「おはようございますアイラさま、今日も村へお散歩ですか?」
「うん!村への食料配給と、あと貯蔵庫作りたいなーって!」
「貯蔵庫ですか」
「貯蔵庫作ったら、パンを配る手間も無くなるでしょ?手洗うだけ!」
「確かに。そしたら、手洗い場とかもいつか作りたいですね。」
「あ、じゃあもう今日作っちゃおう」
「魔力量は大丈夫ですか?」
「寝れば大丈夫!」
「分かりました」
魔力量、といっても。創造魔法でパンを作って、貯蔵庫作って、手洗い場作っても、本来なら一度も寝ないのだけれど。
私とレイに魔力で作る見えない防御壁を付けている。から、魔力の減りが早い。便利だよね。防御壁は魔力で作るから、魔力を込めれば込めるだけ防御力が強くなる。
つまり、魔力を好きな分だけ好きな時に減らせるということ。
素晴らしい魔法だ。
第一の村。
「来た!アイラ!」
「ミナちゃん、こんにちは」
「……こんにちは?」
「お昼に会った人にする挨拶だよ、ちなみに、朝はおはよう、夜はこんばんは。」
「おはよう、こんにちは、こんばんは!」
「よく出来たね。」
「えへへ……」
「……(アイラさまとミナちゃんの会話、なんとも可愛らしいです。アイラさまを呼び捨てにするのは少し気に食わないですが。)」
いつも通り、人が集まってきた。
「レイ、お願い」
「はい、もう貯蔵庫作っといた方が良くないですか?」
「あ、分かった。作っとく。手洗い場も作っとくね。ミナちゃん、あそこで良い?」
「うん!」
「みなさん!聞いて下さい!今まで、アイラさまが直々に水を与え、パンを与えていましたが!これからは貴方達でやらねばなりません!まず、あそこの手洗い場で手を洗ってください!もちろん順番に並んで!」
手洗い場……。このくらいで良いかな。ざっと50個。おっと、もう並び始めた。次は貯蔵庫か。
……これで良いよね。よし。貯蔵庫の中はとびきり大きくしておいた。そこにパンをずらっと並べる。
フルーツがなってるとはいえ、パン以外のメニューも作らないとなぁ。シチューとか?いや、今の時期暑いか。アイスとかどうだろう。いや、それはそれで問題か。アイスなんて冷たくて甘い水分多めの食べ物、この世界には無いもんね。
この世界のスイーツといえばクッキーと赤いジャムの……あれ名前なんだっけ。
あと凍らせたりんご。
……ん?待てよ?あったわ、冷たくて甘い水分多めの食べ物。この世界のりんごって王都のもので、王都には聖女が住んでるっていうから。
あ、りんご栽培しよう。
孤児院の貯蔵庫にもパンをいっぱい置いた。
そういえば、孤児院って事は、院長も必要か。でも領民にそんな余裕のある人は居ないし。よし。
「ミナちゃん、ミナちゃんには院長の役割をあげよう」
「いんちょー?」
「そそ、みんなをまとめるお仕事」
「おしごとー!何する?」
「例えば、喧嘩してたら止めるとか、貯蔵庫のパンを渡していくとか。」
「おぉー!やる!」
「ありがとー!」
ミナちゃんは、ここに居る100人もの親のいない子供を一気に連れてきた子だ。絶対リーダーシップがある。他の村にも、こんな子は居なかった。
有望な子は育てておかないと。
また、全ての村に同じ対応をし、私は個人的な理由で、第一の村へと歩み寄った。
「どーしたんですかアイラさま?もう一周するには暗いですよ?」
「もう一周はしないよ、ミナちゃんに会うだけ〜」
「ミナちゃんに……ですか?」
「うん、有望だから魔法教えよっかなって」
「なるほど、あの子なら正しい時に魔法を使ってくれそうですね」
そうして私は孤児院の前に来た。道で寝ている人が少数集まってきたが、パンをやって返した。
「ミナちゃ〜ん」
「は〜い!」
「ミナちゃん、魔法教えるから、ちょっとこっち来て」
「まほ〜?水とかパン出すやつ?」
「それもあるけど、今から教えるのは、ミナちゃんとみんなを守る魔法」
「まもる……いんちょ〜のしごと!」
「!、偉いこの子っ!」
「そうですね、性格良いですねミナちゃん……。」
「あ、レイにもついでに教えるよ、その前に2人共、鑑定して良い?魔力量とか」
「かんて〜?い〜よ!」
