銀色の腕輪に視線を落としたレクシャは、腕輪を託した人達の顔を頭に思い浮かべた。
(近衛騎士団団長のフェビル君。妻を匿ってもらっているシュタール辺境伯家の現当主とその夫人。そして、ヴィルマン侯爵家の当主。それと、ヴィルマン侯爵家に身を寄せているリュシアンが作った腕輪を持っているヴィルマン侯爵家の次期当主。あとは……)
『陛下、こちらをお納めください』
『分かった、この腕輪はお守りとして持っておこう』
そっと腕輪を握ったレクシャは、腕輪から皇帝と宰相に視線を向けた。
「この腕輪を託した者達は、私が信頼を置く者たちです。ですので、私が王国で行動を起こした時、彼らは私の駒として動いてくれます」
「ほう、つまり、そいつらが護衛につくというのか?」
「おっしゃる通りでございます」
深々と頭を下げるレクシャを不敵な笑みで見つめる皇帝。
その隣で、宰相が眉を顰めた。
「ちなみに、護衛につける方の名前を教えていただいてもよろしいでしょうか? いくらあなた様が護衛役として選ばれたとはいえ、素性を明かしていただかないと、こちらも安心してあなた様に預けることが出来ませんから」
「もちろんです」
(フェビル君は別のことをしてもらうとして……)
「長年、騎士団と共に我がペトロート王国を守ってくださっているシュタール辺境伯家の騎士団。そして、『王国の剣』と謳われているヴィルマン侯爵家の騎士団を護衛役につかせます」
「ペトロート王国の鉄壁防御と剣を護衛役につかせるとなると、とても心強いですね。ですが……」
眼鏡の少しだけ上げた宰相の目が厳しく光った。
「レクシャ様。その騎士団の皆様も、愚か者の手の中なのですよね?」
「えぇ、騎士団長である当主以外は全員そうです」
「だとしたら、万が一にでもその愚か者がレクシャ様の行動に気づいた場合、レクシャ様が手配した騎士達が愚か者の操り人形として牙を向く可能性が……」
「大丈夫です。ノルベルトが気づく前に闇魔法の魔力を魔法陣から無くせばいいのですから」
「だが、その愚か者の目を盗むチャンスがあるのか?」
「もちろんです」
きっぱりと言い切ったレクシャは、その場から静かに立ち上がると左胸に手をあてた。
「ノルベルトは普段、夜中に王宮の王族しか立ち入ることが許されていない部屋に入り、魔法陣に直接魔力を流すことが出来る大きな水晶を使い、国民に改竄魔法をかけています」
「今でも国民に対して改竄魔法をかけているのか?」
「はい……」
(恐らく、念には念を入れて普段からかけているのだろうが……)
「ですが、それだとノルベルトは魔法陣の状態を把握しているため、闇魔法を無効化する隙が無いのでは?」
「そうですね。ですが、ある日だけその隙を作ることが出来るのです」
「その日とは?」
「我が国の建国祭が行われる前日です」
「貴国の建国祭の前日? 一体どうして?」
揃って首を傾げる皇帝と宰相に、レクシャは笑みを潜めた。
「ペトロート王国の建国祭。その時こそ、ノルベルトが300年前の悲劇を起こそうとしているからです」