白い糸で編まれた繭のようなものが周りに見える。柔らかい感触で意外と心地よかった。横たわっているはずなのに、まるで空中に浮いているよう。もしかしたら村人たちのように、繭ごと糸で吊るされているのかもしれない。あの鬼蜘蛛が獲物を逃がさないようにするために作り出したものだろうか。
「ん? ······あれ?」
頭の上で呼吸が感じられた。よく自分の身体を見てみると、自分のものではない片腕が腰に回されており、もう片方は包むように肩をしっかりと掴まれていた。呼吸のする方を向けば、やはり思っていた通りの眉目秀麗な顔があった。
「公子様、公子様? 大丈夫?」
見上げたまま小声で訊ねるがまったく反応がない。身じろいでみるが、意識がないというのにまったく力がゆるむ気配がない。無意識の中でも自分を守ろうとしているのだと思うと、なんとも言えない感情になる。
もぞもぞと両腕を
(········やっぱり、俺を庇って)
これは間違いなく血だ。
だとしてもこのまま放置していれば化膿する可能性もあるし、ましてや鬼蜘蛛の邪気が身体に回ったら大変なことになる。
「公子様、俺はもう大丈夫だから、そろそろこの腕をほどいて欲しいな〜? なんて····、」
へらへらとお願いしてみたが、当然聞いてもらえるわけもなく、瞼は固く閉じたままだった。
「公子様の方が大丈夫じゃなさそうだよ····? 身体、すごくあつい。あ、ちょっと待ってね?」
血で濡れた手で触れるのは申し訳ないと思ったのでなんとか少しだけ上の方へ身体をずらし、顔を近づけてそのまま自分の右の頬をくっつけた。
(やっぱり······傷のせいで熱が出てるのかも)
よし、と軽く頷き、
「痛い? 我慢してね。あの湖の水だから、きっと霊泉に近い効果があると思う」
言って、竹筒を振りまだ水が残っているのを確認すると、背中に回していた腕を戻して口に含んだ。
(嫌かもしれないけど、身体の中の邪気を浄化するなら······この方法が一番手っ取り早いはず)
竹筒を横に置き、繭に
口の端から水が零れたが気にせずに残りを口移しで流し込む。竹筒の水がなくなるまで繰り返し続け、五回目を終えた時だった。
げほげほと
「········よかった。これで、」