャ様は『闇魔法の魔力だけを無効化する』と言ったのですね……)


 レクシャからの説明に顔を青ざめさせた宰相に対し、皇帝は頬杖を突きながら深く溜息をついた。



「知覚さえ出来れば、無効化したものだけに魔力を注いで無効化する……本当、サザランス家に伝わる魔法は末恐ろしいな」



(だから、『帝国の死神』なんて物騒な2つ名がついたのだろうが)


 再び深く溜息をついた皇帝に、レクシャは小さく苦笑した。



「とは言いましても、現在はサザランス家以外にも無効化魔法が使える者はいますし、サザランス家の中にも属性魔法や非属性魔法が使える者もいます」

「そうだったな」



(現に、お前の次男はそこにいる天才魔法師の弟弟子なのだから)


 皇帝がマーザスを一瞥すると、ゆっくりと片膝をついたレクシャが暗い顔をした。



「ですが、ノルベルトが使っている魔法陣は王国の各所に配置されているものですので、魔法陣の中に流れている魔力を全て無効化するとなると、王国内にいる無効化魔法が使える人間だけでは圧倒的に数が足りないのです」

「だから、我が国の『帝国の死神』を貸して欲しいということですね?」

「その通りです」



 レクシャの言葉を聞いた3人は、揃って難しい顔で俯くとしばらく考え込んだ。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?