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第258話 あの夜の真実(後編)

「では、行きます。《ムーブタイム》」



 黒い魔法陣を展開したシトリンが、そのままダリアとリアンに向かって魔法を放つ。

 すると、純白のローブ姿の男女が動き出した。



『アハハッ!! 魅了魔法で稀代の天才魔法師を意のままに操れるって、何度やっても最高ね!!』

「「「なっ!?」」」



(闇魔法である魅了魔法でカトレアを操っていた!? それも、何度も!?)



「ふ~ん」



 したり顔で笑みを浮かべるジルと小さく下唇を噛むフェビルをよそに、ダリアの思わぬ一面を目の当たりにして啞然とするルベルとメストとシトリン。

 そんな彼らに一切気づかないリアンは、心底楽しそうな妹の姿を見て心底呆れていた。



『はぁ、ほどほどにしておけよ。この前だって、いつもの非公式の仮面舞踏会で参加した貴族令息を片っ端から魅了魔法をかけて、父さんから大目玉をくらっただろうが』

「非公式の、仮面舞踏会?」



(何だ、それは? そもそも、俺に一途だったはずのダリアがそんな怪しい場所に行くはずが……)


 耳を疑うような婚約者の行動に、メストの顔からだんだんと血の気が失せる。

 だが、そんなこと知るはずもないダリアは、顔を顰めるとリアンを睨みつける。



『うっさいわね! 闇魔法が使えないリアン兄様には言われたくない!』

『……それにしてもお前、メスト様に黙ってこんなところに来てもいいのかよ』

「っ!?」



 自分の名前が出て、思わず目を見開いたメストだったが、ダリアは不機嫌そうに鼻を鳴らした。



『フン! そんなの良いに決まっているじゃない! どうせ、あの方は私の1。むしろ、宰相家令嬢である私の婚約者であることにありがたく思って欲しいわね』

「嘘、だろ?」



(君は、俺のことをそんな風に思っていたのか?)


 例え、彼女のわがままに何度も振り回されていても、婚約者としてダリアの意思を尊重して大切にしていたメスト。

 だって、彼にとって彼女はであり、自分が騎士を目指すきっかけをくれた人だとから。

 だが、婚約者の本音を聞いたメストは、ただただ呆然と目の前の事実を受け止めるしかなかった。


 それから一行は、ダリアとリアンの会話を一通り聞き終えると、時魔法で夜の森から昼の森へと戻っていった。





「……メスト、大丈夫?」

「あっ、あぁ……大丈夫だ」



(まさか、ダリアがカトレアのことを操っていたなんて……ラピスになんて言えばいいんだ?)



「本当に? それにしては顔が物凄く青ざめているよ?」

「そう、だな」




(確かに、ここ最近はほとんど会わなかった。だが、まさか、そんな……)


 ダリアの言葉で頭の中がぐちゃぐちゃになったメストは、心配そうに顔を覗きこんでいるシトリンに向かって上辺だけの返事を返す。


(1年近く疎遠になっていたから、あまりダメージを受けないと思っていたけど……やっぱり、10も婚約者として一緒に過ごしていたから堪えるよね)


 メストとダリアの仲を知っていたシトリンは、小さく溜息をつくと立ち上がってルベルとフェビルの方を見た


 すると、少し離れた場所で見ていたジルが、ザールを連れ立って頭を抱える2人の団長のところに足を運んだ。



「ルベル団長、フェビル団長。これで私の言葉の意味がお分かりになりましたでしょうか?」

「はい、ジル様。確かにこれは開けてはならない箱ですね」

「そうだな。ダリア嬢もリアン様もどちらも宰相家の人間。そして、リアン様に至っては第一王女の婚約者だ。だがまさか、ダリア嬢が遊び感覚で闇魔法を撃っていたとは……」



 ルベルの言葉に、その場にいた4人が静かに口を閉じる。


(『稀代の天才魔法師』であるカトレアを、宰相家令嬢が闇魔法である魅了魔法を使って操り、平民を殺そうとした。そして、それを第一王女の婚約者が加担した。これは貴族……はたまた、王族の尊厳に大きく関わることだ)


 楽しそうな笑みを浮かべながら魅了魔法を放つダリアと、それを呆れながらも止めようとしないリアンの姿を思い出し、ルベルとフェビルが大きく溜息をつく。

 すると、ジルに視線を向けたフェビルがそっと彼の耳元に囁いた。



殿、このことは私から陛下に密書でお伝えした方が……」

「やはり、ここにいたのだな!」

「「「「「「っ!!」」」」」」



 肩を震わせた6人が、声の聞こえた方に視線を向ける。

 そこには、ついさっき呆れ顔で妹の愚行を見ていたリアンがいた。


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