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第12話 3ヶ月後

 迷宮に入って3ヶ月が過ぎた。

 現在、第100層。ついに3桁の大台に乗った。


「ようやく100層か」


 サムライ悪魔が居た次の階から悪魔のレベルが急激に上がった。守護神の力でもっとサクサク進めるかと思ったが、かなり難航した。


「中ボスが55層に居たからな。恐らく、迷宮の主は110層付近だ」

「いよいよだな」


 サムライ悪魔よりももっと強い悪魔。正直、勝てるかどうか微妙なとこだな。


「迷宮主についてだが、迷宮主とは私が戦う」

「え? どうして?」

「これだけの大迷宮を作れるんだ、迷宮主は相当な悪魔だと予測できる。是非とも手持ちの守護神にしたい。私の魂の部屋は5つあり、今は4つ埋まっている。1つ空きがあるんだ」

「なるほどね……」


 ラッキーと思う気持ちが半分、ここまで頑張ってきたから迷宮主も俺が倒したかった気持ち半分だ。


 それから順調に100層を踏破すると、次の階で、


「予想より浅かったな」


 ハーツは目の前のロウの扉を見てそう言った。あのサムライ悪魔が居た部屋の扉によく似てる。それにしても、なぜ蝋なんだ?


「私が先に入る」


 ハーツは蝋の扉を押し開く。

 部屋の中は真っ暗だった。俺とハーツが数歩踏み込むと、いきなり部屋中が明るくなった。中央で巨大な炎が作られたからだ。


「凄まじい熱気、それに霊力だ!」


 ハーツの言う通り、猛々しい霊力を感じる。



「【待っていたぞ! エクソシストォ!!】」



 そいつは真っ白な体をしていて、真っ赤な炎を噴出していた。

 それは巨大な巨大な――ロウソクだった。


「は?」

「……」


 巨大なロウソクに、雑な眉と目と鼻と口を書いただけ。蝋の手足も生えている。

 これは……あれだ。浄化したらきっと、ロウソクの付喪神になる。


 ロウソクの、付喪神だ。


「気が変わった」


 ハーツは部屋の壁に背を預け、腕を組む。


「あれはお前にやる」

「いらねーよ!」


「【お前らぁ! なんでそんな遠くに居る? もっと近くに来い!】」


 ロウソク悪魔は若い男の声をしていた。

 ハーツは動く気なし。仕方なく、俺はロウソク悪魔の近くに行く。


「【俺様の名前はティソーナ! この迷宮を作り出した悪魔だ!】」

「ぶっ飛ばしていいか?」

「【まぁ待て。まずは俺の話を……】」

「もうぶっ飛ばしていいだろ?」

「【話を聞け! 悪魔より短気だなテメェ!】」


 ロウソク悪魔はロウソクの癖にゴホンと咳払いし、


「【まぁなんだ。俺様はお前らのような優秀なエクソシストを待ってた】」


 待ってた?

 予想外の展開だ。


「【この迷宮はただの試練! 選りすぐりの勇者のみを俺様のところに通すためにな。まさか500年もこの迷宮を突破する者がいないとは思わなかったが……】」

「なにが目的だ?」

「【俺様に相応しいエクソシストを見つけることだ。見ての通り俺様はロウソクの悪魔、外に出れば太陽の光に身を焼かれ溶けちまう。誰かの守護神にならなきゃ、ロクに外を歩けねぇのさ】」

(悪魔だけど不憫なやつだ)

「【どうせ守護神になるなら、強い奴の守護神になりたいってわけさ! 俺様には外で叶えたい夢もあるしな!!】」


 俺は剣を抜き、ロウソク悪魔に向ける。


「悪いが、俺も師匠も、お前を必要としていない。ここでくたばってくれ」

「【なっ!! 待ってくれ、俺様はまだ……!】」

「どうしても俺達の守護神になりてぇなら、それだけの力を示してみろよ」

「【おぉ、なるほど。乗ったぜその話!!】」


 ロウソク悪魔は芯から炎を天井に向けて発射する。

 天井を覆いつくす炎塊は無数の炎の球へと姿を変え、俺のいるところへ降ってくる――!


「マジかよ……!」

「霊力のポテンシャルは凄まじいな」


 俺は全力で走り、炎球を躱していく。

 1つ1つの炎球の火力は異常だ。地面を溶かして大穴を作ってやがる。一発でも貰ったらアウト!


「この野郎――シェリー姐さん!」

「【OKよ! ダーリン!】」


「憑神ッ!」


 剣にシェリー姐さんを憑りつかせ、ロウソクに斬りかかる。


(き、傷1つ付かねぇ!)


 ダメージは与えられなかった。

 今のでダメなら俺の攻撃でダメージを与えるのは不可能。


(一旦退くか?)


 このままじゃ部屋中が炎で埋まっちまう。


 ん? 待てよ。

 ロウソクは火に溶けやすい性質だ。


 こんな雑に炎をまき散らしたら……、



「【ぬわあああああああああああっっ!? 溶けるぅううううううう!!!】」



 ロウソクの悪魔は最初見た時より、体の大きさを半分ぐらいにしていた。


「馬鹿だなお前……もうなにもしなくても俺の勝ちじゃねぇか」


 おしまいおしまいっと。俺は剣を鞘に納め、部屋の扉を目指す。


「【馬鹿だと! 許しまじき暴言!! これでも喰らえ!】」


 ロウソク悪魔はさらに火炎をまき散らした。


「てめっ!?」


――油断した。


 火炎は俺の行く手を阻んだ。退路も進路も炎の壁に塞がれた。


「なにしてんだお前! こんなことすりゃお前もいっそう早く溶けることになるんだぞ!?」

「【だっはっはぁ! 死なばもろともじゃい!!】」


 まずい。まずいまずいまずい! 

 このままじゃロウソク悪魔より先に俺が焼け死ぬ!?


「エル!」


 ハーツの声が炎の向こうから聞こえた。


「迷宮を攻略すれば迷宮はなくなり、外に出れる。窮地を脱するには、もう迷宮を攻略するしかない!」


 俺の攻撃は奴には効かない。

 ならば――


(くそ! くそっ!! もう、もうあの方法しかないってのか!!)


 残された最後の手段。それは――


「交渉だ!」

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