なんとか吊り橋を渡りきると、渓谷に沿って下りの細い道が続いていて、一行は
上から勢いよく落ちてくる滝の水は、湖に大きな音を立てて跳ね返り、かなり離れた場所まで霧のような飛沫が飛んで来る。下から上を眺めてみれば吊り橋が細い縄のように見えた。あんなに高い場所から降りてきたのだという実感が湧く。仙境のような空想のセカイに似たその光景に、
湖の先は細い小川になっており、それは遠くへ行くほど大きな川になっていくのがわかる。その川の周辺に目的地の村があった。
「少し休んだら、出立する。何事もなければ夕刻前には
昼餉は簡易的なもので済ませ、各々湖の畔で身体を休める。竹筒に水を補充して
「こんな場所が
「ここはもう
肩を竦めて答えるが、
「本で読んだんだけど、
後ろに立っている
(またやってる······、)
その隣で見せつけられている身にもなって欲しい。
「へへ。ありがとう、公子様」
「······名で、呼んでくれてかまわない」
袖を離し、少し困ったような顔で
「うーん。じゃあ教えてくれる?」
見上げていた顔を俯かせて、
「なんで俺を助けてくれるの?」
ずっと。出会ってから今の今まで。どうして他人である自分を助けれくれるのか。いくら
それがなんであれ、心を許してしまう自分がいることも事実で、迷惑だとかそういう風に思ったことはなく、むしろその無償の施しに甘えてしまう。
「あの渓谷で出会った鬼も、そう。ずっと前から俺を知っているような口ぶりだった。あの時言っていた、みつけられてよかった、ってどういう意味?」
まるで。そうまるで、ずっと捜していたかのような、そんな言い回しだった。
「俺は、君にも、あの妖鬼にも会ったことがない。でも君とあの妖鬼は面識があるみたいだった。彼は自分の
ふざけたり誤魔化したりする必要もない。この件はいつか話してもらいたいと思っていた。しかし道中にそんな機会はなく、今なら他の者たちは離れた場所にいて、ここにはふたりしかいない。
「俺は、君やあの妖鬼にとって誰なの?」
「········その問いには答えることができない」
それは、予想していなかった答えだった。訊ねれば答えてくれる、そう信じていたのに。答えられない、と
「わかった。もう訊かない。その代わり、俺のことはもう甘やかさないで」
立ち上がり、