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2-3 白群一行



 白群びゃくぐんの一族一行と合流したのは、金虎きんこの邸から北側にある森の前だった。


 白漣はくれん宗主と白笶びゃくや、奉納祭の席にはいたが口を出さなかった、宗主の子で白笶びゃくやの兄である白冰はくひょう、あとはあの礼儀正しいふたりの若い従者だった。


 先に宗主に挨拶をし、その横にいた公子たちに続いて頭を下げる。白笶びゃくやは相変わらず言葉を発することはなく、ただ丁寧に姿勢正しく挨拶だけ交わす。


 宗主と白笶びゃくやの間でにこにこと人懐こい柔らかい笑みを浮かべ、特に弟に何か言うでもなく、薄青の衣を纏った背の高い秀麗な容姿の公子がすっと手を差し出す。


 細く長い髪の毛は胸の辺りまであり、藍色の紐で括って右肩に掛けるように垂らしている。青い瞳は穏やかで優しげだった。


「こうやって言葉を交わすのははじめて、だね。私は彼の兄の白冰はくひょう。これからよろしくね」


 弟とは真逆でかなり砕けた性格のようだ。にこにこと笑顔で自己紹介をし、ぶんぶんとふたりの手を取って激しい握手を交わした。


「ああ、このふたりは右が雪鈴せつれい、左が雪陽せつよう。似てない双子ちゃんだよ。なにか困ったことがあったら彼らに言って?」


 竜虎りゅうこたちと歳の変わらなそうなふたりの従者は、よく見れば確かに似ているところがある。双子らしいが、白冰はくひょうの言う通り全く同じ顔ではなかった。


 どちらも美しい顔立ちをしているが、印象としては雪陽せつようの方が凛々しく、雪鈴せつれいの方は優しそうな雰囲気がある。背に白群びゃくぐんの家紋である蓮の紋様が入った白い衣を纏い、頭の天辺で長い髪の毛を丁寧に結っていた。


「なんなりと申し付け下さい」


 代表して雪鈴せつれいの方が言葉を発し、ふたり同時に頭を下げた。


「こちらこそよろしくねっ」


「よろしく頼む」


「こ、こちらこそ、なんなりと申し付け下さい!」


 三者三葉の返答で金虎きんこ側も返す。

 そして二列になって宗主を先頭に歩き出す。


 無明むみょう竜虎りゅうこの傍を離れ、雪鈴せつれい雪陽せつようを追い抜いて、ひとりで歩く白笶びゃくやの横に並び、手を後ろで組み腰を少し折って前屈みになると、顔を下から覗き込んだ。


「また会えたね!」


「······ああ、」


 再会が早すぎたが、気まずさよりも嬉しさの方が勝って無明むみょうは楽しそうだった。一方はまったく表情が変わらないが、ちゃんと返事を返してくれた。


「その衣、は······」


 ゆっくり瞬きをして、ちらりと無明むみょうの方に視線を送る。


「似合うかな? 母上が紅鏡こうきょうに来た時に着ていた衣を繕ってくれたんだ。光架こうかの民の伝統的な衣裳なんだって。変じゃない?」


「変ではない。良く似合っている」


 本当? とぱあっと明るい表情で無邪気な笑みを浮かべる。抑揚のない声で白笶びゃくやは言ったが、嘘を言っていないことは解った。なのでたとえお世辞だったとしても嬉しい。


「ふたりは仲が良いね。いつからそんなに仲良しになったんだい?」


 前を歩く白冰はくひょうが興味津々に訊ねてくる。家族ともほとんど会話をしない白笶びゃくやが、話題の金虎きんこの第四公子と声を発してやり取りをしているのだから。


 言葉を選んでいるのか、どう答えるか考えているのか、白笶びゃくやは押し黙ってしまう。そんな姿を見て、無明むみょうはにっと口元を緩めて顔を上げる。


「ふたりだけの秘密!」


 人差し指を自分の口元に当て、いたずらっぽく笑った。それはますます気になるなと白冰はくひょうは肩を竦めたが、それ以上は追及するのをやめた。別に可愛い弟を困らせたいわけではないのだ。


「でもなんとなく、解るよ。君は魅力的だからね」


 白冰はくひょうは前を向き、森の木々の隙間から覗く晴れ渡った空を見上げる。幼い頃から表情が乏しく口数も少ない。


 必要最低限の言葉以外は交わさず、笑わず、ただ静かに佇んでいることが多かった白笶びゃくや。もちろん同じ年頃の術士たちもいたが、彼はいつもひとりだった。まるで近づく者を遠ざけるように、達観し、いつしか孤高の存在と化した。


 それは彼の本望だったのだろうが、それが少し寂しく感じた。




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