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2周目

 え、どういうこと!?


 いや確かに、このゲームに「権蔵ルート」なる悪ふざけエンディングがあること自体は知っていた。


 ただ、それは主人公であるケンジ、すなわち今の俺がヒロインとのフラグをわざとことごとく折って回った場合にのみ解放される、言わばやりこみ要素的なエンディングだったはずだ。


 それがなぜ、あんな最序盤での権蔵ルート派生が……?


 おかしかったのは授業中の選択肢からだ。


 あそこは居眠りをして、美咲にノートを見せてもらう場面のはず。それがどうして……? だいたい何だよ、「サバの味噌煮が大当たりで早退」って!?


 次の選択肢はどちらもバッドエンド行きのはずだ。前者は説明不要の権蔵ルートで、後者はテストで2点しか取れずに退学になるエンドだ。


 つまり、可能性があるとすれば、授業中に「なんとしてでも目を覚ます」の方を選ぶしかないのだが……。


 確かあれは原作だと、ケンジが突如マーモットの物真似を披露して、ブチギレた山本に廊下へと立たされる選択肢だったような……?


***


「睡魔に身を委ねる」

「なんとしてでも目を覚ます」 ←


 くっ、こうなっては仕方がない。田中家秘伝のアレをやるときが来たか……。俺はすっと席から立ち上がる。


「ん? どうした、田中?」


「……アアアァァァ!!!」


 本家マーモットをも遥かにしのぐ渾身の雄たけびが、ソニックブームを巻き起こし、山本のヅラを吹き飛ばす。わなわなと小刻みにうち震える山本。


「……廊下に立っとれ!!! こんのドチクショウがあああぁぁぁ!!!」


 山本の憤怒の雄たけびもまた爆音波となり、教室中の窓ガラスを粉砕した。


 ***


 そんなかんなで廊下にて。


 いっぱいにダンベルの詰まったバケツを両手に持たされ、廊下へと立たされること10分。


「あ、ケンちゃんだー! ケンちゃんも立たされてるの?」


 舌ったらずで甲高い幼さを感じるような声。その声の主は……。


「お、瀬里奈じゃん。お前も立たされてるのか?」


 今井いまい瀬里奈せりな。隣のクラスの女子だ。


 141cmしかないその低身長と黄色のハーフツインテ、そしてその声が全身で幼さを体現している。だが、もちろん俺と同い年なので、いわゆる合法ロリというやつだ。


「そうなんだよ~。授業中に木彫りのマーモット作ってたら、三上に怒られちゃってさ~。ちぇ~っ」


「そ、そうか……」


 瀬里奈は美術部員で、その腕前も全国でも注目されるほどなのだが、この通り、素行に難のあるいわゆる問題児でもある。


「で、ケンちゃんは何をやらかしたの~?」


 瀬里奈は興味津々に大きな瞳をキラキラと輝かせている。


「ちょ、ちょっとな……。マーモットの物真似をしたら、やりすぎちまった……」


「え!? マーモット!? セリナにも見せて見せて~!」


 しまった、言うんじゃなかった……。


 瀬里奈はその小さな身体でぴょんぴょん飛び跳ねながらせがんでくる。


 どうする? マーモットの物真似を……


・「見せる」  ←

・「見せない」 


「……アアアァァァ!!!」


 本家マーモットをも遥かにしのぐ渾身の雄たけびがソニックブラストとなり、廊下の壁に風穴を空ける。


「わあ! ケンちゃんすっごぉい!」


 瀬里奈が大興奮ではしゃぐのもつかの間……。


「ぐおらあぁあああ!!! まだやっとるかおんどりゃあああぁぁぁ!!!」


 竹刀を四刀流に構えた山本が、鬼の形相で飛び出してきた!


「やべ! 逃げるぞ、瀬里奈!」


 俺は瀬里奈の手を引き、走り出す。


「逃がすか、こんのクソガキャァ!!!」


 しかし、山本が170㎞/hの速度で投擲してきた竹刀が右のアキレス腱を的確に捉えると、激痛に耐えきれず俺はバランスを崩して転倒してしまった。


「ケンちゃん、じゃあね~! キミのことは昨日まで覚えてたよ~」


 いや、そこはせめて未来ではあれよ……。瀬里奈は薄情にも、俺を置き去りにして走り去ってしまった。


「随分となめた真似してくれよってからに。死にさらせやおんどりゃあああ!!!」


 なおも竹刀三刀流の山本が、教職員にあるまじき形相で襲い掛かってくる。右足の痛みで立ち上がることすらもままならず、死を覚悟して目をつぶったそのとき……。


「何……!?」


 詳細を書くと著作権とかにひっかかりそうな山本の剣技が、何者かの竹刀により受け止められた。


「教師が生徒に暴力をふるうなんて感心しませんね。山本先生」


「権蔵……!」


 俺を護るように前に立ちふさがったのは、いつの間にやら山本の投げた竹刀を拾い上げた権蔵であった。


(システムメッセージ:「権蔵ルート」に入りました)


「ふん、佐々木か。いいだろう。お前ごと地獄に送ってやる!」


 著作権に引っかかりそうな構えから、著作権に引っかかりそうな大技を繰り出す三刀流の山本。


 しかし、その刀が権蔵に届くことはなく……。


「さようなら、山本先生。あなたのその刀では・・・・・・俺とケンジの絆の力を断ち切ることはできません」


 権蔵が一太刀にして山本のことを斬り伏せた。


「くっっっそぉぉぉ……!」


 血しぶきを上げて倒れ伏す山本。あれ、これ竹刀だよね?


「ケンジ! 大丈夫か!?」


「ああ、ありがとう。権蔵。でも……アキレス腱をやられて歩けないんだ……」


 俺が痛む右足を押さえていると……不意に身体が浮かぶ感覚がした。


「え!? え!?」


 気が付くと、俺は権蔵の腕の中に抱えられていた。これはまさか……お姫様だっこ!?


「ほら、暴れると危ないよ・・・・・・ケンジ」


「権蔵……」


「それとも……もう我慢できなくなっちゃったのかな?」


 二人は幸せなキスをした。


 END


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