目の前にそびえ立つ、おぞましい姿の《|マインドワーム《・・・・・》》。
無数のケーブル触手を
「うわっ!?」
《あれに直接触れるのはマズいかも! |精神汚染《ハッキング》される可能性があるよ!》
ノアの警告が飛ぶ。マジかよ……。
マインドワームは攻撃の手を緩めない。触手を鞭のようにしならせて叩きつけてきたり、床から黒い棘を突き出してきたり、その攻撃は多彩かつ
僕とアバターは、なんとかそれを避け、あるいは防ぎながら、反撃のチャンスをうかがう。
「くそっ、ちょこまかと……!」
スマホを操作し、アバターに光弾を連射させるが、マインドワームの硬い外殻に阻まれて、あまりダメージを与えられているようには見えない。
《ねえ、悠人! あの赤黒く脈打ってるとこ! たぶん、あそこがコアだよ!》
ノアが敵の中枢らしき部分を指し示す。なるほど、あそこを狙えばいいのか!
アバターに指示を出し、コア目掛けて突撃させようとした。だが、その瞬間、マインドワームからおびただしい数の黒い影――健吾君の負の感情が生み出したノイズたちが溢れ出し、アバターを取り囲む!
「しまっ……!」
数の暴力だ。アバターは次々と攻撃を受け、その半透明の身体がノイズで乱れていくのが分かる。僕自身の精神にも、ズキズキとした痛みが走り始めた。
《もうやめてくれ……》
不意に健吾君自身の苦しげな声が、どこからともなく聞こえてきた。
《誰も信じられない……どうせ、みんなオレのこと馬鹿にしてるんだ……》
違う! そんなことない! そう叫びたかったが声にならない。健吾君の絶望が、僕の心まで
《悠人、しっかり! 飲まれちゃダメ!》
ノアの
「負けるもんか……!」
僕は奥歯を食いしばり、スマホを強く握りしめた。僕にできることは? この状況を打開するには……?
そうだ、あの時の……!
思い出したのは、初めてアバターを起動させた時の感覚。溢れ出すようなエネルギー。あれを、もう一度……!
目を閉じて意識を集中させる。健吾君を助けたい。彼の苦しみを取り除きたい。その強い思いを、祈りを、スマホを通じてアバターへと送り込む。
《……! すごいエネルギー……! これなら……!》
ノアの驚いたような声。僕のスマホが、再び
「今だ……行けぇぇぇっ!」
叫びながら、スマホの画面をスワイプするように操作した。アバターは光の翼を大きく広げると一気に加速! マインドワームの
マインドワームも最後の抵抗とばかりに、全ての触手をアバターに向けて叩きつけようとするが、もう遅い。アバターはその攻撃を紙一重ですり抜け、光り輝く右腕――エネルギーを最大限にチャージした拳を、剥き出しになった赤黒いコアへと叩き込んだ!
ズガァァァァンッ!!
凄まじい衝撃と閃光。マインドワームの巨体が大きくのけぞり、内部から亀裂が走っていくのが見えた。それは、断末魔の叫び声を上げることもなく、ただ静かに……本当に静かに、光の粒子となって崩壊していった。まるで、健吾君の苦しみから解放された、安堵のため息のように……。
後に残ったのは、しんとした静寂だけだった。歪んでいた空間のノイズは消え去り、まるで曇りガラスの向こう側みたいに、ぼんやりと明るい光が差し込んでいる。
浄化された……のか?
全身の力が抜けててしまい、その場にへたり込んだ。もう指一本動かせそうにない。
隣を見ると、アバターも力を使い果たしたのか、ゆっくりと光の粒子になって、僕の身体へと吸い込まれるように消えていった。
《……お疲れさま。|本当《マジ》で、よく頑張ったね》
ノアの声が、心なしかいつもより優しく聞こえた。
《これで、彼を|蝕《むしば》んでいた悪いムシは消えたはずだよ。あとは……彼自身の問題、かな》
健吾君……。彼は、どうなったんだろうか。そして……意識が急速に薄れていった。まるで、深い眠りに落ちるみたいに……。