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第10話 守護神

 ◆第52層◆



「あれから逃げられただけ、よくやった」


 52層のセーブポイント。

 敗走し、全身傷だらけの俺にハーツは言う。


「……歯が立たなかった。今の俺じゃ、あいつには勝てない」

「だろうな」

「どうすればいい?」

「安易に答えを求めるな。これまでのことを思い出せ、あれを倒すヒントはある」


 って言われてもな……。

 答えを出せない俺を、ハーツは見かねて、


「霊感を掴んだ時を思い出せ」

「霊感を掴んだ時……」


 と言えば、あの悪魔に取り憑かれた時のこと。

 そうだ。あの時、悪魔に憑かれた時、全身に力がみなぎったのを覚えている。


「自分に悪魔を取り憑かせる、のか?」

「正確には悪魔を味方につける、だな。だが知っての通り、悪魔はそのままだと邪悪な存在、とても人間と同調することはできない。だから、エクソシストは悪魔を浄化し、神にする」

「神!?」

「悪魔を浄化し、己の守護神として手駒にするんだ」


 ハーツは指を鳴らす。すると、ハーツの後ろに、霊力の塊が3つ現れた。


 1つは棍棒の形をし、

 1つは龍の形をし、

 1つは全身を白装束で隠した人の形になった。


「これが私の守護神。悟空ごくう玉龍ぎょくりゅう悟浄ごじょうだ。元は全員悪魔だった」


 ハーツが紹介すると、棍棒の霊は俺に近づき、


「【よろしくな、お嬢の弟子! 言っとくが、お嬢に手を出したら承知しねぇぜ!】」

「棍棒が喋った……」

「悟空は“付喪神ツクモガミ”、棍棒に憑くことができる」


 次に龍の霊が俺にすり寄り、頬を舐めてくる。

 こいつ、霊の癖に、実体がある。


「玉龍は“式神シキガミ”。この通り、霊の姿のまま実体化できる」


 最後に白装束の霊が近づいてくる。


「【へぇ~。お嬢の弟子にしちゃ、美しさが足んねぇな。もっと自分磨きをしなよ、少年】」

「悟浄は“呪神ノロイガミ”。人間に憑くことができる」


 どいつもこいつも、迷宮で会った悪魔とは桁違いの霊力を感じる。


「悪魔を浄化して守護神にすると、必ず“付喪神”、“式神”、“呪神”のいずれかになる。悪魔が道具や武具の形をしていれば守護神にした時“付喪神”に、動物の形をしていれば“式神”に、人の形をしていれば“呪神”になる」

「迷宮内の悪魔を守護神にすれば、あのサムライ悪魔に勝てるってわけか」

「そうだ。エル、お前の魂の部屋の情景を覚えてるか?」

「えーと、牢屋だったな……」

「牢屋はいくつあった?」

「1つだ」

「それなら、お前がいま手持ちにできる守護神は1体ということになる。まずは“付喪神”にするか“式神”にするか“呪神”にするか決めろ」


 俺はハーツに、3種類の守護神について詳しく聞いた。


―――――――――――


 【付喪神】

 物に取り憑く守護神。守護神自体が物の形をしており、その姿と同系統の物体に取り憑ける。つまり剣の形をした守護神なら剣にのみ取り憑くことができるというわけだ。取り憑いた物体に特殊な効果を付与(例:ただの剣を炎を纏った剣にするなど)する。さらに取り憑いた物体に多量の霊力も付与する。


 【呪神】

 人に取り憑く守護神。人の形をしている。守護している人間に取り憑き、特別な能力を与え、霊力を増強させ身体能力も向上させる。


 【式神】

 霊体をそのまま実体化できる守護神。動物の形をしている。使い魔・召喚獣と言うこともある。単純に頭数を増やせるのが良い所だ。他2つに比べてエクソシストの技量の影響を良い意味でも悪い意味でも受けにくい。



―――――――――――


 普通に考えりゃ、“呪神”と“式神”が安定して使えそうだ。

 でも……、


「宝物庫に錆びた剣があっただろ。あれに剣の“付喪神”を憑かせれば、それなりに使えるようになるか?」

「“付喪神”が憑いたアイテムには霊力が大量に取り込まれる。あの錆びた剣でも、岩を斬ることができるようになるだろう」

「――決まりだ。俺は剣の“付喪神”を守護神にする。ここに来る途中で剣の形した悪魔も見た、あれを捕まえよう」

「“付喪神”か……3種の守護神の中で一番扱いづらいと思うがな」

「どうして?」


 大体想像はつくけど。


「取り憑ける道具がないと役立たずになる。例えば、この状況でも“式神”である玉龍と“呪神”である悟浄は使えるが、棍棒が手元にないから悟空は使えない」

「【役立たずって言い方はねぇぜ、お嬢……】」

「俺は剣士だ。とにかく剣がないとどうにもならん、それだけの話だよ」


 逆に言えば、剣さえあればどうにでもなる。


「いいだろう。では、実戦で浄化の方法を教えよう」

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