(内緒だよ、って言ったんだけどなぁ)
はは、と肩を竦めて
仮面は宗主にしか外せないため、素顔はもちろん知られることはないが、民たちの噂の種になるにはじゅうぶんだろう。
「仮面を付けていたからと言って、あなただとは断定していないとしても。もしかしたら、と疑念を抱かせてしまうわ。たとえみんなの前ではなんの力もないと見せていても、ちょっとした綻びで偽りが暴かれてしまうこともある」
「わかってる。俺も今の不変で平穏な生活が好きだし、壊したくもない。でも探究心は抑えられないし、ここにあるたくさんの符や術譜を試したくてしょうがないんだ」
好奇心や探究心は、邸に閉じこもってばかりの
「それに困ってる人を助けるのは悪いことなの? 力があるなら使わないと。都の術士たちは上物の
途中まで
夢中で話していたその視線の先にいる
だが時に命を落としかねない事態もあるからこそ、見極めも必要と結論付けている。それはどこの一族も同じで、違うとするなら
「あなたのやっていることを止めるつもりはないわ。あなたは賢いから、言わなくてもわかっているでしょう? 誰にも気付かれないように、上手くやればいいだけ、」
しばし
「母上、これはまだ試験段階なんだけど、ものすごく面白い符を作ったんだっ」
「ふふ、どんな効果があるの?」
無邪気に笑って、
新しい玩具を手にした小さな子どものようにはしゃぐ
昼を知らせる鐘の音が響く。同時に邸の従者が昼食を運んで来たので、話はそこで終了した。
従者が来る気配がした途端、
その変わり身の早さに
再びふたりだけの穏やかな時間が流れると、
時折聴こえてくる笛の音は、楽しげだったり物悲しげだったりでたらめだったりする。
暖かな風と甘い花の香りが邸を彩っているように思えた。
ただ、祈るばかり。
大切なあの子が穏やかに過ごせるように、と。