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第17話 炎の刃と鉄の刃

「そうか」


 町はずれの森林の中。

 戻ってきたティソーナから、俺はセリムと悪魔のことを聞いた。


「そのグーダムってのは金属かなんかを操る魔術を使えるんだろう。生み出した金属で悪魔っぽいのを作って、セリムに斬らせてたわけだ」


 違和感が晴れた。


「【どうするよ? 今日やりにいくのか?】」

「今日は眠いから明日にしようぜ。さすがに今夜はもう仕掛けないだろうし、明日の朝にケリつければ問題なし。パティの家に戻ろう」


 俺達はパティの家の前まで行って、違和感に気づく。


「灯りがついてないな」

「【もう寝てるんだろ】」


 家に入る。

 俺は家の中の全部の部屋を見たが、パティの姿はなかった。


「ティソーナ、セリムが抱いてた女の中にパティはいたか?」

「【いいや、いなかったぜ】」

「……考えすぎか」


 そう思い、食卓を見ると、書置きがあった。

 パティの書置きは俺に対して書かれていた。


『エルへ

 セリム様に家へ招待されたので、帰りが遅くなります。空き部屋の1つに布団を敷いておいたので、そこを使って眠ってください。

 パティより』


 俺は書置きをその場に捨て、家を出た。

 全速力でセリムの家に向かう。


「グーダムだったか!? そいつ、若い女が食いたいって言ってたんだよな!?」

「【そうだよ!】」

「さいっあくじゃねぇか!」

「【急げエル! パティが食われちまうぞ!】」

「わかってるって!」


 霊力を纏い、さらに加速する。

 幸い、パティの家からセリムの家まではそう距離はない。あっという間にセリムの屋敷が見えた。


「許さないっ!!」


 セリムの屋敷の前まで行くと、パティの叫び声が中から聞こえた。

 扉を開けて中へ入ると、パティが果物ナイフをセリムに向けていた。


「わたしのお父さんも、お母さんも、あなたが殺したのね……!」

「それは違うな。殺したのは俺じゃない、ここにいるグーダムさ」

「ずっと嘘をついてた! 両親の仇を取ったって……だから、わたしは、あなたに尽くして……!!」

「ああ、まったく、馬鹿な女だ。まんまと騙されて、俺を英雄だと思い、処女も金も捧げてよ」


 パティは屈辱から顔を赤くする。


「まぁそう悔しがるな。お前だけじゃない、俺に良いように操られた奴はな。男は供物として殺し、女は生かして俺の物にする。そうして理想の楽園を作る。それが俺の計画だ。お前は楽園の中心に置くつもりだったのに……馬鹿なうえに、運の悪い女だ」


「セリム!!! この、悪魔め!!」


 パティはナイフを持って、セリムに向かって走り出す。しかし、セリムを守るように、グーダムがセリムの前に出た。

 俺はパティの肩を掴み、足を止めさせる。


「エル!?」

「やめとけパティ。霊力のこもってないナイフじゃ、悪魔は殺せねぇ」


「ほう。少しは悪魔に詳しい奴が来たようだな」


 俺はパティを後ろにさげる。


「貴様は……酒場で会った男か」

「あの時は世話になったな。お返しに来たぜ」

「エル!」


 パティが背後で叫ぶ。


「邪魔しないで! わたしは、あの悪魔に復讐するの!」

「ダメだ。100%死ぬぜ」

「あなたには関係ないでしょ! 放っておいて!」

「そりゃ無理だ。悪いが……」


 俺は笑顔でパティの方を振り向く。


「またあんたのシチューが食いたいからよ、死なせるわけにはいかないんだ」

「……っ!?」


 俺が言うと、パティはナイフを手から滑り落とし、涙を流しながらその場に座り込んだ。


「さてと」


 俺はベルトに括り付けてあるロウソクを1本、手に取る。


「行くぜ、ティソーナ」

「【おうよ!】」


 ティソーナが霊体で姿を見せる。

 すると、それを見た相手の悪魔は眉を吊り上げた。


「【ロウソクの、付喪神……? とんだ笑い者だな】」

「ぷはははははっ! ロウソクの付喪神ぃ!? 剣でも槍でもなく、よりによってロウソク!? そんなもんでなにができるよ!!?」


「――お前らを懲らしめられる」


 グーダムは砂鉄のような物を生成し、7本の剣を作る。

 7本の鋼鉄の剣は俺にその矛先を向け、空中で制止する。


「【くたばれ!!】」

「エルゥ!!」


 心配そうなパティの声。

 鉄の剣は勢いをつけて、飛んでくる――!


「憑神ッ!!」


 紅い剣閃が、7つの真っ赤な軌跡を作った。

 火炎の刃が、鉄の剣を焼き尽くした。


「【なっ……!?】」

「はぁ!?」


 燃え尽きる鉄を見て、セリムとグーダムは呆然とする。

 俺は炎の剣ティソーナをグーダムに向け、馬鹿にした笑みを浮かべる。



「どうした? 笑えよ」

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