目を覚ますと、自分の失態に血の気が引いた。
薄暗いがお互いの顔や姿はなんとなく解る仄かな明るさの中、腕の中で眠る
腰と肩に回していた手を思わず放すと、凭れていた
状況を把握するために辺りを見回す。繭のような壁に包まれており、自由に身動きは取れないが大人ふたりが足を延ばせるくらいの広さはあるようだ。
あの時、負傷した右肩は衣が破れて濡れているが傷は塞がっていた。口から顎にかけて水が零れたような痕があり、袖で拭う。反射的に
思考をしばし停止して、無言で
「······君に、話したいことがたくさんあるのに、」
普段あまり表情の変わらない
「私は、なにも伝えることができない。だからどうか、思い出さないで欲しい。なにひとつ思い出さず、今のまま····どうか、」
祈るように、自分より小さく細い手を握り締める。どうか思い出さないで欲しい。そうすればこれ以上不幸なことは起こらないだろう。ずっと傍にいて、そのたくさんの表情を見ていられたら、それだけで。
「君の傍にいさせて欲しい」
右の手を取り、そのまま手の甲に口付けをした。あの時。渓谷の鬼が口付けた場所と同じ場所にそれは落とされる。触れた唇は少しだけ震えていた。
(心臓が飛び出そう、)
その行為も言葉も誠実さしかなく、それが彼の真実であることに心臓が煩いくらいばくばくと鳴っている。ようやく指から唇が離れ、今だとばかりに
「······平気?」
「俺は、大丈夫。眠ったら回復したみたい。公子様の怪我はどう?」
「君のおかげで、もうなんともない」
「ああ、うん、俺がなにしたか解ってて言ってるよね。でもあれしか思いつかなくて。ごめんなさい」
問題ない、と平静な声で答え、身体を起こすのを手伝って、
「ここから出て、外の状況を把握しないと」
「うん。でもどうやってここからでるの?」
「ここは巣で、この繭が獲物を入れておくための物だろう」
「近くにいるってこと、だね」
頷いて