ターゲットは同じクラスの
クールでいつも一人。……正直、どうやって話しかければいいのか全く見当もつかない。いきなり「キミ、マインドワームに寄生されてない?」なんて聞けるわけないし……。僕のコミュ力じゃ、まず門前払いだろうな。
とりあえず、学校で彼女の様子を観察してみることにした。
授業中は真面目にノートを取っているけど、休み時間になるとすぐにスマホを取り出して、難しい顔で画面を
「氷川さんに興味でもあるのか? 彼女なら、放課後、駅前のゲーセンによくいるぜ? あそこの格ゲー、マジで鬼みてーに強いんだよ。“女王”って呼ばれてるくらいだし」
「女王……」
ネットの書き込みにあった通りだ。情報、サンキュ、桐生。君のそういうとこ本当に助かるよ。
放課後。僕は少し緊張しながら、駅前のゲームセンターに足を踏み入れた。薄暗い店内に、電子音と歓声がけたたましく響いている。様々なゲーム
格闘ゲームのコーナーを探すと、
氷川 玲奈さん。
画面の中では、彼女の操るキャラクターが、対戦相手を圧倒的な強さで追い詰めている。指の動きはしなやかで、無駄がない。まさしく“女王”の風格だ。観客からも「おおー!」とか「すげぇ!」とかいう声が上がっている。
でも……彼女の表情は、驚くほど
そして、対戦相手の体力ゲージがゼロになった瞬間。
「……
彼女は、吐き捨てるように呟いた。勝ったのに、喜びも達成感もなさそうだ。ただ、ひたすらに冷たい勝利。周りの観客も、その異様な雰囲気に少し引いているのが分かった。
(これが……マインドワームの影響、なのか……?)
勝利への異常なまでの執着。他者への攻撃性。噂は本当だった。
僕は意を決して、彼女に近づこうとした。何か、話しかけるきっかけは……。そう思った時だった。
次の対戦が始まった直後、玲奈さんの様子がさらにおかしくなった。相手の
「今の避けられないとか、目、腐ってんの!?」
「才能ないんだから、金と時間の無駄。とっとと辞めれば?」
あまりの暴言に、対戦相手も、周りのギャラリーも凍り付いている。そして、玲奈さんは感情のタガが外れたように、バン! バン! と力任せにゲーム筐体を叩き始めた。
「なんで……なんで、思い通りに動かないッ……!!」
完全に、自分を見失っている。まずい……!
その時、ポケットのスマホが激しく震えた。画面には『
『――
《あちゃー、本格的に暴走し始めちゃったね。これは、早くしないとマズいかも》
ノアの、いつもより少しだけ焦ったような声が響く。
もう迷っている時間はない。僕がやるしかないんだ。狼谷君の時とは違う。今度は、僕自身の意志で……!
「行くぞ、ノア!」
僕は心の中で叫んだ。
《了解! それじゃ、女王様の|ココロの中《・・・・・・》へ、ダイブ!》
ノアの合図と共に、僕はスマホを強く握りしめ、「
画面に表示された『
瞬間、ゲームセンターの
次に目を開けた時、僕はどんな世界にいるのだろうか。クールな彼女の心の中とは、いったい……。