迫りくる
ここで、終わり……なのか?
結局、僕は何もできずに、こんな訳の分からない場所で、得体の知れない怪物に
嫌だ。 そんなのは、絶対に、嫌だ――!
《諦めないで!》
突如、脳内にあの少女の声が響いた。ノア、と名乗った(気がする)機械音声。
《まだ、終わっていません! あなたの中に眠る《|力《ちから》》を呼び覚ますんです!》
力……? 僕に、そんなものが……
《強く願ってください! 生きたい、と! 変わりたい、と!》
その声に呼応するように、尻ポケットに入れていたスマートフォンが、ポケット越しに分かるほど激しく発光し振動を始めた。まるで、僕の心の叫びに共鳴するかのように。
スマートフォンを取り出すと、画面には、あの『
『
『
もう迷いはなかった。恐怖も、諦めも、心の奥底から湧き上がる生存への渇望の前には、
「――
瞬間、スマートフォンから
《|生体認証《バイオメトリクス》同期……完了》
《|精神接続《マインドリンク》、確立》
《――|顕現体《アパリション》、起動シークエンス開始!》
ノアの声なのか、あるいはシステム音声なのか。凛とした声が告げる。そして、光が収束するおと、僕の目の前に
全体的に半透明で、まるで実体がないかのようにも見える。だが、その輪郭は確かな存在感を放っていた。
ボディラインには青白い光の回路が走り、時折デジタルノイズのようなものが明滅している。
顔にあたる部分には能面のような無機質なプレートが
背中には、光でできた翼のようなものがおぼろげに形作られている。どこか未完成で、それでいて、秘めたる力を感じさせる姿。
これが……
「グオオオォォッ!?」
僕の前に現れた新たな存在に驚いたのか怪物が一瞬動きを止める。だが、すぐに敵意をむき出しにして、再び突進してきた。
「どうすれば……!」
戸惑う僕に、ノアの声が鋭く響く。
《イメージしてください! 敵を打ち払う、強い意志を! あなたの顕現体は、あなたの|魂《ソウル》の形です!》
イメージ……意志……。目の前の怪物――高木君の心の闇が生み出した存在――を睨みつけ、強く念じた。
(消えろ!)
その瞬間、僕の右手に握られていたスマートフォンが、光を発して形状を変えた。SF映画に出てくるような
引き金にあたる部分――スマホの側面ボタン――を、僕は無我夢中で押し込んだ。
放たれたのは、眩い光の
後に残ったのは、不気味な静寂と初めて自分の力で敵を打ち倒したという、信じられないような感覚だけだった。顕現体は静かに僕の隣に
「はぁ……はぁ……」
荒い息をつきながら、僕はその場にへたり込んだ。全身から力が抜けていくようだ。
《……見事です、|接続《コネクト》候補者》
ノアの声が、どこか感心したように響いた。
《それがあなたの力、|顕現体《アパリション》です。あなたの
僕の、力……。これが……。
《ですが、油断は禁物です》
ノアの声が、再び緊張を帯びる。
《今のは、彼の心の表面に現れた|澱《シャドウ》にすぎません。彼の心を
奥……?
ノアの言葉に促されるように、僕は顔を上げた。目の前には、歪んだデジタルパターンで構成された通路が、さらに暗い深部へと続いているのが見えた。
どうやら、僕の戦いは、まだ始まったばかりらしい。