いやいやおかしいだろ!?
なんでマーモットの物真似したくらいでそんなことになるんだよ!? ソニックブームだのソニックブラストだのおかしいだろ!? 何者なんだよ、ケンジ!? ・・・・・・いや俺自身なんだけどさ。
そして、山本って60過ぎのおじいちゃん先生で、あんなエキセントリックなキャラじゃなかったはずだぞ。なんだよ竹刀四刀流って!?
そして瀬里奈と一緒に逃げるシーンもいろいろおかしい。あそこの山本からは簡単に逃げられるはずで、飛来する竹刀にアキレス腱を破壊されるイベントなんかなかったはず。そりゃそうだ。ヨボヨボのおじいちゃん相手なんだから。それがなんだよ、170km/hって。チャッ〇マンかよ。はよメジャー行けや山本。
そして、曲がった先の階段の踊り場で二人とも転んで、そのまま瀬里奈とのラッキースケベ☆イベントなはずが……。
なぜあそこから権蔵ルートに……? おかしい、こんな展開は俺のデータに無い。
とりあえず、マーモットの物真似をしないルートを選ぶしかなさそうだが……。でもここの選択肢、瀬里奈が大声で駄々をこね、そのせいで山本が出てくるって流れだから、もしかしてその後の展開変わらないのでは……?
・・・・・・あれ? もしかして、これもう詰み?
***
どうする? マーモットの物真似を……
・「見せる」
・「見せない」 ←
「え~。ケンちゃんのケチ~! ぶ~!」
頬を膨らませてぶー垂れる瀬里奈。小動物みたいで愛らしく、つい要望に応えてしまいたくなるが、そういうわけにもいかない。もう権蔵ルートはこりごりだ。
「ただでさえ授業中に騒いだ罰で立たされてるのに、これ以上騒ぐわけにいかないだろ?」
「え~。いいじゃん、いいじゃん。 ケンちゃんの意気地なし~! 童貞~!! 【
ランドセル背負ってても違和感無さそうな童顔のくせして、言うことがなかなかエグい。そして、声がデカい・・・・・・。
ガラガラガラガラ!
案の定、教室の扉が開き・・・・・・
「ゴラァ! そこ、何を騒いどるか!」
中から山本が飛び出して来た! しかし、竹刀は持っていない。これはキタか・・・・・・?
「あ、山本先生・・・・・・。ごめんなさい・・・・・・」
途端にしおらしい(フリ)をする瀬里奈。
「いいんだ、いいんだ。今井は今日も可愛いなぁ」
うわ! 俺のときは竹刀四刀流だったくせに、なんだこの差は!? 男女差別か、このスケベジジイ!
鼻の下伸ばして、頭なんか撫でてやがる。もうこれ、事案だろ事案。もしもし、ポリスメーン!
しかし、これはとんずらをキメるチャンスなのでは・・・・・・? どうせこの場に残ってもロクなことにはならないと、今まで権蔵に掘られてきた俺の亡骸たちが告げている。
俺は試しに山本の方を向いたまま、半歩また半歩と後ずさりしてみる。案の定、瀬里奈の頭を撫でるのに夢中で、こちらの動きにはまったく気がついていない。
よし・・・・・・! 俺は山本たちに背を向け、廊下を全速力で走って行った。・・・・・・追いかけて来る気配は・・・・・・まるでない。
階段を降り、1階に着いた。後ろから誰もついて来ないことを改めて確認する。俺は走るのを止め、身を隠す場所を探すことにした。
どこに向かおうか?
