「まったく、血気盛んな奴らだ」
バケツ教師はやれやれとバケツを掻く。
「いいだろう。第3試合はすぐに始めよう」
俺とボンペイは向かい合って立つ。
俺はロウソクを前に出し、ティソーナを憑かせる。
「憑神!」
ロウソクにティソーナを憑かせると、ボンペイがほんのすこし、戸惑った表情をした。
「ロウソク? それが武器になりえるのか?」
馬鹿にした口調ではない、本気で不思議がっている感じだ。
今までの連中みたいに油断してくれればやりやすかったのにな。むしろ、妙な武器を前にして警戒を強めてやがる。
ギャラリーがざわつき始めた。
第1試合の時より、ギャラリーの数が倍くらいになってる気がする。
「双方準備はいいか?」
「はい」
「もちろん」
「では……試合開始ッ!!」
ボンペイは一歩で、俺との間合いを3メートルまで詰めた。
(速い!?)
右拳が突き出される。
俺はロウソクから炎の刃を出し、ボンペイの右の拳に合わせにいく――
「ぶはっ!」
気づいたら、
(確実に右できてた……! 俺の動きを見て後出しで拳を変えやがった!! なんて反射神経ッ!!)
数メートル殴り飛ばされ、地面に靴底を擦りながら着地する。
着地の隙をつこうとボンペイが迫る。
「ちぃ!!」
俺は炎の刃を横に振るう。
ボンペイは右腕を上げ、刃を受けようとする。
炎の刃が、ボンペイの右腕に当たった。と思ったら、ボンペイは大きく後退していた。
「なんて切れ味だ……!!」
ボンペイは焦った顔をしていた。ボンペイの右腕には浅いが切り傷ができており、血が滴っている。
(あの野郎……! 剣が腕に食いこんだ瞬間に下がりやがった)
自分の霊力防御に自信があったんだろうな。ティソーナの刃に防御が突破されて、少なからず動揺している。間合いを慎重に測ってやがる。
スピードは完全に俺が負けている。
だけど、俺の攻撃力がやつの防御力に勝っていることはわかった。
「ティソーナ、モード“爆弾(ダイナマイト)”」
1本のロウソクをボンペイに向かって投げる。
「――ッ!?」
ロウソクは爆裂し、大きな土煙を上げる。
「決まったか!」
とギャラリーの1人が言うが、残念、この程度の威力じゃ直撃したとしてもあいつは倒れないだろう。
俺はロウソクを2本出し、1本を土煙舞う地面に転がし、1本を構えてティソーナを憑かせる。
「【来るぜ!】」
「わかってる!」
煙の中から飛び出してくるボンペイ、俺の顔面目掛けて拳を飛ばしてくる。
俺は拳を躱し、突きを返す。ボンペイは膝を折り、屈んで刃を回避、足払いを仕掛けてくる。俺はジャンプして足払いを避け、上から刃を振り下ろしながら着地。ボンペイはバックステップで振り下ろしを避けた。
それから2、3度剣と拳のやり取りをし、状況を打開するため俺がロウソクを振り上げ炎刃を振るう。ボンペイはバク転でそれを躱した。
(いまだ)
俺は手元のロウソクからさっき転がしたロウソクにティソーナを移動させる。
ボンペイが着地したところで、地面を転がっていたロウソクから炎の刃が飛び出し、ボンペイの左肩を掠めた。
「【左肩ぶっさすつもりだったのによぉ!】」
(ギリギリで勘づかれたか!)
「小癪なっ……! マネを!!」
ボンペイはロウソクを俺に向かって蹴り飛ばす。
「ぬおっ!」
俺の腹にロウソクが激突する。ロウソクにも霊力が込められており、深く俺の腹にめり込んだ。しかもロウソクの芯のある方からだ。ティソーナがあともうちょい火を消すのが遅かったら串刺しになってた。
「かはっ!」
胃の中のモンを吐き出しかけたぜ。
(一瞬の接触でこれだけの霊力を込められるのか……!)
「呪神、式神、付喪神。僕はこれまで、3種の中で付喪神が一番弱く、扱いづらいものだと認識していた。だが、改めなければな。付喪神の強みはこの柔軟な動きか」
「……久しぶりに、
互いに、理解しただろう。
――こいつは、本気でやらなきゃ倒せない。
互いの霊力が溢れ出す。
「――っ!!」
「――ッ!!」
霊力同士がぶつかり合い、ゴゴゴッ! と空気が震える。
俺とボンペイは同時に、地面を蹴った。
――本気の戦いが始まる。