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第11話 シェリー姐さん

 48層。

 剣の悪魔の居るフロアに足を運んだ。


「見つけた」


 分厚く横幅のある刀身に、大きな口。柄には鋭く尖った瞳。

 剣の悪魔だ。


「浄化の基本は脅迫だ。まず相手を瀕死に追い込め」


 浄化という美しい響きに反して、基本は脅迫なのかよ。と俺は心の内でツッコむ。


「【ガァ!!】」


 剣の悪魔が浮き上がり、俺目掛けて突進してくる。俺は刀身を右手の指でつまみ、突進を止め、左手で柄を掴み、剣の腹を膝に打ち付ける。


「【グッ! ガッ!? や、やめ……!?】」


 5回ほど打ち付け、瀕死にしたところでハーツが次の指示をくれた。


「瀕死に追い込んだら脅迫だ。『俺と交渉しろ、さもなくば殺す』とな」

「おい、剣の悪魔。俺と交渉しないとぶっ殺す」


 言われた通りにすると、剣の悪魔が黒い霧となった。


「悪魔は浄化の条件として、難題を振りかけてくる。それをクリアすれば、浄化は成立する」


 次の瞬間、俺は意識を魂の内へと送られた。



◆魂の面会室◆



 牢屋でなく、面会室。 

 机は1つ。俺と剣の悪魔は向かい合って座る。すると俺と悪魔を遮断するように鎖が壁を作った。俺と悪魔は互いの姿は見えるものの、接触不可能な状態になった。


「アタシをナンパするなんて、アンタ見る目あるじゃない?」


 現実で会った時と違い、剣の悪魔は鮮明な声で、しっかりとした意思を持って話をしてくる。声は大人っぽい女性だ。


「でもね、アタシはアタシを使いこなせる男じゃないとついて行く気はないわ。アナタの剣の腕、見せてくれるかしら?」


 これが交渉か。

 悪魔の条件を飲めばいいわけだな。


「いいぜ。どうやって見せてやればいい」

「アタシと決闘しなさい。肉体はアナタに合わせる。剣は細剣一本、先に致命傷を与えた方が勝ち。アタシが勝った時は見逃してもらうわ。これは“ゲッシュ”よ」

「げっしゅ?」

「破れない約束のこと」

「なるほど、“ゲッシュ”ね。1つだけ異議がある」

「なによ?」

「俺が負けた時、アンタを見逃すだけじゃスリルが足りない。俺が負けた時は――自ら命を絶ってやるよ」

「言ったわね……じゃあ改めて、今の条件でいいのなら“ゲッシュ”と口にしなさい」


 俺と剣の悪魔は椅子から体を離し、


「「“ゲッシュ”」」


 と口を揃えて発言する。

 さらに空間が移り変わる。



◆魂の闘技場◆



 見慣れた光景。俺が戦っていた円形決闘場だ。

 手には鞘に収まった細剣。

 正面には俺とまったく同じ姿をした男が立っている。男の装備も俺と同じだ。


「では尋常に、勝負と行こうかしら」

「鞘から互いに剣を抜いたらスタートな」


 鞘から剣を引き抜き、勝負が始まった。

 そして、一瞬で終わった。


「嘘、でしょ……?」


 俺は剣の悪魔が足に力を込めている途中で、その胴体を斬り抜けた。


「……アタシの、名は……シェリーよ……」

「これからよろしくな、シェリー姐さん」


 空間が真っ白になり、意識は現実に戻る。



 ◆第55層◆



 第55層、ボス部屋。

 俺は腰に剣を引っ提げて、再びサムライ悪魔と対峙する。


「【ホウ。懲リズニ又来タカ】」


「今度は前と同じようにはならないぜ」


 俺は宝物庫から持ってきた錆びた剣を鞘から引き抜く。


「シェリー姐さん。出番だ!」

「【あいよ、ダーリン】」


 錆びた剣に、シェリー姐さんを押し付ける。



憑神ツキガミッ!!」



 すると、剣から錆がなくなり、剣に強大な霊力が込められた。


「【アタシの能力は取り憑いた剣をベストコンディションにすることよ。その名も“愛撫研磨ラブウォッシュ”♡】」

「良い能力だ」


 光沢を放つ剣を手に、サムライ悪魔に斬りかかる。

 1分に渡り、剣戟が繰り返される。


(いいね。一度勝てなかったボスに、レベルを上げて再挑戦。前は手も足も出なかったのに、今はハッキリと勝ち筋が見える)


 やっぱり剣はいい……手に馴染む。素手の俺の戦闘力が10なら、剣を持った俺は戦闘力200ぐらいはある。しかもこの剣は霊力で守られているから、折れる心配もない。全力で振り抜ける――!


「【ヌゥ!? 剣ヲ持ッタダケデ、コレホドノ……!】」


(さすがに、脅迫する余裕はないな)


 このサムライ悪魔は相当強い悪魔、守護神に出来たら心強かったんだがな。

 まぁいいか。シェリー姐さんの能力は使いやすいし。


――もうくたばっていいぞ、オマエ。


「さよならだ」

「【……っ!?】」


 俺はサムライ悪魔の全身を斬り裂いた。

 55層、攻略。サムライ悪魔が消え去ると、部屋の奥に下へ繋がる階段が現れた。


「見事だ」


 ハーツは拍手をし、小さく笑っている。


「剣士とは聞いていたが、これほどとはな。剣技だけで言えば、私が知るエクソシストの中でも五指に入る」


 はじめて、ハーツから真っすぐな誉め言葉を頂いた。


「霊力の扱いも最初に比べてかなり上達した。成長したな、エル」


 ハーツは嬉しそうだった。

 顔が熱い。普通に照れてしまう。

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