・「図書室」 ←
・「職員室」
とりあえず、図書室にでも行くとするか。
***
授業中とあって誰もいないかと思った図書室だったが、一人だけ先客がいた。ただ座って本を読んでいるだけなのに、なにか気品や優雅さを漂わせる翡翠色のショートボブの少女は・・・・・・
「よう、
俺のような庶民からすれば想像もつかないことだが、このクラスのセレブになれば単位なんか金で買えるということなのか。まともに授業に出ている姿を見た者は誰もいない、ある意味都市伝説的な存在だ。
「・・・・・・」
返事は無い。完全に本に読みいっている。
「おーい」
さらに接近し、目の前で手を振ってみる。
「・・・・・・」
なおも返事は無い。
かくなる上は・・・・・・
・「胸を揉んでみる」
・「頬をつついてみる」 ←
「おーい、絢音さんや」
ぷにっと柔らかい感触と共に、俺の人差し指が絢音の頬に突き刺さる。するとようやく、絢音は不思議そうに俺の方へとその顔を向けてきた。
「えっと、あなたは確か・・・・・・ジェームズくん?」
おっとりと首を傾げながら、意味の分からないことを口にする絢音。
「いや、誰だよ・・・・・・? 田中だよ。田中ケンジ」
「あ、そうでしたわね。失礼しました、チャールズくん」
そもそも学内において絢音の姿を見たことがある者すら限られるのだが、その数少ない者ですら「彼女は変人だ」と口を揃えて言う理由がこれだ。美術用のポーズ集を借りるためによく図書室を訪れる俺ですら、彼女のペースはいまいち掴めていない。
「はあ・・・・・・。もう、チャールズでいいや・・・・・・」
そう溜息をつきながらも、彼女の隣の席へと腰かける。
「じーーーっ」
すると、絢音が今度は俺のことをじっと見つめてきた。「じーーーっ」って自分で言ってるし。
「どうした? 俺の顔に何かついてるか?」
見た目だけは清楚系お嬢様な絢音に、こうも真っ向から見つめられると胸がドキドキする。
「うん。芋けんぴ」
・・・・・・どういうこと? そして、何かで聞いたことあるな、そのシチュエーション。
「じっとしてて。取ってあげる」
絢音の手が俺の前髪の方へとゆっくり伸びてくるのと同時に、顔の距離も狭まっていく。おのずと接近してくる絢音のその大きな胸と、どこからとなく鼻をくすぐる女の子のいい香りに、俺は興奮を隠すので精一杯だった。
ガラガラガラガラ!
そのときだった。図書室の扉が思い切り開き、中へと勢いよく飛び込んで来たのは・・・・・・
「ケンジちゃん! 誰よ、その女!? 酷いわ、ワタシというものがありながら!」
「権蔵!? え、お前そんなキャラだったっけ!?」
血相を変えて叫ぶ、なぜかオネェ口調の権蔵であった。折角の王子様ルックが台無しである。
(システムメッセージ:権蔵ルートに入りました)
「あら、ダニエルさん。ごめんなさい。あなたの恋人のパウエルさんにちょっかいをかけるつもりはなかったの。ただ、髪に芋けんぴがついてたから、とってあげようとしただけ」
いや、べつに恋人じゃないです。
「そうなんだね。こちらこそ、早とちりしちゃってごめん」
「ううん、大丈夫。勘違いは誰にでもあるもの。二人の恋路の邪魔をしてはいけないから、私はもう行くわ。代わりに取ってあげて。・・・・・・彼の前髪の芋けんぴを」
だから恋人じゃないって言ってるだろ! 人の話を聞け!
「うん、任せて。成城院さん」
「健闘を祈ってるわ。・・・・・・二人のこれからに幸多からんことを」
待て! なんかいい人っぽいムーブしながら俺を置いて行かないでくれ!
しかし、祈りも虚しく、絢音は扉の向こうへと立ち去ってしまった。
「ケンジ。やっと二人きりになれたね・・・・・・。さあ、取ってあげるよ。その芋けんぴを・・・・・・ね」
いや、普通に司書の先生見てますけど!? うわ、やめろ! こっちに来ないでくれ!
抵抗も虚しく、本棚を背に追い詰められる。いわゆる壁ドン状態から、その後どうなったのかは・・・・・・もはやあえて書く必要もあるまい。
END