駆け寄る気力も尽き、
「君は、彼女を」
首を回してその視線の先にいる少女を見やり、そちらは頼むと会釈をした。
胸に貼られた
「怖かったろ? 立てるか?」
ふるふると首をふる妹を責めることはせず、代わりに、ほら、と屈んて背を向ける。
まだ夜は明けておらず薄暗い。このまま邸に戻り見つかれば、様子がおかしいことがすぐにわかってしまうだろう。
「
「問題ない。私が借りている邸へ運ぶといい。元々君たち一族の持ち物だろう、」
最後まで話し終わる前に、淡々と前を歩く
(
挨拶と言っても動作的な挨拶であって、日常的な会話すら交わしたことはない。誰かと話している姿を一度も見たことがなかったため、その声を初めて聞いた気さえする。
少しも動かない
(そもそも、なんでこんなことになったんだ?)
あの赤い月も今は元の青白い月に戻っていた。全力で広範囲を走り回り、術を使ったせいで
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――――あの時。
白い陣が現れたあの瞬間、傾いで落ちていく身体をなんとか反転させた
体感ではゆっくりと流れるようだったが、実際は倍は速かっただろう。近づいていく地面を背に、思わず赤黒い月に手を伸ばしていた。
その手を力強く掴まれ引き上げられたかと思えば、そのままふわりと抱き上げられてしまい、思わず息が止まりそうになる。地面に降り立って初めて、そのひとは静かに呟いた。
「······大丈夫。あとの事は任せて、君は安心して眠っていてくれ」
優しい声が降り注ぐ。その声は低く心地が良かった。礼を言おうと声を出そうとしたが上手く出ず、身体にもまったく力が入らなかった。
(······この声、どこかで、)
そこで
遠い日の記憶を呼び起こしてみても、