塀の低い門の前で、
「
「ええ。
顔色も悪くないので、やせ我慢ではなさそうだ。
「お前······その格好、」
「どう? 母上が今日のために繕ってくれたんだ」
「か、」
「か?」
(いや、俺は何を言いかけた!?)
青ざめて、首を横にぶんぶんと振る。
違う違う。それじゃない! 訂正!
「な、なんて格好をしてるんだっ! まるで女人じゃないかっ」
「え? でも似合ってるでしょ? そんなことで怒らないでよ」
(お前は、恥を知るべきだ!)
袖と合わせの部分に金と白い糸で繊細な紋様が描かれた、膝の辺りまでの長さの水浅葱色の薄い羽織。その中に白い上衣、白い
けれども翡翠の瞳の色を薄めたような水浅葱色の羽織は、本人には口が裂けても言わないが本当によく似合っていた。
「ふふ、私が
「いや、どうと言われても······」
どこに嫁ぎに行かせる気なんだ! と心の中で突っ込まずにはいられない。
夫人がどうかしら? と言っている髪だが、左右ひと房ずつ横で赤い紐と一緒に編み込み、それを後ろで軽く纏めて結び、背中に垂らしている。それは間違っても、十五歳の少年が普段する結び方ではなかった。
「か、可愛らしい········はっ!?」
思わず
「そうでしょう? そうでしょう?
「じゃあ、母上、行ってくるね!」
「ええ。行ってらっしゃい」
とん、と背中を軽く押して、
桜の舞い散る庭を通り、邸に戻る。静寂を取り戻した邸は広く感じるが、それでも差し込む明るい日差しが希望でもあった。
(······これで、いいのよ。あの子は特別な子。いずれこうなるとわかっていたでしょう?)
隠している事。
(····黄龍よ、四神の聖獣よ。どうか、あの子をお守りください)
この地を守護する聖獣に祈る。
その音は一層美しく、物悲しい色をしていた。