「か、鑑定ってあの鑑定……?あの人よって使える人と使えない人がいて、使える人が王都に2、3人とかいわれるあの鑑定……!?」
「鑑定魔法だよ、それとはまた別。」
「凄……いですね」
そして、2人に教えた。魔法とはイメージであると。教える魔法は防御魔法。ミナちゃんは魔法についてあまり知識が無かったから、すぐ出来たけど、レイは魔法を使うには詠唱が必要と頭の中に入れているので、時間がかかった。最終的に、レイの脳内に直接入り、イメージをさせて、練習により徐々に魔法が使えるようになった。
基本的に防御魔法は魔力量によって強さが異なるらしいが、魔法はイメージなので、魔力を節約しつつ強い防御壁を作る事も出来る。
と、まあ防御魔法を2人に教えた。
「あ、そうだミナちゃん、魔法はイメージ、なんてみんなに言っちゃ駄目だからね!」
「え?どうして?」
「イメージだから、ほんとになんでも出来ちゃうから、だめ。もしもその話が広がって、悪い人に伝わったら、この村無くなっちゃうかも!」
「それはだめだ!」
「そうでしょ?みんなには、『我を守らん』っていう、詠唱で教えてね」
「えいしょ〜?」
「みんなは詠唱で魔法を使ってるの。だから、みんなにはそれで教えて」
「われをまもらん……分かった!」
「あと、最初の頃は1回使ったら魔力切れで寝ちゃうから、いざというときに魔力切れを起こさないように、孤児院でいっぱい練習していっぱい寝てね」
「分かった!みんなに言う!」
「じゃ、ばいばい」
「うん!またあした!」
また、カラスのような鷹のような鳥が飛んでいる。鷲にも見えてきた。
帰るか。
「じゃあアイラさま、さっきの王宮の歴史のお話の続きをしますね?まず、150年に王宮が建てられて、2025年の今まで、ずっとそのままなんですよ。何があっても王宮だけは残ったらしいです。伝説級の魔法ですが、当時でも結構凄い魔法だったらしく、王宮以外に王宮のように絶対残るお城はなく、どんな本にも載っておらず……」
へー。伝説級の中でも凄い魔法か。確かに本に載ってなかったけど……。多分それ、防御魔法とか結界魔法とか、色んな守護魔法を込めてこうなってると思うんだよね。
だから私にでも出来る!素晴らしい魔法!
「あ、王宮の建設された年、150年っていうのは、今までの試験に必ず載ってましたので、150年というのは覚えておいて下さい。」
「月日は?」
「不明です」
おっと、館に着いた。
「アイラちゃん!アイラちゃん!早く!早く来て!」
「ま、ママ!?」
珍しい、お母さんが慌ててる、余程非常事態のようだ。
「パパが!」
「……ぇ、」
そこには、お父さんが倒れて居た。
ただ、背中を切られて。斜めに真っ二つになっていた。
初めての信頼できるお父さん。今ここで、体真っ二つになったぐらいで死なせるわけにはいかない。
多分息はもうない。脈もない。この非常事態を直せるのはたった1つ、魔法だけだ。
そこからは、必死過ぎて周りの状況なんて見えていなかった。
お父さんの魂を見つけて、引っ張り戻して、真っ二つになった胴体を治し、臓器も治し、心臓を動かし、血液を体内に入れ、魂を元に戻した。
今、目の前に居るのは、ただ斜めに服だけが破けて、倒れているお父さん。
「ぅん……」
「あなた!あなた!!!」
息を吹き返したお父さんに、お母さんは駆け寄りぎゅっと抱きしめた。
良かった、この手で、私の使う魔法で、お父さんの命を取り戻した。私が、お父さんを救ったんだ。
その瞬間、
ブワッ…
赤い炎が、私目がけて飛んできた。私は防御魔法で大丈夫だが、その炎の送り主にびっくりした。お父さんだ。お父さんが私に炎を送った。
どうしてだ。なんで。私はお父さんを助けたはず。お母さんは必死で気付いていない。
私は気付いた、お父さんの目に光が無い。何かがおかしい。レーナちゃんに貰った本に載っていた通り、お父さんを生き返らせたのに。何が間違っていたというのだろう?
あの本が間違っていたなんて事はないはず。私は記憶力がいい方で、本の内容を覚え違いしているということも無い。何百回も読んだし。
なら、どうしてお父さんは私に炎を放った?どうしてお父さんは目に光が無い?
なんで、?
