学園のドン・ファンよろしく、夢のハーレムを作りあげることに成功したケンジ。ハーレム王としてまさに薔薇色の高校生活を送った彼であったが、夢の終わりは残酷なほどにあっさりとしたものであった。
そう。ケンジとヒロインたちは、高校と言う名の箱庭からの卒業とともに、その進路を違えることとなったのだ。
美咲は家業のサバの味噌煮専門店を引き継ぎ、澄香は都内の有名国立大学へと進学。
瀬里奈はSNSにアップした「スペース・マーモット」のイラストが妙なバズり方をしたことをきっかけに、一躍有名イラストレーターに。
絢音に至っては言わずもがな、成城院グループ会長令嬢として、社交界の華として咲き誇っている。
対するケンジがどうなったかというと・・・・・・大学受験に全落ちした。ヒロインをとっかえひっかえして色欲を充たすことだけに高校生活の全てを費やしたような輩が合格できるほど大学受験は甘くないから、まったくもって当然の結果だ。
しかし、貴重なモラトリアム期間をドブに捨てて就職するなんて真似はケンジの頭にははなから無く、とりあえず親のスネをかじって予備校に通うことにした。
この時点でまず、澄香・瀬里奈・絢音の三人とは顔を合わせる機会すら失った。美咲とは一応顔を合わせる機会自体はあったが、あくまでもそれは1食2000円のサバの味噌煮定食を注文すればの話だ。
遠距離恋愛しながら予備校で真面目に臥薪嘗胆の日々を過ごせば・・・・・・
しかし、ケンジはハーレム王たる男だ。彼にとっては、己のすぐ近くで色欲を充たしてくれない女に価値など無いのである。結果、ケンジはヒロインたち4人と自然消滅的に関係を解消し、通っている予備校で新しく女を漁る道を選んだ。
だが「
仕方なくコンビニバイトを始め、その稼ぎの全額を風俗へとつぎ込む日々を送るようになったケンジ。絢音に似て巨乳だからという理由で指名した風俗嬢のカホは、彼の持て余した色欲を一時的に充たしてはくれたが、それはあくまで客として店に金を払ったそのときだけだ。それから数年が経ち、カホが退職すると、ケンジにとって唯一の心の支えだったカホの連絡先も音信不通となった。
全ての拠り所を失ったケンジの中では、過ぎ去りし日への栄光・・・・・・つまり、かつては色欲を都合良く充たすための駒としか見ていなかったはずの
まずは、SNSから瀬里奈のイラストレーターアカウントを探しだしてメッセージを送ったが、彼女のファンからボコボコのケチョンケチョンに叩かれた上に、顔と住所の特定までされた挙げ句、瀬里奈にも秒でブロックされた。
次に澄香のアカウントを執念で特定してDMに突撃したが、「私、もう結婚して子供もいるから、二度と連絡してこないで」と生真面目な彼女らしい返信があったのち、やっぱりブロックされた。
絢音に至っては、もはや論外だった。コンビニで稼いだ給料を風俗に横流ししているだけの実質ニートのケンジごときが、成城院家が誇る鉄壁のセキュリティに太刀打ちできようはずもない。
残す希望は美咲のみ。風俗に行くのを思いとどまった金で、すっかりご無沙汰となったサバの味噌煮店へと向かったケンジだったが・・・・・・しばらく見ないうちに店は、山本が営むオイルマッサージ店へと変わってしまっていた。
すっかり絶望して、オイルマッサージ店の前で立ち尽くしていたケンジだったが・・・・・・。
「あれ? ケンジ・・・・・・だよね・・・・・・?」
その耳に、もはや懐かしい声が聞こえてきた。
「・・・・・・ミサキ・・・・・・」
「久しぶり! 驚いた? 実は集団ヒスタミン中毒起こしちゃってさ、それでうちの店潰れちゃったんだよねー。あはは・・・・・・」
「・・・・・・オレノ・・・・・・オンナ・・・・・・」
当時のことを振り返って、苦笑いを浮かべている美咲。
しかし、せっかくの再開にも、ケンジは小さく何かをブツブツ呟いているばかりで、どこか上の空であった。
「ケンジ、大丈夫・・・・・・? なんか様子おかしくない?」
心配した美咲が、うつむいたままのケンジの顔を下から覗き込もうとした・・・・・・そのとき。
「・・・・・・オカス!!!」
「きゃあっ!!!」
ケンジが急に怒鳴り声を上げ、美咲の肩を突き飛ばして尻餅をつかせる。そして、そのまま馬乗りになると、美咲の胸や尻を乱暴にまさぐり始めた。
「ちょっと!? ケンジ!? 止めて! 嫌っ! 誰か!? 誰か助けて!!!」
できる限りの大声を出して抵抗する美咲だが、ケンジの凶行はとどまるところを知らない。じたばたと暴れる美咲を力任せに押さえつけ、その服を強引に奪い取ろうとする。
「ゴラァ! 人の店の前で何しとるかあ!」
すると美咲の悲鳴を聞いてか、オイルマッサージ店から、4本の竹刀を握りしめた山本が飛び出してきた。
その後、山本によってあっけなくボコボコのボロ雑巾にされたケンジは、そのまま警察へと突き出され、強制わいせつの現行犯で逮捕されたのであった。