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第14話 叫べ魂《ソウル》! 熱血《バーニング》アバター誕生!

 数ある不穏な噂の中から、特に気になっていたのは、桐生 大輝が気にしていた運動部……サッカー部での不和だった。

 なんでも、エースストライカーの先輩が、最近急に横暴になり、チームメイトに辛く当たることが増えたらしい。

 特に、大輝の親友でもあるキーパーの後輩が、その先輩から集中していびられているとか……。SNSを調べてみても、確かにサッカー部のアカウント周辺は不穏な空気に満ちている。これは、マインドワームの可能性が高い。


 大輝の友達……か。あいつ、すごく心配してたな……


 大輝を巻き込みたくない気持ちは山々だ。でも、彼に黙って事を進めるのも、なんだか違う気がする。それに、もし本当にマインドワームなら、早くなんとかしないと……。


 放課後、一人でサッカー部の練習場所であるグラウンドへ向かった。まずは、自分の目で状況を確かめようと思ったのだ。


 グラウンドの隅、フェンス越しに練習風景をうかがう。

 とても活気があるとは言い難い雰囲気だった。選手たちの動きはどこかぎこちなく、怒声ばかりが響いている。

 そして、その中心にいるのは、一際体格のいい、いかにもエースといった感じの三年生……彼が噂の先輩だろうか。彼は、一つのミスを捉えては、キーパーの生徒――小柄な一年生だ――を執拗に罵倒していた。


「おい! 今の止められただろ、ヘタクソが! やる気あんのか!?」

「す、すみませんっ……!」


 後輩は完全に萎縮してしまっている。見ていて胸が苦しくなる光景だ。


 やっぱり、普通じゃない……そう思った時だった。


「いい加減にしろよ、佐伯さえき先輩!」


 声のした方を見ると、なんと、大輝がグラウンドに飛び込んできて、後輩を庇うように先輩の前に立ちはだかっていた。いつの間に来てたんだ!?


「あ? 誰だテメェ……ああ、桐生か。部外者はすっこんでろ」


 佐伯と呼ばれた先輩は、唾棄だきするように言った。その目は、以前見た狼谷君と同じ……いや、それ以上に濁り、危険な光を宿している。


「関係なくねぇだろ! そいつは俺のダチだ! そんないびり方、おかしいって言ってんだよ!」


 大輝は一歩も引かない。彼の真っ直ぐな正義感が、そうさせているんだろう。でも……相手は普通じゃないんだ!


「……うるせぇなぁ」


 佐伯先輩は、ボキボキと指の関節を鳴らした。マズい……!


「調子に乗ってんじゃねぇぞ、一年坊主がぁっ!!」


 彼は、まるでボールでも蹴るかのように、大輝に向かって殴りかかった!


「大輝!」


 僕は思わず叫び、フェンスを乗り越えようとした。でも、間に合わない――!


 その瞬間だった。大輝の身体が、カッと眩い光に包まれたのだ。


「なっ……!?」


 佐伯先輩の拳は、光の壁のようなものに阻まれて、大輝には届かなかった。


《おっと、これは……!》


 ノアの驚いたような声が響く。


 大輝のポケットに入っていたスマートフォンが……震えている。あの震え方は……僕の時と同じ……!


《マジか! この子も、素質持ちだったんだ!》


「うおおおおぉぉぉっ!!」


 大輝は、全身から溢れ出す力に戸惑いながらも、目の前の理不尽に対する怒りを爆発させた。


《力が欲しいか!? 理不尽を、悪を打ち砕く力が!》


 どこからか響く声……いや、これは大輝自身の心の叫びかもしれない。


「当たり前だろぉぉぉっ!!!」


 大輝が叫んだ瞬間、彼のスマホが激しく発光! 僕が経験したのと同じように、視界が歪み、意識が別の次元へと引きずり込まれる感覚!


 気づくと、僕と大輝は、異様な空間に立っていた。

 さっきまでのグラウンドではない。赤黒い空の下、歪んだゴールポストや、無数の割れたサッカーボールが散乱する荒廃したフィールドのような場所。


 佐伯先輩の「心の領域マインドエリア」だろうか。


「な……なんだよ、ここ……!?」


 大輝は、突然の変化に戸惑いながらも、すぐに状況を理解しようとしている。その適応力は、さすがと言うべきか。

 そして、僕らの目の前に、佐伯先輩の歪んだ精神が生み出した「心の影」……いや、これはもっと強力だ。嫉妬や劣等感が具現化したような、巨大で醜悪なバケモノが姿を現した。


「グルオオオォォッ!」


 バケモノが、僕らに向かって突進してくる!


「悠人、危ねぇ!」


 大輝が僕を庇うように前に出た。彼の身体が、再び光を放つ!


《|魂《ソウル》の叫びシャウト、確認! アバター、起動!》


 光の中から現れたのは、燃えるような赤いカラーリングの、ヒーロースーツのようなアバターだった。両腕にはゴツいガントレットが装着され、背中には翼のようなブースターが付いている。見るからにパワフルで、熱血漢の大輝らしいデザインだ。


「うおおっ! なんだこれ!? なんか、すげぇ力がみなぎってくるぜ……!」


 大輝は、戸惑いながらも、自分の新しい力を確かめるように拳を握りしめる。


「大輝! そいつが、お前の……アバターだ!」

「アバター……? よく分かんねぇけど、こいつがいれば、あのバケモノも……!」


 大輝はニヤリと笑うと、アバターに指示を出す。いや、指示というか、もう本能で動いている感じだ。


「いっけぇぇぇ! バーニング・ナックル!!」


 大輝のアバターが、炎をまとった拳をバケモノに叩き込んだ! 凄まじい威力だ。僕のアバターとは、また違うタイプの力……!


「僕も行くぞ、大輝!」

「おう、悠人! ダブルでぶっ飛ばすぜ!!」


 僕と大輝のアバターが、並んでバケモノへと立ち向かっていく。僕らの反撃が、今、始まる――!



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