「クックック……お困りのようですね」
この声は……。お父さんの専属執事のクク。なんで笑っている?ククがやったから?
「今、どうして旦那様がアイラ殿に炎を放ったか、疑問に思ったでしょう?それは!旦那様の血に、従いの魔法の汁を入れたからですよ。アイラ殿、必死過ぎて気にも留めませんでしたがね。クックック……。」
ククを解析。細かい所まで。魔法関連の、ククの周りで起きた事の情報を切り抜き。
怪しい商人に、「従わせたい人の血に、この従いの魔法の汁を入れたら、一度きりですが従ってくれます」と言われたらしい。一度きり……。つまり、ククは私を殺せと命令した?
「クックック、旦那様に、アイラ殿を殺せと命令しましたよ、自分の子供を殺すなんて、残酷ですねぇ」
「……お前の目的はなんだ」
さっきから連続で来る、お父さんの赤い炎は気にしない。
「ズバリ、アイラ殿を殺す事ですよ~、アイラ殿が才能を開花する度に、旦那様は希望の光が現れたかのような目をするのです。旦那様にそのような目は相応しくない。……。だから、その為にも、アイラ殿には死んで頂きます!クックック……」
「……時間制限はあるのか?」
「ありませんとも。アイラ殿が死ねば、旦那様は元に戻りますがね。早く死んでくれません?クックック……」
どうやら、これは本当のようだ。
従いの魔法の汁。本来、魔法に汁なんて無い。水魔法の水ならあるが。汁、ということは、相当な魔法の量を凝縮したということなはず。従いの魔法、一万発は軽く超えてると思う。
あ
思い出した。
魔法の本に、書いてあった。汁取りという魔法。血液に限るとか書いてあるから、意味不明だったが……。
魔法はイメージ。汁取りは、全ての血管から従いの魔法の汁を取り除くイメージ。
お願い、効いて……!
「……はっ……」
「……!」
お父さんの目に光が戻った。やった!成功したんだ!
「なんだと!?」
ほっとしたら、力が抜けて、眠く……。
あ、クク居るから防御魔法かけたまま寝よう。
「アイラ、申し訳なかった」
翌日、お父さんが私の部屋に来て謝った。どうやら、攻撃していた時の記憶はあるらしい。
「だいじょーぶ、パパはどうしよーも無かったし、私死ななかったし。」
「でも……」
「ククはどうしたの?」
「王宮の牢に送ったよ。あれは極悪罪で死刑だろう。」
「へぇ、そういえばさ、領のお金減らなかった?」
「……そうだな、50銀貨無くなっていた。」
50銀貨。日本円で50万円。
「どうして知っている?」
「ククが言ってたよ、怪しい商人から従いの魔法の汁を買ったって。多分領のお金だろうなーって」
「アイラは頭が良いな。」
「えへへ……」
「そうだアイラ、何か望みはないか?」
「え?なんでー?」
「だってパパ一応アイラに命救われてる……」
「なるほどー。望みかー。」
何にしよう。私自身の望みはそんなに無い。これからたっぷり時間はあるし、村の人の人脈はあるし、これからお金も手に入るし、色んな魔法も使えるし……。なら、領に関わること……。
「ねぇパパー、領主って何するのー?」
「村に集まったお金を国にあげる。あとは、民から困っている事を聞き、助ける……が、今まではお金を取り上げるしか出来なかったな。借金まみれだし。」
「借金まみれなの!?」
「あぁ。村にお金が集まらなかった時があってな。というか、ここ最近ずっとだが。キラキラ領やトロピカル領に借金しているんだ。昔この国が豊かだった時は、立場逆だったから、2つの領とは未だに仲良くさせて貰っている。」
「……うーん、じゃあ、領民の困ってる事を聞き助けるやつ、したーい」
「あぁ、もちろんだ。今民の1番好感度高いのはアイラだもんな。お散歩しているんだろう?」
「うん!」
「でも、困ってる事を聞いて助けるのも簡単じゃないぞー?領が豊かになれば、する事が沢山になるからな。」
「それは良いことー!」
「そうだな!」
お父さんの件は一件落着。
ちなみに、お父さんが真っ二つになっていたのは、ククの仕業だったらしい。ククはキラキラ領の領主と親戚で、そのキラキラ領は剣の国といわれる程凄いらしい。一振りで人を真っ二つ……。恐ろしい。
というか、トロピカル領は魔法大国、キラキラ領は剣の国。国ってつくのは例えらしい。でも、2つの国は、王都の次にとても大きいんだとか。