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第18話 エクソシストもどき

「凄い……!」


 パティの称賛の声が聞こえた。

 セリムはグーダムの影に隠れるよう移動する。


「ロウソクの、剣? なんだアレは……! あんなふざけた見た目のやつに、なんで押されてるんだよ!」


「【ふざけた見た目とはなんだコラ!】」


 ティソーナの怒りに比例してロウソクが熱くなる。


「落ち着けティソーナ、熱い」


 セリムはグーダムを責めるような目で見る。


「おいグーダム! なんとかなるんだろうな!!」

「【黙っていろ、役立たず】」

「やくただず!?」


 グーダムは目を細め、霊力を高める。


「【あなどっていたわ。これほどの霊力、そして剣術の持ち主だとはな。守護神の方も、よく見れば高い潜在能力を感じる】」


 グーダムは巨大な剣を1本、生成する。象すら串刺しにできる大きさだ。

 グーダムは指を振り、大剣を飛ばす。俺は大剣を横薙ぎで斬り裂く。


「【やはり、この程度では容易たやすく斬り裂かれるか……】」

「いいから早く本気出せよ。待ってやってるんだから」

「【よかろう】」


 グーダムは砂鉄を自分の体に纏わせ、大きな四足歩行の獣の形を作る。黒く光るそれは、明らかにさっきまでの鉄とはレベルが違う。


「【最大硬度だ! 

 ダイヤモンドすらこの鎧と比べれば土塊つちくれよ!! これを斬れる剣は、この世に存在しないっ!】」


「俺はこの剣で斬れないモンを知らねぇ。――矛盾だな」


 俺とグーダムは、息を合わせて突撃する。

 お互い、なにもフェイントも策略もなく真っすぐ進む。それは互いに、自分の攻撃力、防御力に絶対の自信があったからだ。


 ――ジュウ。と、音がした。


 その音で、勝敗はわかる。

 最硬を謳う鎧は、縦に焼き切られ、その中にいた悪魔も真っ二つに斬られた。


「【矛がまさったか……!】」

「……そのようだ」


 瞬間、悪魔グーダムは燃え上がり、灰となる。


「ひぃ!?」


 残されたセリムは尻を床につけ、無様に後ずさっている。

 俺が剣先を向けると、セリムは顔を覆うように両手をあげた。


「おおお、お前! 本物のエクソシストなんだろ!? エクソシストが、無抵抗の一般人を殺す気か!?」


「悪いが、俺はまだエクソシストなんでな。それに……テメェを一般人って言うのは無理があるだろ。エクソシスト殿」


 俺は炎の剣を振り上げる。


「た、たすけ、たすけてっ……!」

「あばよ」


 俺はセリムの首を狙って、剣を振るった。――なのに、セリムの首は斬り落とせなかった。

 俺がロウソクを振った瞬間に、ティソーナが炎の刃を消したのだ。


「……どうしたティソーナ、反抗期か?」

「【う、うまく言えねぇんだけどよ。こいつは、俺様たちが裁くべきじゃねぇんじゃないか?】」

「どうして?」

「【うまくは言えねぇって言っただろ! とにかく、こんな泣きじゃくったやつを殺すのはご免だ!】」

「……ったく、甘いね。お前はよ」


 セリムは泡を吹いて気絶した。


「どうする? あんたには、こいつを殺す権利があると思うぜ」


 俺はパティの方を見る。


「……もう止めねぇよ」


 パティは首を横に振った。


「そんな男のために、手を汚すなんて馬鹿みたい。その男をどうするかは町のみんなで話し合うわ」

「そうかい」


 こうして、長い夜は終わった。


 ◆


「ごちそうさま」


 セリムの一件が終わって一夜が過ぎた。

 俺とティソーナは戦いの後寝落ちし、起きた時にはもう昼食時だった。パティにシチューを作ってもらい、いま食べ終わったところだ。


「やっぱこのシチューは絶品だな!」

「ふふっ、ありがとう」


 パティは正面の席で、笑って俺を見た。


「……結局ね、セリムは殺さないことになったわ」

「そうなのか」

「うん。セリムにはこれから雑用係として町に尽くしてもらう。あいつがこれまでやった悪事の分、こき使ってやるの!」


 町の奴隷として一生働くわけか。

 それは死ぬよりもつらいかもしれないな。


「エルは今日の内に町を離れるの?」

「ああ。早くエクソシストになりたいからな。お前らは新しいエクソシストを雇わないのか? また悪魔が現れないとは限らないだろ」

「町長が近々教団にエクソシストを派遣してくれるよう交渉しに行くらしいわ。町の東に〈ダーナ〉っていう都市があるの。そこに、教団の支部があるそうよ」

「東か……行き先は決まったな」


 ロウソクに憑依したティソーナが肩に乗る。


「今から行く気? 結構遠いわよ。3日後に町長と一緒に馬車で行ったら?」

「いいや、そんなに待ってられないな」

「そんな急ぐこと?」

「ああ。俺にはな、教皇になるって夢があるんだ。夢を叶えるためにもここで時間を使ってられないよ」

「教皇?」

「エクソシストの頂点さ」


 俺は立ち上がり、扉へ向かう。


「じゃあな、パティ。世話になった」


 俺が家を出て、数十歩ほど歩くと、背後から大きな声が聞こえてきた。


「エル! 仇を討ってくれてありがとう!!」


 涙声だ。


「あなたならきっと教皇になれるわ! わたしが保証する!! またいつでも、シチュー食べに来てね!」


 俺は後ろを見ずに、手を振って応えた。


「【なぁ相棒。1つ忘れてねぇか?】」

「なにを?」

「【アロマだよ! アロマキャンドル!】」

「あ」


 すっかり忘れてた。


「こ、この町には売ってなかったんだ」

「【本当かぁ?】」

「ホントホント。〈ダーナ〉に着いたら買ってやるって」

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